第317話 面接
視察団の6人をメッセナ、ブルストにも案内して、最終日の前日に送別会を館で開いた。
最終日の午前中は市内で文字通り買い物観光をしてもらい、昼食を宿で摂ってもらった後、荷物と一緒に首相官邸の例の会議室に午後2時少し前に6人を送り届けた。
忘れるとまずいと思って心の中にメモしていた通り12体のモアイ像を彼らの荷物の脇に並べておいた。 ささやかな贈り物だが喜んでくれたはずだ。
出迎えに来ていた山科参事官も12体のモアイ像に感動したようだった。俺自身もモアイ像が横一列に並んだ姿を初めて見たのだが、イースター島にいるのではないかと錯覚するほど感動ものだった。
山科参事官に今回の視察団受け入れの礼を言われたところで、ポータブル原子炉について依頼しておいた。
「承りました。私にできる限りプッシュしますが、確約はできませんので、そこはご了承ください」
「もちろんです」
そのあと、事務員採用面接の話になり、明後日の午前10時にこの会議室で例の二名と面接することになった。
首相官邸にいる間にスマホで着信があったようなので確認したところ、スーツとメイド服の出来上がりは予定日より2日早くなるとメッセージが届いていた。
そして約束の面接の日。
白銀のヘルメットをかぶったフィリアを連れて午前10時ジャストに首相官邸の例の部屋に転移した。
部屋の中は面接会場らしく、長机が1つとその正面にスチール椅子が2つ並べられて若い女性が二人すでに座っていた。
そして、第4世界対応戦略チームから、会議で司会をしていた福富氏がいた。
そこまでは普通なのだが、一昨日俺が並べた12体のモアイ像が俺が並べたときと同じ場所に立っていた。
つまり、12体並んだ壮観さに感動した第4世界対応戦略チームの山科参事官が6人に懇願してここに寄付させたのだろう。言ってくれればモアイ像の100体くらいすぐに作って渡すのに。そうだ! 1000体並べれば三十三間堂の千手観音像と一緒だ! この部屋では狭いが、首相官邸の廊下という廊下にずらっと並べれば迫力あるぞー!
それはさておき、福富氏に会釈して、俺とフィリアが面接官席に着いた。
長机の上には、何個かのボタンがついたリモコン?が1つと二人の履歴書が俺とフィリアの席の前に置いてあった。前回も見ているのだが、あらためて履歴書を見たところ、名前は日高はるかと中川夏美。二人とも22歳でこの3月に都内の大学を卒業後、4月から現在都庁でアルバイトをしているとのこと。都庁でのアルバイトというと、どこかで聞いたことがある設定のような気がした。何にせよ、実家がうちのさいたま事務所に近いのはありがたい。
ひととおり二人の履歴書を見た後、向かいに座る二人の顔を見たら、二人とも俺の顔をじっと見ている?
面接官の目を見て話すのは大切かもしれないが、まだ何も話してはいないんだが?
それはそうと、写真でもそうだが、この二人どこかで見たことがある。確かにどこかで遭っている。あれー?
あっ! もしかして、新宿のビヤホールで一緒に飲んだあの二人? 名前は忘れたけど確かあの二人も都庁にアルバイトで通っていたし、顔はこの顔だった。
それはそれとして、隣に座るフィリアが俺の顔をじっと見ているような気配がするのだが?
「それじゃあ、面接をお願いします。私は部屋の外に出ています。面接が終わりましたら、そのリモコンの黒いボタンを押してもらえますか?」そう言って、福富氏は部屋から出ていった。
「えーと、以前会ったことがあったかな? 例えばビヤホールとか?」
「えー!? やっぱりあの時の若い人!」
「名前はかっこよかったことだけは思いだせるけど、名前は思い出せません」
「大山、大山源太郎だ」
「そうだ、そうだった」「思い出しました」
「奇遇だねー」
「わざわざ都庁の人事部長に中川と一緒に呼ばれて、新しい仕事先が決まってないなら、さいたまにある事務所の事務の仕事があるけど応募してみないか? って、言われたので、それならお願いします。と言って頼んでたんです」
「そしたら、首相官邸で面接って聞いてものすごく驚いてたんですが、大山さんが面接官って。もしかして、大山さんてものすごく偉い人だった?」
「偉くはないけど、身元のしっかりした人って条件で求人をここの人に頼んでたんだ」
「ここの人って、国家公務員でしょ? それもかなり偉い方の。その人に頼み事できるって、相当偉い人って事でしょ?」
「ここと取引してるから」
「そっか、大山さん、薬の仕事してるって言ってたものね」
「その関係だな。なんであれ君たちの身元がしっかりしているのは、確実のようだし。ところで、二人ともパソコンは使えるかな? ソフトを使いこなせるか、という話なんだけど」
「はい、たいていのことは」「わたしもできると思います」
「そう。それなら大丈夫だ。基本的に身元がしっかりしていてパソコンが使えればそく採用だから。今勤めているところはどうなのかな?」
「今月いっぱいで自動的に失業しますから。何せわたしたち3カ月間の臨時アルバイトでしたから」
「それはよかったといっていいのか悪かったのか分からないけれど、それじゃあ、7月1日からこっちで働けるわけだ」
「「はい!」」
「面接という感じではなくなったけど、ついでだから君たちに仕事の内容を教えておくよ」
「「はい」」
「さいたまに小さな事務所を置いてるんだけど、そこが君たちの仕事場になる」
「「はい」」
「それで、寮のようなものがあるのでそこからそこに通ってもらうことになる」
「その話は聞いてるんですが、実家からだとダメなんですか?」
「ダメではないけれど、寮では朝、昼、夕の3食食事が出る。家賃も含めて無料だ」
「それなら、そっちがいいかも」「わたしも!」
「給料なんだけど、まだ経理担当者がいないから、いろいろな労務管理もできない状態なんだ」
「大山さんのところって会社じゃなかったんですか?」
「そういう意味では会社じゃないんだ。君たち、今日、時間があるならそのあたりを目で見て確かめられるよう職場に案内するよ」
「分かりました。時間はあります」「わたしもあります」
「で、話は給料に戻るけど、社会保障費などを今のところうちからは出せないので、その分は個人ベースで支払うことになる。そのため給与にその分を上乗せしようと思う。具体的には年俸制として、年俸1000万円を考えている。この年俸については各自で確定申告してもらって、後日、納税してもらうことになる。住民税とか年金とか国民健康保険も一緒だ。健康保険については、ムダ金になるけどね」
「ムダ金とは?」
「君たちがうちで勤めている間に何か不調になった時、俺に言ってくれればすぐ治せるから」
「は?」
「まあ、それはそのうち分かると思うよ。
面接はこんなところでいいか。何であれ二人とも合格だ」
「ありがとうございます」「その場で合格なんて初めてです!」
確かにその場で合格は珍しいかもしれない。
「それじゃあ、君たちを職場に案内するよ。それでかなりのことが分かるはずだから」
「「はい」」
リモコンの黒ボタンを押したらすぐに福富氏が会議室に入ってきたので、面接は無事終了したことと、これから二人を連れて職場見学に行くと伝えておいた。
「了解しました」
俺が椅子から立ち上がったところで、フィリアも立ち上がり、日高はるか、中川夏美の二人も立ち上がった。長机を回り込んでフィリアともども二人の前まで歩いていき、
「二人とも服の上からでいいから俺の体に手を添えてくれる? あと、ここから先は守秘義務があると思ってくれ」
契約書もない以上守秘義務が守られる保証なんてないが、気休めだけど、口で言っておくだけでもある程度の効果はあるはず。
二人が頷いた後、恐る恐る俺の上着の袖口に手を添えたところで、フィリアも手を添えた。
俺は視界の男性に会釈し、3人を連れてさいたま事務所に転移した。
部屋の中は相変わらず、換気扇の隙間からわずかに光が漏れているだけで真っ暗だったので、今後のことも考えてライトの魔法を使って明かりを灯した。
「「えっ!」」
「何?」「あれ!? 天井に眩しい火が点いてる!?」
「順を追って説明しよう。ここが、さいたま事務所」
二人が頷いた。
「見ての通り、モアイ像とちょっと変わった椅子が何脚か。奥の方に石板が二つ置いてあるだけで何もない」
そこで二人は大きく頷いた。気持ちは分かる。
「それで、君たちは俺の転移という能力で首相官邸から一瞬というか一瞬もかからずここに移動した」
これも二人は頷いた。適応力が高いことはいいことだ。
「それで、俺の隣に立っているのが、俺の秘書をしているフィリア・ソリス。彼女は地球人じゃなくって、さりとて宇宙人でもなく、異世界人。異世界人って分かる?」
二人は顔を見合わせた後、顔を斜めにしながら頷くという器用なことをやってのけた。
「信じられないだろうが、すぐに信じるようになるから」
「それじゃあ説明を続けよう。天井の明かりは俺が作った魔法の明かりだ。つまり俺は魔法が使える。明かりの魔法だけじゃなくほかの魔法も使える」
二人はそこも似たような感じで頷いた。
「部屋の隅に置いてある2つの石板は転移板と言って、対になった転移板に向かって転移することができる魔道具だ。魔道具って分かる?」
二人は斜め上に目を向けて頷いた。
「逆に、対になった向こう側の転移板からもこちらに転移できる。方向を決めていないとぶつかることもあり得るから、右側通行ということで右を行く方、左がやってくる方という風に使い分けている。ちなみに首相官邸からここに転移したのは俺の能力だ。ここまではいいかな?」
二人は先ほどとは逆の方向に顔を斜めにして頷いた。右側通行というところだけ覚えておいてくれれば十分だ。すぐに慣れるだろうし。
「それで、向こうの世界のどこに繋がっているかというと、俺の館に繋がっている。君たちに住んでもらおうと思っている寮のことだ。それじゃあ、試しに転移板に乗ってみようか。俺は先に行って向こうで君たちを迎えるから、日高さんから順に乗ってくれるかい? 向こうに着いたらすぐに転移板から下りてくれ」
その前に、二人に対してレストアコンディションをかけておこう。
「転移板に乗る前に、君たちにお
二人に、レストアコンディションをかけた。
「どうだい、体のどこか温かくなったとか、感じなかった?」
「わたしは何も」「わたしは、両目が少し暖かくなった感じがします。あれ? なんだか周囲がよく見える。あれ?」
やっぱり視力も回復するようだ。さすがはレストアコンディション。
「お呪いが効いた証拠だ。よかったじゃないか」
「???」
「そういうことだから、俺は先に向こうに行っているから、一人ずつ転移板に乗ってくれ」
「「はい」」
俺が館の転移室に転移して間を置かず日高さんが転移板の上に現れた。
「一度降りてくれるかい?」
日高さんが転移板から下りてすぐに中川さんが現れ、最後にフィリアが現れた。
「部屋の中だから実感が湧かないだろうけど、ここは先ほど言った日本から見ると異世界にある俺の館の一室で、転移室と呼んでいる。隣とその隣の部屋にも別のところに繋がった転移板を置いているから全部で転移室が3つあることになる。行先は床のプレートに書いてあるんだけど、いまのところ、ここの言葉だから君たちだと読めない。あとで、忘れず日本語も付け加えておくよ。それじゃあ部屋から出てみようか」
[あとがき]
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