第45話 迷宮で鍛錬してみた

 翌日から俺達は迷宮に潜る。

 決闘当日までは引きこもり、ひたすら鍛錬を重ねていくつもりだ。

 街には聖騎士がおり、なるべく会いたくないから迷宮内で生活することになった。

 向こうも俺と顔を合わせたくないはずだ。

 決闘前に争う展開になっても困るため、鍛錬場所を迷宮に限定したのは悪い選択ではないと思う。


 出現する魔物を食えばいいので飢えることはない。

 水や保存食、香辛料の蓄えも闇魔術の収納に入れてある。

 生活面でそこまで不自由なことにはならないだろう。


 少し深めの階層に赴いた俺達は、職員の持参した魔道具で強めの結界を張る。

 なんでも迷宮内の魔力を使って効果を発揮するらしく、放っておいても結界を維持してくれるそうだ。

 しかも、冒険者向けに一般販売されている物より性能が高いのだという。


 正直、職員がここまで協力的になってくれるとは思わなかった。

 ギルドに属する立場としては、本来なら手助けしてはいけないはずなのだ。

 それにも関わらず、こうして迷宮にまで同行してくれている。

 諸々の問題が解決したら、何らかの形でしっかりと恩を返すつもりだ。


 とにかく、これで迷宮内の拠点は完成した。

 遺跡型の階層の一角にて、俺を鍛える訓練が始まる。


「ほらほら、脇が甘いっすよ」


 職員が次々と雷撃を放つ。

 信じられない密度と速度で迫るそれらを、俺は必死に避け続けた。

 狭い地形を加味しても、凄まじい攻撃である。

 おまけに職員はまだまだ余裕そうだ。

 その気になれば、さらなる攻撃が可能なのだろう。


(さすがは竜殺しの魔術師といっところか)


 余計なことを考えたせいか、雷撃の一発を避け損ねた。

 俺は衝撃を感じると同時に吹き飛ばされる。

 視界が明滅する中、身体が痺れて動けなくなった。

 歩み寄る職員が倒れる俺を見下ろして言う。


「聖騎士が相手なら、もう七回は死んでますねぇ。地力じゃまず敵わないっすから、ちゃんと動きを予測しましょう。もしくは自分の戦い方に引きずり込んで封殺っすね」


「そう簡単にいくなら、苦労はしない……」


「分かってます。ですが、不可能を可能にする気概でないと負けますよ」


 職員は平然と述べる。

 確かにその通りだ。

 俺が聖騎士に勝つには、それくらいの覚悟を持たねばならない。

 痺れを魔術で回復していると、見学していたビビが俺の手を握る。


「ご主人、がんばって」


「任せておけ」


「まだ元気そうっすね。じゃあ、もう少し出力を上げましょうか」


 職員が悪い笑顔で手を掲げる。

 そこに発生した電撃が圧縮され、解放の瞬間を待っていた。

 どうやら休憩するにはまだ早いらしい。

 立ち上がった俺は、身体を揉みほぐして気を引き締めた。

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