転生したら邪神にされたんだけど、まあ、圧倒的に最強だからいいよね?
只野誠
【第一話】━━ 楽しめ。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
私は幼い頃より父に「どんな時でも人生を楽しめ」と言われて育てられた。
その父も私が高校に入るのと同時に女を作って逃げた。
母? 死んだのか生きているのか、それすら知らないし、写真で顔を見たのも数えるほど。
父は母のことは何も話さなかった。
今はそんなことどうでもいい。これからのことが大事だから。
高校生になったばかりの私がどうやって一人で生きたらいいのか、それを考えなくてはならない。
とりあえず学校行ってバイトして、バイトして、バイトして、バイトする。
それしかない。それしか思い浮かばない。
もしくはパパ活?ってやつ? それは死ぬか生きるか、という時の最終手段かもしれない。
さしあたっては学校から帰ってきたところだけれども、今からバイトに行かなければならない。
今日のバイトはファミレスのホールだったかな?
掛け持ちしすぎてなんのバイトだったか確信が持てなかったのでスマホで確認してっと。やっぱり今日はファミレスだ。
ゆっくりしてられう時間もないので、とりあえず高校の制服のまま外に出る。着替えないのかって? そんなもの買う余裕はないよ。
オンボロアパートと出て、路地の対面にある駐輪場に行こうと道に出たとき、私は衝撃を受けた。
そして、宙を舞った。
視界がスローモーションになり、自分を跳ね飛ばした軽トラを視認することができた。
軽トラの運ちゃんも、ああ、やっちまった! という表情をしているのも確認できるほどだ。
たしかにね、確認せず急いで道に出た私が悪いんだけど、でも、こんな路地をそんなスピードで走るなよ、とは言いたい。
いや、いやいや、まだ死にたくない。
宙を舞いながら、必死にあがく。その時、思いだした言葉は、やっぱりこれだった。
─ どんな時でも人生を楽しめ ───
いや、こんな状況で楽しんでられるかって! 私は生きるんだ!
なんとか空中で体勢を立て直して足から着地するように体を捻る。
文字通り命を燃やしてなんとか足から着地する。
思った以上に綺麗に着地することができた。
新体操をやったことはないけど、今の着地なら満点もらえる自信はあるね。
けど、着地した場所が悪かった。
大通りまで飛ばされてた。そりゃそうだよね。このボロアパート、大通りに一応は面してるんだから。
だから、夜はうるさいのよ。トラックとかよく通ってるんだ。
そう、良くトラックが通るんだ。この通り。
着地したところに、今度は軽トラではなく十トントラックが突っ込んでくるのに私は何とか気づくことができた。
ああ、これは間違いなく死ぬな、と確信できてしまう。
既に全身が軋むように痛いのに追い打ちをかけてこないでよ。いや、これはダメ押しか?
だけど、私は生きるんだ。
どんな時でも、こんな絶体絶命の時でも楽しんでやるんだ。
私は命を懸けた大博打に出る。
大地を大きく踏みしめ深く腰を落とし、十トントラックに向かい震脚と共に拳を突き出した。
命を懸けた震脚は大地を揺るがし、それと共に突き出した拳はすべてのものを突き返す。
そんな万能感を得ていた。
そうして私は死んだ。
当たり前だ、ただの女子高生が十トントラックにかなうはずがない。
血迷わなければ十トントラックはどうにか避けれたかもしれない。
入院することにはなっただろうけど、死ぬことはなかったかもしれない。
人生を、刹那を楽しんだ結果、命を懸けた博打に負け、私は死んだ。
で、どういうわけか私の前にギャルがいる。
死んだと思ったらギャルがいた。何を言ってるのかわからないと思うけど、実際に目の前にギャルがいるんだからそうとしか言いようがない。
「あの…… あなた誰なんですか?」
と、聞くとそのギャルは初めて私を見た。
「ん? あーし? あーしはね、んー、こことは別の世界で邪神やってたんだけどー、飽きたんで、この世界のギャルになりに来ましたー? 的な? ギャルってこんな感じいいのかしらね? 意外と難しい?」
「は、はあ?」
その言葉に私は理解が追い付かない。
邪神? 邪神に飽きたから、ギャルになる? 意味がわからん。
「んで、一応めんどい決まりが色々あってぇ、あーしがこっちの世界来るためには、ユーちゃんが代わりに向こうの世界にいかないとダメなんよ」
元邪神のギャルはめんどくさそうにそう言った。どうも自称元邪神のギャルはスマホをいじることに必死になっているようだ。いや、あれは使い方がわからなくていろいろいじくりまわしているだけか?
ただ私が驚いたのは、このギャルモドキが私の名前を知っていたことだ。まるで本当の神みたいじゃないか。
「え? 私の名前知ってるんですか?」
「一応、これでも元神だしー」
本当に邪神だったとでも言うの?
格好だけならどう見てもギャル…… なんだけど、どこかぎこちない。
ただ何となくわかってきた。
「あー、あれね、異世界転生ってやつね?」
トラックに跳ねられたらそうなるもんなのかしらね?
「そうそう、それそれ。話が早くて助かるぅ! じゃあ、あーしはもう行くから、そっちも邪神ライフ楽しんでね」
「邪神ライフ?」
で、視界が暗転して気づくと私は高所にいた。
どこまでも遠くまでも見渡せる。海でもないのに水平線が見えるほどの高所に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます