07話
「最近はけいちゃんが来ないね、もう夏休みになるのになにかあるのかな?」
「家でも挨拶ぐらいしかできない、すぐに部屋にこもってしまうんだ」
この前は慎に頼んで動いてもらったが駄目だった。
歩くことさえどうでもいいらしくもう意地になっているところすら見られていない。
「もしかして弱っているところを見られたくないからなのかな? 私でも今年の夏は暑すぎるって感じているぐらいだから不味いかも」
「喜古に頼みたい」
自分のために動いてもらおうとしているわけではないからノーカウントだ。
「わかった、じゃあ今日もお昼で終わるから行ってみるよ、家以外の場所なら吐いてくれるはずだから」
「というわけでこれを受け取ってほしい、そのために買ってきたんだ」
「おお、ありがとう。だけどいいよ、まだどうなるのかはわからないからね」
俺が礼をしようとすると何故すぐにこうなってしまうのか。
素直に受け取ってもらえないことが多い、別に変なことをしているというわけではないのだから受け取ってもらいたい。
心配だということなら目の前で買うから安心してもらいたかった。
「よう」
「慎か、部活はいいのか?」
放課後になってからも帰らずに椅子に座っていると慎がやって来た。
「今日はないんだ、だからこうしてゆっくりしていられる」と口にして彼はなんとも言えない笑みを浮かべる。
「喜古にけいのことを頼んだ」
「なんかそれであっさりなんとかなっても複雑だな」
「同性と異性ということで仕方がない」
「まあ……そうか。まあいいや、暇だからたまには俺の家に来いよ」
「わかった」
そういえば一人で彼の家に上がらせてもらうことになるのは久しぶりだ。
それだけ一人ではなかったということだが、あの二人がいるときは空気を読んで離れたくなってしまうから上がらせてもらうときは一人の方がいい。
「ほい、焼きそばパン」
「作ったのか」
「ああ、父さんがなんか最近は気に入っていてな、母さんに甘えた結果なんだ」
「なら俺が貰うのはよくない」
帰宅したときに数がわかりやすく減っていたら悲しいだろう。
好物なら性差は大してない、勝手に食べられていたら気になるものだ。
「気にするな、面倒くさがりの母さんが一気に作ったから結構やばいんだよ、だから食べてくれると助かる」
「そうなのか」
夏で油断をしているとすぐに傷んでしまうことを知っている。
駄目だ、こういうことを言われたらそれなら……となってしまう。
「おう、だからほら、食べようぜ?」
「食べさせてもらう」
「おう」
木村母が作ってくれた焼きそばは母が作ったものとはまた違った味だった。
それでも焼きそばということでほとんど変わらないし、美味しいからすぐに食べ終えた。
「美味しかった」
「母さんも嬉しいだろうな、素直に受け入れないけどやっぱり違うからさ」
丁度いいからぶつけてしまうことにしよう。
「慎、礼がしたい」
「そんなのいいよ、俺が作ったわけじゃないしな」
「これまで世話になった分を返したい、もちろん、一回だけじゃ足りないぐらいなのはわかっているが、返したい」
こういうときに抵抗をすると余計に酷くなるということを慎はわかっている。
つまりそういうところを利用しようとしているわけだからノーカウントとはならないものの、なにか損をするというわけではないから無視をした。
「んー別にてつがなにもしてくれなかったというわけじゃないしな」
「一回か二回ぐらいは動けたかもしれないがそれだけだ、俺と慎では全く違う」
「おいおいおい、今日はどうした――あ、けいちゃんといられていないから不安定なんだな? はは、てつも変わったなぁ」
「それとこれとは別だ」
「いいからほら、まだまだ時間があるんだから休んでいけよ」
昼に終わろうといつも通りの時間に終わろうと休めているから問題はない。
だが、再度言ってみても「気にしなくていい」と返されて黙るしかなかった、俺がいつもけいにしていることだからだ。
もちろん、躱したくて適当に気にしなくていいと口にしているわけではないものの、自分がされてみるとその言葉の威力がわかる。
それでも踏み込める人間とそうできない人間の違いがよくわかった気がした。
「なあてつ、俺はてつが積極的に俺以外の存在と一緒にいようとしていて嬉しいよ」
「そんなに表に出ていたのか」
自分の方からいくことはほとんどなかったがあの二人が来てくれることで喜んでいたことには変わらない。
ただ、わかりやすく表に出ていてなにも知らない存在にまでわかられてしまったとしたら恥ずかしいとしか言いようがない。
あの純粋な俺のままでいられたら、自由にやられていなかったら、そのようなことを何度も考えてしまう。
「いや、中学のときは酷かったかだろ? だからそのときと比べたらわかりやすいというだけだ。ただなーなんだか寂しくもあるんだよなー」
「寂しいか」
「そうだよ、てつが悪いわけじゃなくて自分に原因があるということはわかっているんだけどなかなかなぁ」
「遊びにいったときも四人だったが」
「そういうことじゃねえんだよなぁ。いやでも、本当にいいことだからてつは気にしないで仲良くしてくれればいいぞ」
と言われても、といつもけいはなっていたということになる。
結局、礼をするはずがこの件でも助けられてしまったということで益々返すことが難しくなってしまったのだった。
「てつさん」
「けいか」
それにしてもどうしてこう……風呂に入っているときに来るのか。
扉があるかどうかで違うということなら部屋の外から話しかけた場合でも変わらないのに何故なのだろうか。
「てつさんが喜古先輩に頼んだの?」
「ああ、心配だったから喜古に頼んでけいのところにいってもらった」
「そうなんだ」
でも、喜古の方から出してきたことだったから俺がいちいち頼んでいなくても結果は変わっていなかったと思う。
急に来なくなれば誰だって心配になる、仲良くなくてもそうなのだからある程度の仲なら尚更のことだ。
「もう出る」
「それなら歩きながら……いい?」
「ああ」
やられてしまわないようにしっかり拭いてから服を着て洗面所から出るとけいが「ごめんね」と謝ってきたので首を振ろうとしてやめる。
「自由だが部屋にずっといられると心配になる、少なくとも両親にはちゃんと顔を見せてやってほしい」
「うん」
ただ、首を振ったり気にしなくていいと吐くことがどれだけ楽だったのかということがいまよくわかった。
「言いたいことはそれだけだ、いこう」
「うん」
ソファに座ってテレビを見ながら菓子をむしゃむしゃ食べていた母に説明をしてから家をあとにして歩いていく。
昼と同じような温さではあるが汗をかくようなことはないレベルだ。
「今日はこの前みたいに逃げずにいられたよ」
「そうか、喜古は何時までいたんだ」
「十五時ぐらいまでかな、普通にお喋りも楽しんじゃった」
「いいことだ」
実際はそんなこともないだろうが慎からすれば悔しい結果ということか。
「でもね、そうできたらできたでなにをしていたんだろうって後悔もしたんだ」
「それは部屋にこもっていたことか」
「うん、アホだよね」
「アホじゃない、さっきも言ったが自由だ」
挨拶すらもできていなかったのならともかく挨拶はできていたのだから過剰すぎた。
恥ずかしいことではないがけいからすれば余計なお世話というやつだろうから謝っておく。
「でも、心配……だったんでしょ?」
「それはそうだ、だが、自由なことには変わらない。つまり、勝手に心配をする方が悪いんだから気にしなくていい」
「わ、悪いってそれは悪く考えすぎだよ」
「そうか。とにかく、けいとまたこうして話せてよかった」
歩くことが目的ではなかったのかまたあの場所で足を止めることとなった。
でも、今日は逃げたりはしないでそこにいてくれている、なんならこちらをガン見してきているから帰ってしまうかもしれないなどと考える必要はない。
「……最近は夜も話せていなかったから寂しかったんだ」
「部屋でなにをしていたんだ」
「課題が出ている日は課題をして、それ以外の日はベッドでずっと休んでいたよ。でもね、そうやっていれば寝られるというわけじゃなくて、体育とかがあった日でも関係ないとばかりに寝られないんだよ? だからあの狭い世界に入り浸ってしまうのはやめた方がいいよ」
外やリビングで過ごさないときは部屋で過ごしていたから俺には当てはまらないことだった。
よくも悪くも優しさが突き刺さることも多かったし、いまよりも余裕がなかったから一人の時間が欲しかった。
歩くことが好きだと言っても流石にずっと歩き続けることはできない、なにより心配をかけたくなかったから逃げ場所が部屋しかなかったのだ。
「それは元々住んでいた家のけいの部屋が大きかったというのも影響しているんじゃないか」
「ううん、だっていまの家の方が大きいぐらいだもん、完全に自分のせいだよ」
「理由がはっきりしているならもう同じような失敗をすることはない」
「うん、二度と、とは言えないけどどうすればいいのかはわかったから大丈夫だよ」
新しい家、人、学校、ある程度育った状態だからこその難しさがある。
同じ土地に住み続けられていても小五、小六及び中学時代はやられそうになった俺が同じようにやらなければならないとなったら引きこもりになっていた自信がある。
何故ならなんとかやれていたのは慎がいたからで、その慎がいない場所で一人でやっていかなければならないのだからそうだ。
母だって慣れない土地で一人で頑張らなければならなかったわけだから勝手な妄想とはならないのだ。
「それでね? えっと……」
夜でも本当の真っ暗闇というわけではないからけいの顔が見えるが、見えてもわからないことばかりだった。
「私、てつさんのことが好き……かもしれない」
これはまたなんとも……極端だ、顔を見せたら見せたで積極的だ。
「俺だけじゃ決められない、少なくとも両親の許可がいる」
「……やっぱり駄目だよね」
「両親次第だ」
言い訳をして逃げているわけではないことはわかってもらいたい。
だってどうしたって相手は妹ということで親に言わなければならないだろう。
義理でもだ、最近、家族になったからこそだ。
「ただいまー……あれ、今日はいい匂いがしない」
母は毎日、同じような時間に帰宅するからありがたい。
「悪い、だが父さんが帰ってきたら聞いてほしいことがある」
「いいよ、どうせ後はご飯を食べてお風呂に入って寝るだけだからね」
「とりあえずそれを聞いてもらうために待っていた、夜ご飯は俺が作るから待って――」
ここでもやはり止められるかと固まっていると「やっぱりいいや、今日はなにか頼んで食べよう」と言われて復活した。
家事をやらせてもらえないよりはマシだ、それになにより、こんなことは滅多にないからワクワクしている自分がいる。
美味しい料理というのは誰だって、どんな性格の人間にだってそうさせてしまう力がある。
「母さんと父さんがそれでいいなら」
「当たり前だよ、というか、たまにはいいでしょこういうのも」
母は腕を組んでから「お刺身を一つ買って食べることだって過去の私達からすれば贅沢な行為だったんだから安定したいま、それ以上の贅沢な行為をしたって罰は当たらないよ」と。
「あ、けいは部屋だ」
「最近のことを考えればわかるよ、あと、話がけいちゃんのことでもあるってね」
「なら先に言っておくがけいが好きだと言ってきた」
「えぇ、なんで先に言っちゃうの、それじゃあつまらないじゃん」
「いや、つまらないとかはどうでもいい、ちゃんと向き合うためにも両親に話しておく必要があると思ったんだ」
こそこそと仲良くしたくない、やるなら堂々とだ。
一つ気になるのは元いた場所に存在している男友達のことだ。
ないだろうが無意識に重ねていて無意識に同じように行動をすることを願われてもどうしようもない。
一人なら休む、歩く、二人とか三人ならとにかく相手のしたいことを聞いて優先するということしかできないからすぐに冷めてしまうだろうな。
母と会話をしたり考え事をしている間に父が帰宅、けいは依然としてこもったままではあるものの、言わせてもらった。
結局、考えさせてほしいということでこの日は進まないままで終わる。
「……寝るか」
その件とは関係ないがついつい夜更かしをしてしまって翌朝に響いた。
それでもちゃんと朝ご飯を食べてから学校へ、学校に着いてからは賑やかな音をBGMにゆっくり寝ていた。
変わったのは三時間目前の休み時間だ、いきなりやって来たけいに腕を掴まれて教室を出ることになった。
どうしたのかと困惑している間に空き教室に連れ込まれて抱きしめられる、また不安になってしまったのかもしれない。
「……お父さんから聞いたよ」
「ああ」
まだどうなるのかなんてわからないのに父もお喋り好きで困ってしまう。
母は意外とこういうことを黙ったままでいてくれる、だから夏に弱い件だって勝手に言われて知られたりはしなかった。
「うわあ、え、そんなこともしちゃうんだ?」
「き、喜古先輩……」
向き的にこちらからは見えていたからなにも驚くことはなかった。
「いやなんかやたらと慌てた感じで教室を出ていくから追ってみたらこうなるとはねー」
「い、意地悪をしないでください」
それよりけいは慌てたようなところを見せつつも抱きしめたままなのはいいのだろうか。
弱いのか強いのか、恥ずかしがりやなのかそうではないのか、まだまだわからないところばかりだ。
「意地悪とかじゃなくてただ単に悔しいだけだよ」
「それなら喜古先輩が思い切って木村先輩を抱きしめればいいんですよ」
「誰だってできるみたいな考え方はやめてよ、それができたらどれだけ楽か……」
慎の方から仲良くしたいと聞けたのはけいに対するあれだけだ。
それからも特になかった、まあ、俺らと違って部活で忙しいというのがあるからなにもやっていない存在とはまた違った結果になることはわかっているが。
「大丈夫です」
「え、なにが?」
「はは、またこのやり取りをしましたね」
「はは、そうだね……っと、とにかくおめでとう」
「まだ付き合えてはいないんですけどね」
数時間が経過したぐらいではなにも変わらなかったのか朝もなにも言われなかった。
適当にされたくはないから一か月ぐらいは考えてくれていい、けいはもどかしいだろうがなんでも我慢が必要だ。
「えー付き合えていないのに抱きしめちゃうの? やらしい子だねー」
「やらしい人間だと思われてもどうでもいいです、私はてつさんが好きなんです」
「うっ、強いなー……」
とりあえずそろそろ離してもらいたいところだった。
表には出ていないだけで内はこんなのだ、となれば、異性に抱きしめられ続けたらどうなるのかなんて言うまでもない。
「なんか暑くなってきた……」
「岩二君の体温が上がっているんじゃない?」
「わ、本当だ」
本当だとわかった瞬間に離すということをしてくれなくて意地が悪い存在だった。
でも、よかった点は夏休みまでに弱ることにはならなかったことだ。
それはけいが参加してくれていたからだし、それならやりたいことをやらせておくぐらいではなければ不公平かもしれない。
「どれどれー? あ、あれ? 駄目な感じ?」
「木村先輩にしてください」
「うわーん! けいちゃんが意地悪をしてくるから帰るー! なんてね、ははは」
「笑っている場合じゃないですよ」
「む、可愛くなくなっちゃったなー」
けいは「どうせ可愛くないですよ」と吐いて少しだけ力を込めていた。
普通に対応をできているようでできていない、やはりほとんどは隠しているということだ。
だからやはりそういうところを出して潰れないようにしてもらうためにも両親が許可をしてくれるのが一番だった。
仮にそこが無理でもけいが本気なら受け入れるが。
「んー最初の頃のけいちゃんに戻ってもらいたいような、真顔の岩二君に抱き着いて満足しているけいちゃんを見ていたいから戻ってほしくないような」
「真顔じゃないです、ほら見てください」
「んー照れている感じはしないね?」
「て、照れてくれているはずです」
照れているとかいないとか、そんなことはどうでもいい。
「両親が許可をしてくれなくても受け入れる」
「おお、漢だ」
相手にばかり動いてもらうのは違うからこんなものだ。
「な、なんで喜古先輩がいるところで言っちゃうのっ」
「えぇ、抱きしめたぐらいなのになんでそこでその反応?」
「き、喜古先輩は戻ってください!」
「はーい」
盛り上がっていることから多分、問題ではないだろうからまずは両親の答えを聞くところから始めるべきだった。
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