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Nora_
01話
「再婚しようと思うんだ」
「そうか」
中学一年生になるというところで両親が離婚をした。
好きになったとしても延々に一緒に過ごし続けられるわけではないということをわかっていたから離婚をするという話を聞いたときそのときもいまみたいに返したことを覚えている。
「てつも大きくなったからそろそろいいかなって思って」
「それで母さんが楽になるならこっちのことは気にしなくていい」
「離婚をしておきながら言うのもあれだけどそういうわけにはいかないよ、てつは大切な一人息子なんだからね」
「とにかく、自分のことを一番に考えて動いてくれ」
実は少し遅い時間に起床したのもあって余裕がないということが影響していた。
平日で学生となれば学校に登校しなければならない。
作ってくれていたご飯を残すわけにもいかないから少し急いで食べて家をあとにした。
外はなんとも言えない気温だった。
食べたばかりなのに走ることになって微妙な状態になったが、教室に着いたらこれは自分が悪いから抑え込んで普通ですよと言わんばかりの態度で椅子に座って時間が経過するのを待った。
窓際ということが別になにもないのに目のやり場に困る俺からすればありがたいことだ。
「てつ、今日は遅かったな」
「ゆっくり寝すぎた」
朝からよくやるな。
「はは、珍しいこともあったもんだ」
「廊下に行こう」
「はは、てつは廊下が好きすぎるな」
余計なことを言わないで嫌なら断ればいい。
誰も見てはいないが教室で話しているところを見られたくなかった。
何故こうなってしまったのかがわからない、人と積極的にか会話をしてこなかったからだろうか、わからないが面倒くさいところだとはっきりと言える。
「どうすれば教室が得意になる?」
窓の向こうを見て過ごすという作戦は窓際から離れた瞬間にできなくなってしまう。
その場合は廊下に出て過ごすしかないが、極端に暑さや寒さに弱いから矛盾しているとしてもあまり選びたくはない方法だった。
それに逃げ続けるのは精神的にもよくない、自分のせいで面倒くさいことになっているというのは流石にアホすぎるからなんとかしたい。
「んー得意になりたいなら友達を増やすことだな」
「友達とか無理だ、この歳まで慎しかいない」
「逆に考えれば俺と長くいられているんだから余裕だろ?」
「普通の人間だったらそうだ」
「てつだって普通の人間だろ」
本当にその通りであったのならここまで苦労はしていなかったのだが。
「あ、そういえば言い忘れていたが――」
「慎ー教科書貸して」
「わかった、ちょっと待っていてくれ」
初めて見る顔だ、最近になって友達になったのかもしれない。
窓の外に意識を向けてこちらも慎を待っていると「慎のお友達だよね?」と聞かれて頷く。
「大きいね」
「慎の方が大きい」
「え、そうなの? 見た感じ、君の方が大きい気がするけど」
「そうだ」
身体測定がある度に確認をしてくるついでに教えてくるから間違いない。
あと、仮に勝てていてもそれ以外で全敗なら意味がないというのと、活かせなければ邪魔でしかないからこのぐらいでよかった。
「待たせたな、ほらよ」
「ありがとー」
コミュニケーション能力が高そうな女子が去った後、慎がこちらの腕を突きながら「あの子で練習をさせてもらったらどうだ?」と言ってきたから首を振る。
練習台になってもらおうとするなど間違っている、利用されるのはいいが利用するのは嫌だ。
借りを作りたくないというのもあった、まあ、彼と長く一緒に過ごしている時点で実はそんなことばかりなのだが……。
「まあいいか、それよりさっきなんか言おうとしていなかったか?」
「ああ、親が再婚をするんだ」
「へえ、動いていたんだな」
「母さんが楽になるならそれでいい」
「なんか心配になるよ」
何故そうなるのかがわからないが聞くことはしないでまた窓の向こうに意識を向ける。
気温はともかく天気はいいから気分も悪くならない、雨で灰色に染まっていたりすると大袈裟でもなんでもなく弱るからこのままであってほしかった。
「なにかあったら言えよ? 俺にできることならしてやるから」
「ああ」
「じゃ、ちょっと疲れたから教室に戻るわ」
いつまでもここにいるわけにもいかないから一緒に戻る。
教室に関しては席替えなんかがあってから考えようと決めた。
いますぐに変えられるのなら何度も言っているようにこうはなっていないからだ。
それに授業が始まってしまえばそこまで気にならないというのは……。
「結局、一人でいるからなのか」
「だろうな」
それでも自分のために友達を作ろうとするのは違うからやはり先延ばしにするしかなかった。
「初めまして――」
色々と話をしてくれているが正直、名前とかはあまり関係なかった。
母が再婚相手として選んだのであれば父親となるし、父さんと呼べばいい。
「ほら、けいも挨拶をして」
敢えて子持ちの人を選んだのか、それとも、たまたまなのか、どちらにしてもそれなりに勇気のあることを母も父もしたようだった。
高校生の男がいるということを知っていたのならいいがもしそうでなかったのであればこうなるのが普通だと思う。
それよりもこっちに来ることになったということは転校をさせることになってしまったということで母が楽になればいいとだけで片付けられる件ではなくなった気がした。
「けい、僕達はお買い物に行ってくるね」
そして初対面の相手のところに残していくという鬼畜な行為をする父だ。
「座ればいい」
「は、はい」
「敬語じゃなくていい、いま飲み物を出す」
「あ、ありがとうござ――あ、ありがとう」
いや、余計な心配というやつだとすぐにわかった。
飲み物を出した後は部屋に戻ったりせずに窓の前に座って外を見ていた。
時間つぶしのためにしているわけではなくて単に趣味だ、見ていることが好きだからしているだけでしかない。
「あの」
「ああ」
「てつさん……だよね? ……ふぅ、てつさんはどうかは知らないけど私は連れて行かれて見たことがあったんだ」
「そうなのか」
変なところを見られていなければいいが……。
それはそうと母も意地が悪いことをする、少しぐらいは再婚を決める前に話してくれていてもいいと思う。
反対をされると思っていたのだろうか? 無茶苦茶なことでもない限りは拒絶をしたりはしないのにわかってもらえていないみたいだ。
「正直、遠くから見ただけだと怖い人に見えた――あ! だけどこの少しの時間で話してみないとやっぱり想像と合うことはないって……うん」
「気にしなくていい」
怖い、なにを考えているのかはわからない、そのようなことは言われる度になにかが削れていくが初めてというわけではないから別に彼女が悪いわけではなかった。
人からのイメージが全てだ、それで実際に他者的にはそうなのだからでもなどと言い訳をしたところで意味はない。
「迷惑をかけるかもしれないがこれからよろしく頼む」
「そ、それはこっちが言いたいことだよ、よろしくお願いします」
なら……どうするか。
緊張しているだろうからなんとかしてやりたいが面白い話なんかをしてやることができない。
こういうときこそ慎にいてもらいたいものの、部活があるから頼れても夜になる。
喋りかけて気を遣わせるぐらいなら黙っていた方がマシなのかもしれない――と考えていたのに、彼女の方から積極的に話しかけられてあっという間に両親達が帰ってくる時間となった。
「大丈夫そうだね」
「それは俺次第だ、俺が失敗をすれば途端に上手くいかなくなる」
「そう悪い方に考えないの、そこがてつの悪いところかな」
「とにかく無理をしないでほしい」
「大丈夫だよ、これからはみんなで協力をしてやっていくんだからね」
なんとも言えない時間が終わったからこのことを送ってから慎の勢いがやばくなった。
ただ、あの子的にも頼れる存在がいてくれた方がいいだろうからと誘ってみる、するといますぐに行くということだったので外に出て待っていた。
「おいおい、外で待っているとか彼女か?」
「違う」
「って、連れてきてくれないと流石に気まずいだろ」
「わかった」
やはり強いのかリビングでのんびりとしていたあの子……はおかしいか、けいに嫌なら断ればいいと言ってから誘ってみると嫌ではないみたいだったので連れて行く。
「友達の木村慎だ、漢字は……えっと、あ、これだ」
スマホは相変わらず操作が難しい、慣れない。
それでもなんとか慎に教えてもらって慎にメッセージを送ることなんかはぎこちないながらもできるようになった。
「あのときてつさんと一緒にいた人ですね」
俺が一人でない場合は母か慎といる時間しかないからそこまでおかしなことでもない、が、友達といるときは浮かれてしまっているかもしれないからできればあまり見られたくないところではある。
「知っているのか?」
そして当然、知られていたとなれば彼的にもこう聞きたくなるというものだ。
「本当にたまたまでしたけど、はい」
「そうか、あ、また会うかもしれないからよろしく」
「よろしくお願いします」
少しの間、黙っていたが「じゃ、俺はこれで帰るよ、腹が減った」と彼が前に動かした。
「それなら付いて行く、歩くことは好きだ」
「いやだから彼女かって、男子に送られるような人間じゃないからやめておくわ」
なら一人で歩いてこよう。
まだ二十時前だからそう遅い時間というわけでもない、戻るついでに歩いてくることを言ってほしいと頼もうと思ったが自分でちゃんと言ってから家をあとにした。
正直、夜の方が好きだ。
空気も中途半端なソレではなくなるし、人の目を気にしなくていいのは大きい。
でも、それこそ友達ができてしまえば夜よりも学校にいられる昼の方が好きになってしまいそうな単純さがそこにある。
まあ、どんな形でも学校を好きになれた方が得なことが多いから俺的に恥ずかしいことではなかった。
「はぁ」
何故この行為がここまで落ち着くのか。
今日は理想とは違う雨模様だというのにずっとここにいたくなる、見ていたくなる。
「あ、また会ったね」
「慎は教室だ」
「うん、通ってきたから知っているよ」
一応、彼女も好きかもしれないからと誘ってみた、すると「窓の外を見るのは授業中だけでいいかな」と断られてしまう。
これはほぼ初対面だからとかは関係ない気がした、やはり怖い……のかもしれない。
「慎と
岩二てつ、岩二けい、けいからすれば元々の名字の方がよかったかもしれない。
「慎のおかげだ」
「私は去年の冬から関わらせてもらっているけど慎って優しいよね」
「ああ」
冬からだったのか、まあ、慎にだって見られたくないところはあるか。
別に大事な話をなにもしてくれないというわけではないし、したくないということならそれでいいと思う、大事な話を全て教えてもらえるようなことはできていないからだ。
とはいえ、慎しか友達がいないから来てほしいというのは強く存在しているため、あまり放置もしてもらいたくなかった。
最悪、一人なら一人なりの過ごし方をするとしてもだ。
「だからね、少し調べただけでも慎のことを気にしている女の子はいっぱいいるの、岩二君は気づいているかな?」
「そういう話をしないからわからない、悪い」
「謝らなくていいよ」
会話をすることが嫌いというわけでもないのに、他者を拒絶しているというわけでもないのに友達が増えないということは見た目や雰囲気なんかに問題があるということになる。
無意識に出してしまっているものについては抑えられる自信がない、また、見た目なんかもこれ以上は変わらない。
変えたくないというわけではなくて整形なんかをしない限りは変わらないから無理なのだ。
「まだ話し始めたばかりだけど一つだけわかったことがあるんだ」
「俺のことか」
「うん、それは普通に相手をしてくれるってことだよ」
「無視はしない、悪口を言ってきている相手の場合でも無理だからできないと言った方が正しいかもしれない」
「そっかそっか、教えてくれてありがとう」
きっとなんの役にも立たないだろうが悪いわけではないから気にしないでおいた。
会話がなくなったから窓の向こうに意識を戻してすぐに予鈴が鳴ったから教室に戻る。
授業、窓の外に意識を向けるを繰り返しているだけで放課後になった。
予想外のことが起こったのは帰ろうとしていたときのこと、学校内でけいと出会って固まってしまったのだ。
「あ、そういえばてつさんに言っていなかった」
中学生のように見えたが高校生だったのか。
待て、ならなんで朝は別行動をした? 校門のところで別れるならともかくとして、起きたときにはもう家にいなかった。
なんらかの問題があって既に避けられているということか、そして馬鹿な俺はそれに気づけていないということになる。
「あれっ、おいてつ、なに学校に義理の妹を連れ込んでいるんだよ」
部活があっても少しだけゆっくりしてから下りてくる慎も今日は早めに下りたきたらしい。
まあ、だからこそ余計に微妙な状態になっているわけだが、別に彼が悪いというわけでもないからその点には触れずにけいのことに意識を向ける。
「制服を見ればわかる」
「ん? あー……中学生じゃなかったのか」
「はい……って、そんなに幼く見えますか?」
「童顔だからか、てつもそう思うだろ?」
「気にしなくていい」
人の顔についてどうこうと言い始めるような人間ではない。
「質問の返しになっていないけどな。とにかく、改めてよろしく」
「よろしくお願いします」
出たところで別れて今日は寄り道をせずに帰ることにした。
そうなると当然、同じ場所に向かって歩いているけいも近くにいるということになるが気まずいとかそういうのはなかった。
「明日、てつさんの教室に行ってもいい?」
「ああ」
その話を後で慎にもしておこう。
慎経由であの女子とも仲良くなれたら慣れない場所でも全く違うはずだからいい方に変わるように願っておく。
「あ、だけどやっぱり気になるから廊下で話せた方がいいかな」
「俺は廊下が好きだ」
「ならよかった、教室が好きなのにいちいち出てもらうというのも微妙だからね」
なんとなく意識を向けてみるとふわっとした笑みを浮かべていた。
これを女子特有だと片付けてしまうのは……いいのだろうか? 単純に俺が異性と一緒にいられていないからわかっていないだけの可能性もある。
「な、なにかついているのかな……」
「違うから気にしなくていい」
「でも、じっと見られていたら気になるよ」
「悪い」
気になるだろうから家に着いたら荷物を置いてすぐに家を出た。
部屋にこもっているタイプではないのもあるが……今日のこれは逃げている。
「おお、これはどんな偶然だろう」
「追ったわけじゃない」
まさかこんなことになるとは、大袈裟に言ってしまえば負の悪循環だ。
情けない人間が逃げるから短期間にやらかしてしまうのだ。
「はは、わかっているよ。いやでも、初めて岩二君を見た日からなんとなくいるかな~と思って廊下を歩いていたけどさ、こうして学校外で出会うとなんか違うよね」
「話しづらいというのはないが誤解をされそうで怖い」
「そんなに面倒くさい人ばかりじゃないよ、仮に遭遇しても『あの人だ』となるぐらいで終わりだよ」
離れればいいのに離れづらい、求められていないのに何故だ。
そして更に微妙な状態にしてくれたのはけいの存在だった、気づけば横に立っていて「てつさんのお友達さんですか?」などと聞いている。
喋り方は似ているから聞くだけ聞いているなら姉妹の会話には……見えないか、片方が敬語の時点で違うのに馬鹿だ。
「てつさん?」
「慎の友達だ、名字や名前は知らない」
「あ、そうなんだ、約束でもしていたのかと思ったけど違うんだね?」
「慎ぐらいしか誘えない」
「それはてつさんが――」「それは君が――」
変なところで重なってどうぞと譲り合っていた。
勝手に想像で言わせてもらうが、俺が壁を作っている、線を引いているなどと言われてもどうしようもなくなるからやめてもらいたかった。
真っすぐで痛くなるぐらいに正しい、だが、深くまで刺さりすぎて動けなくなる。
「あのさ、別れる前に聞きたいんだけどその子は?」
「最近義理の妹になった」
「そうなのっ? じゃあ慣れない土地に住むことになったということか、偉そうかもしれないけど負けないで頑張ってね」
「ありがとうございます。でも、てつさんのおかげで木村さんとも一緒にいられると思うので大丈夫です」
「む、ここにも慎を男の子として見始めそうな子がいるのか……」
流石にそれは早すぎるだろう。
「大丈夫ですよ」
「え、なにが?」
「いえ、大丈夫です」
そしてけいはここでも謎の強さを出していた。
ただ、答えにはなっていないからなにが? と聞きたくなる気持ちはよくわかった。
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