第4話 豪運
ムラマサに勧められ、片手剣のステータスを開く。
「…………………………マジか」
名称:ソードタイプホルン
レアリティ:☆★★★★★★
品質:30
ATK:50
必要パラメータ:なし
アディショナルパワー
・クラスEXP+100%
・大量生産LV.1
・匠の仕事LV.1
「クラスEXP+100%って……ぶっ壊れだろ」
「いやいやそっちじゃないからねっ!? 【大量生産】に【匠の仕事】だよモンダイなのはぁ!」
「えっ、でもこれ片手剣に付いてたって意味無いですよね?」
そう、確かに【大量生産】と【匠の仕事】というアディショナルパワー──アイテムに付与されたパッシブスキルのようなものだ──は、非常に貴重で有用だと言われている。
【大量生産】はその名の通り、生産した時に完成品の数が増えるというものだ。
端的に言えば、少ない素材で多くのアイテムを生産できるようになる、コストパフォーマンス向上パワーと言える。
ちなみにこのアディショナルパワーのレベルが上がれば上がるほど、生産数増加量も上がる。
しかし残念ながら、生産時はハンマーのような生産用アイテムを装備しているため、このアディショナルパワーが戦闘用装備アイテムである片手剣に付与されていても何の意味も無い。
そして【匠の仕事】だが、こちらは数ではなく質を向上させる────具体的には、生産物の品質を上げるパワーだ。
『The Knights Ⅻ Online』というゲームでは、アイテムの品質は非常に重要なパラメータである。
武器や防具ならば品質が高ければ高いほどに戦力が高まり、回復アイテムならば効果量が増し、嗜好品──スイーツや酒など、ゲームシステム上の効果は無いお遊びアイテム──ならば味や香りなどアイテム固有の要素が高められる。
大前提として、NPCショップで売られているアイテムは低品質の物ばかりで、高品質のアイテムを入手するには生産職の力を借りねばならないのがこのゲームの常識である。
だから生産職ユーザーに優劣を付ける一要素として、生産物の品質の高さは比較対象になり得る。
ああ、もちろん……【匠の仕事】も片手剣に付与されていては何の意味も無い。
「ノンノンノンだよ! このゲームではね、アイテムの合成ができるんだっ!」
「合成……」
アイテム合成、知識としては知っている。
アイテム同士を合成することで、アディショナルパワーを引き継ぐことができるというシステムだ。
例えば、戦力が高い武器と戦力は低いが有能なアディショナルパワーが付与された武器を持っていたとしよう。
その場合、二つの武器を合成させることで、戦力が高く有用なアディショナルパワーが付与された武器を生み出すことができるのだ。
もちろん『Spring*Bear』の時に散々お世話になった。
が、この合成システムには一つだけ問題がある。
それは、違う種類のアイテムでは合成ができないという点である。
武器ならば片手剣同士であれば合成ができるが、片手剣と魔導狙撃銃では合成ができない、アクセサリーと防具では合成ができない……など、制限があるのだ。
だから、いくら鍛冶士が欲しいアディショナルパワーが二つも付与されたとて、それが片手剣では無用の長物なのだ。
「やっぱり無駄ですよ。片手剣とハンマーじゃ合成ができないはずでは?」
「その通り。だが、それを叶える方法があるとしたら?」
「まさか! そんな方法があったらとんでもないコトになりますよ! それこそ攻略組の常識だってひっくり返るくらいに!」
「そうそうそうなんだよっ! 実はこのゲーム、少し前に十周年を迎えたんだが……さすがにそれくらいは知っているよね。その大型アップデートでなんとっ!」
「なんと……?」
思わず息をのんだ。
「生産職の新スキルによって、別の種類のアイテムを合成できるようになったのさっ!」
「マジでッ!!?!?」
「んっふふふ、素晴らしい反応だねっ! だからこのタイミングで生産職を始めたキミ、実にナイスタイミングっ! お姉さんがなでなでしてあげようっ!」
「じゃ、じゃあ、この片手剣をハンマーに合成できるんですね!?」
「もちろんだともっ! あぁちなみに、その片手剣のような鉱石から生産されたアイテムは鍛冶士が、革や布から生産されたアイテムは縫製士、科学系のアイテムは電気技士が合成できるからね」
「とんでもねぇ……革命だ…………っ!」
鍛冶士になった初日から生産数を増やせるわ品質も上げられるわ、終いにはクラスEXPまで倍増だからクラスレベルの成長も早いわ!
幸先が良いにもほどがあるぞ!
「しかぁし! うん、大興奮のところ申し訳ないんだけどね。別種合成スキルはキミのレベルではまだ習得できないんだな、コレが」
「いつになったら習得できるんです!?」
「クラスレベル10だ」
「なるほど、それまでは地道にレベリングするしかないってことか……」
「その通り! ま、生産生産また生産、そんな生活を続けていればあっという間さ」
「分かりました。では今からクラスレベル10になるまでぶっ続けでレベリングしてきます!」
「それは絶対に止した方が良い」
途端に真顔で肩を掴まれた。
メガネの奥の瞳に光が無い、こわい。
「何でです? だって早く【大量生産】と【匠の仕事】をハンマーに付与したいんですよ」
「あ~、うん、その気持ちはよぉ~~~~~~く分かる。だがね、ただ無心にハンマーを叩き続けるあの作業……うん、地獄だから」
「あぁ、経験者は語る……」
「それにね、いくら根気とやる気に満ち満ちていたとしても、現実的な問題がある」
「問題って? リアルでの予定とかですか?」
「いやそれは知ったこっちゃないよ。そうじゃなくて、生産に必要な素材だよ。鉱石が無ければ作れるモンも作れないだろう?」
「鉱石くらいマーケットでパパっと────」
「所持金は?」
「…………3,000ゼル」
「うん、足りないねっ! まったくもって足りないよっ!」
「じゃ、じゃあ採掘に行きますよ!」
「それは効率が落ちるってモンさ」
「じゃあどうすれば……」
「さて、そんな初心者生産職のキミに朗報です。実はボク、生産職限定のクランを運営しているんだが……興味ない?」
まずはここで、クランについて説明をしておこう。
クランとは、ユーザーが主となって組織運営を行うコミュニティシステムの名称だ。
一例を挙げるならば、俺の古巣である『The Knights古参の会』だってそうだ。
あれはサービス開始してすぐに俺とどんぐり亭で立ち上げたクランで、主な活動方針はゲームの攻略だった。
ちなみに全てのクランが攻略を目的としているガチ勢の集まりな訳ではない。
リアルでの友人だけで組まれたクランだってあるだろうし、ゲーム上で知り合った仲間と緩く楽しむサークル活動的なクランだってあるだろう。
それにしても生産職限定のクランか、そんなものもあるんだな。
ただ攻略だけに集中してきた10年だったから考え付きもしなかった。
「興味あります」
「うんっ、イイ返事だっ! それでは早速、ボクのマイハウスに招待しようじゃないかっ! そこがクランの拠点になっているんだ。……あっ、美人で巨乳のお姉さんのお家に招待されたからって、イロイロ期待はしちゃダ・メ・だ・ぞっ?」
「そっちは興味ないです」
「それはそれでショック~っ!」
どうせ中身は男なんだろ、厚意は受け取るがいつまでも疑いは持ち続けるからな。
かくして俺は、ムラマサのハウスに招待されることとなった。
そこで待ち受ける脅威(?)など知る由も無いままに……。
次回、ヒロインズのお披露目です。
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