再会する悪役令嬢
どうしてこう女性の買い物と言うのは長いのでしょうか。楽しげに笑う少女たちを見るのは微笑ましいのですが少し疲れてきてしまいましたわ。早く決まらないものかしら……
「トレーフルブラン様は何れにいたしますか」
「私はあの白いのにしようと思いますわ。どうでしょうか」
「まあ、素敵ですわ! きっととてもよくお似合いになります」
「アクセサリー等はどういたしますか」
「そうですわね。あのチョーカーが良いのではと思っているのですがどうでしょうか」
「まあ、素晴らしいですわ。とてもよい組み合わせですわ。さすがトレーフルブラン様です」
「決めるのも早くて羨ましいですわ。私なんていつも迷ってしまいますのに」
「ほんとだよねーー。なんでそんなに早く決めれるの。私まだ決まらないよーー。やっぱりあれかなーー」
「いえ、あれよりはさやか様の場合はあちらの方がいいんじゃいですか」
「やっぱり。でもーー」
あれなどはとまた少女たちが話し出すのにほぅと息をついてしまいます。これはまだまだ長そうですわ。
先生がいなくなってからもう半年近く経ってしまいました。先生は見つからないまま今日で二年も終わってしまいます。修了式が終わり、夜には毎年恒例の学年末のパーティー。今は四人娘やさやかさんとパーティーで着るドレスを買いに着ています。本当はもっと早く用意する予定でしたのですが、私たち六人の予定が中々合わずに今日になってしまいました。私は店のなかのものを、一通り見たら何にするのか大体決めていたのですが、皆様が楽しそうに何れにするか迷っていたので言えずにいました。聞かれてやっと云えたのですが、みんなはまだまだ決めかねているようで……。
みなさんの様子を見ているのは本当に楽しいのですが、……でもやっぱり長いですわね。
げっと嫌そうな声が聞こえてきたのにはぁぁとわざとらしくため息をついてやりました。ドレスをなんとか決め終え時間もあるので一度みんなと別れた私は学園に戻りテラスへと向かいました。本当は先生の部屋に行きたかったのですが、校舎のドアが開いていなかったのですよね。先生の部屋にはもうなにもないのですが、それでも先生の部屋で過ごした思いではあるように思え半年の間かかすことなく通っていました。一人になりたいときなどは彼処に行くのが好きでした。行けなかったのは残念ですが一人になりたかったのでテラスに来たのですがそこには先客、セラフィード様がいて彼は私を見て明らかに嫌そうな顔をしてくださったのです。
「女性に向けてそんな顔をするのは失礼ですわよ。セラフィード様」
「……すまない。だがお前がこんなタイミングで来るから……」
「はい?」
「何でもない。それよりどうしてここにさやかたちと今日のドレスを買いに行ったんじゃないのか」
「終わったから来たんですよ」
なに!とセラフィード様は目を見開き信じられないと声をあげました。
「終わっただとあれの買い物が! まだ二時間しか経ってないのに。嘘だろ。さやかと買い物に行くと最低でも四時間は掛かるぞ」
なんでそんなに早く終わるんだとセラフィード様が云うのにいや二時間は全く早くありませんわよと云いたくなり云わないようにするのが大変でした。何とかたまたまですわと口にしました。買い物行くと三十分もしないうちにもう嫌だって分かりやすく顔に出すから腹が立つのと面白いのでついついそれを見たいために五時間とか振り回してしまうと言うのをさやかさんから聞いています。
「乙女の買い物は長いものなんですよ」
「お前はいつも早かったが」
「…………人にもよるんですの。でも大抵の乙女の買い物は長いものなんです」
はぁとセラフィード様が重いため息をつきました。
「何です。そんなにいやなんですか」
「いや、いやと言う訳じゃないんだが……女と言うのは面倒だと。買い物は長いし、話し出すと止まらない。誕生日だなんだとこまめに祝ってやらないと怒る」
面倒だとため息ごとセラフィード様は言います。たまに疲れると言うのにまあ仕方ないことですわねと言いました。私だって誕生日やお祝い事は祝ってもらいたいですしと言えばえっとセラフィード様は驚いた声をあげます。
「そんなの当然でしょう。男のかたがどう思うかは分かりませんが祝ってもらえたら大切にされているようでうれしいではないですか。たくさん話すのだって二人で時間を共有したいからですわ。同じことを知っていたいのです」
「……だがお前はそんなことしなかったじゃないか」
「だってセラフィード様は長いお話は話し半分で殆ど聞かないじゃないですか。聞いてくださいなんて言えるほど我が儘にもなりれませんでしたしね。それなのに祝ってほしいだなんて言えませんでしたのよ」
黙ってしまったセラフィード様は罰が悪そうに俯いてからならといいました。
「グリシーヌ先生には言えたのか」
今度は私が黙る番でした。数分沈黙してしまいます。
「先生とはそんな仲ではありませんでしたわ」
何とか吐き出したのにそうかとセラフィード様が言いました。私たちの間を沈黙が走ります。そう言えばとセラフィード様が声をあげます。
「今日のパーティー、来賓が来るんだが聞いているか?」
「来賓?? 何時もの方々の事ですか」
「いや、そうじゃない。実は昨日からお忍びである国の方々がこの国に来ていて、その人たちがパーティーにも来るんだ」
「ああ、そう言えば何処ぞの国の偉い手が昨日突然来たと言う話はブランリッシュから聞きましたわね。あの子とても機嫌が悪かったのですがどんな失礼な方々なんですの」
何でそんな話をいきなりと思いながら話していて思い出したのは朝のブランリッシュの事でした。ブランリッシュは勉強のため最近はセラフィード様の元で過ごしているのですが、朝珍しく帰ってきたかと思うとその話をしていったのです。かなり不機嫌でそんなにあれな人達だったのかとかわいそうになったものです。セラフィード様も大丈夫ですかととえば、何故かセラフィード様はとても奇妙な顔をしました。何といっていいか分からないと言うようなそんな顔です。
「いや、失礼ではなかったが……。ただ大丈夫でもなかったと言うか」
歯切れ悪く話ははぁとため息をセラフィード様はつく。何かありましたのと聞くのに返ってくるのは何でもないと言う言葉です。
「まあ、色々はあったんだが…………なあ、トレーフルブラン」
疲れたような顔をしながらセラフィード様が私を見ました。すがるような目に見えたのに何ですのと言います。言いにくそうにしながらそれでもセラフィード様は口を開きました
「俺が今でもお前のこと好きだっていたらどうする」
きょとんと瞬きをしてしまいます。何を言われたのか少しの間考えてはぁと盛大なため息をついてあげました。
「何も致しませんわ。だって私は貴方のことをもう何も思っていませんし、それに今は先生がいますしね。私は彼にまた会える日が来るのを待っているんですの」
「そうか」
「それよりバカなこといっているんじゃありませんわよ。さやかさんといい感じだと言うのに浮気でもするつもりでしたの」
「……………いや、ただまあ、最後にな」
不思議なことを云うのでもうとっくに最後は迎えたでしょと言ってしまいました。そうするとそうなんだけどとまた歯切れ悪くセラフィード様は口にしました。
「パーティーが始まったらお前もわかるさ……」
わぁわぁと聞こえてくる声に私は信じられない思いでいました。学年末のパーティーは何時もよりずっと華やかなもので、それらを生徒たちが楽しんでいたときにやって来た先生たちがこれから来賓が来ることを告げました。その告げられた来賓方が誰なのかを理解できませんでした。呆然とする私。周りはがやがやとしていました。四人娘とさやかさん、ルーシュリック様がえっと云う顔をして顔を見合わせていました。それって、もしかしてと彼らが口々に言います。彼らの様子を見て何を言われたのか少しずつ理解できはじめました
来賓はドランシス国からのお客人、国王の一行であると確かに先生は言いました。鎖国状態であるドランシスからお客、それも国王と聞いて周りはざわめいています。私はそれだけではいられませんでした。
「ドランシスって先生の」
誰かの声が聞こえました。目頭が暑くなります。ブランリッシュやセラフィード様の今日の不思議な様子を思い出しました。まさかと思いました。
入り口がざわりとざわめきました。そちらを振り向きます。ああと声が漏れたのが耳に届いて初めて気付きました。
大勢の人姿。それでもはっきりと先生の姿が見えました。溢れそうになってしまう涙を堪えるのに先生が私を見ました。ふわりと先生が笑って一筋涙がこぼれてしまう。
まっすぐに先生が私のもとに来ました。何を言えば良いのか分からないでいる私の前で先生が跪きました。
「トレーフルブラン・アイレッド嬢。貴方のことをずっと前から愛していました。どうか私と結婚していただけないでしょうか」
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