第23話 結果を報告してみた

 その後、俺達は何事もなく迷宮から帰還した。

 二度ほど魔物に遭遇したが、どちらもビビが瞬殺してしまった。

 風魔術を操るようになった彼女は、もはや誰にも止められない速度を誇る。

 加えて中距離や遠距離への攻撃も可能となり、戦いにおける死角がなくなった。

 様々な策や道具をこね回す俺と違い、単純に強い戦士と言えよう。


 ギルドに赴くと、例の職員が出迎えに現れた。

 彼女は俺の怪我を見て笑う。


「おかえりなさい。随分と派手にやったみたいっすね」


「まあな。その代わり戦果は大きい」


 俺は闇魔術の穴からトロールの防具を取り出した。

 床に置いた際に大きな音が鳴り、周りの冒険者が目を丸くしている。

 闇魔術の使い手はかなり少ないのだ。

 まさか俺が行使するとは思わなかったのだろう。

 それは職員も同様だったようで、彼女は防具と俺と交互に見やる。


「闇魔術の収納っすか……というか、この馬鹿な大きさの防具は何なんです?」


「トロールの防具だ。死霊魔術が仕込まれている。ギルドなら改良できるだろう。俺達の手には余るから売却したい」


「なるほど。二人で協力して狩ったんすね」


「違う。ご主人が一人で倒した」


 ビビが素早く訂正した。

 それを聞いた職員の表情が固まる。

 あまりの驚きで、いよいよ反応すらできなくなったようだ。

 彼女は困惑した顔で呟く。


「え……本当っすか」


「本当だ。おかげで大怪我を負ったがな」


「いやいやいや。さすがにおかしいでしょ。あなたの実力はよく知っています。ちょっと魔術が使えるようになったくらいじゃ、とても敵う相手ではないっすよ」


 職員は早口でそう主張する。

 優秀な魔術師である彼女だからこそ、俺の戦果が不可解であると考えたのだろう。

 別におかしなことではない。

 俺だって客観的に見れば違和感を覚えるほどである。


「疑うのか」


「事実を述べているだけです。死霊魔術が内蔵した防具ということは、アンデッド化した個体も倒したということですよね。尚更ありえません。一人前の魔術師でも単独での討伐は困難でしょう」


 職員が動揺しすぎて普通の口調になっている。

 普段からは考えられないほど饒舌な上に必死だ。

 俺は彼女を落ち着かせながら、トロール討伐までの流れを説明する。

 なるべく細かく話して納得してもらうことにした。


「魔術主体ではなく、今までの戦い方を拡張させた。全属性の利便性に助けられたのは否めない」


「ちょっと待ってください。あなたの魔力量ではそこまで多様なことはできませんよ」


「消費魔力を節約できるように加減をしている。魔術書にも記載されていたぞ」


「それは確かにそうなんですけど、さすがに連発しすぎです。魔道具に肩代わりさせた属性付与を抜きにしても異常ですね」


 職員は腕組みをして考え込む。

 いつになく真面目な表情の彼女は、ぶつぶつと高速の独り言を始めた。

 瞬きせずに延々と呟き続ける姿は不気味だ。

 これは魔術師としての顔なのだろうか。

 やがて独り言を終えた職員は、頬を掻きつつ結論を述べる。


「魔力量が微少すぎて、逆に制御が簡単になっている……可能性はありますね。それにしたって上手くいきすぎですが、そこはあなたの器用っぷりが発揮されたということで」


「納得できたか?」


「渋々ですけどね。未だに信じられません」


 職員は不満そうに言う。

 それでもこちらの説明を疑っているわけではないようだ。

 微妙な空気感の中、ビビがここぞとばかりに発言する。


「ご主人すごいでしょ」


「地味な人だと思ってましたけど、意外とやりますね。ますます器用貧乏に磨きがかかってます」


「……それは否定できないな」


 そこで一旦、此度の探索の話は終わった。

 俺達は職員に頼んでトロールの防具を査定してもらう。

 売却額が算出されて問題なければそのまま売ることになる。

 まあ、ギルドがぼったくりをすることはまずない。

 向こうの言い値で売る形になるだろう。

 査定待ちとなったところで職員が話しかけてきた。


「これからどうするんです?」


「まずは治療術師に手当をしてもらう。魔術で処置は施したがまだ痛む」


「それは行った方がよさげっすね。紹介状を書きましょう。少し割引になりますよ」


「どういう風の吹き回しだ」


「魔術の習得記念っす。これくらいはさせてください」


 何かを書き記した紹介状を職員が渡してくる。

 俺は素直に受け取った。

 紹介状に載せられた名前は知らない。

 この街の治療術師らしいが、いつもギルドで頼むので利用したことがなかった。

 まあ、彼女が勧める場所なら問題ないだろう。

 ここは行ってみようと思う。

 治療が終わる頃には査定も完了するはずだ。


 ギルドを出る際、職員が良い笑顔で俺の肩を叩いた。

 彼女は囁き声で告げる。


「雷属性について知りたくなったらいつでも訊いてくださいね」


「分かった。助かる」


 俺はそれだけ答えると、ビビと共にギルドを後にするのだった。

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