ギフト
丹野海里
第1話 プレゼント企画
—1—
『近年、SNSの発達によってコミュニケーションの形は変化しました。ビデオ通話、リモート飲み会、就職活動もリモートで行う企業が増えています』
大学のコミュニケーション学の講義。
丸眼鏡を掛けた女性教師がSNSを用いたコミュニケーションの取り方について熱心に解説している。
教師の熱量に反して、講義に臨む学生の態度はあまり良いとは言えない。
机の下でスマホを操作する者、友人とヒソヒソ話をする者、アルバイトで疲れているのか居眠りをする者。
授業に出席して課題さえ提出していれば単位が貰える為、真面目に取り組む学生が少ないのだ。
しかも今回の講義内容に限って言えばSNSがテーマなので普段からSNSを利用しているオレたちの方が教師より詳しい。
「
昨日放送された深夜アニメの感想をSNSで検索していた
正輝とは大学で知り合って2年の付き合いになる。
「学食でスタミナ丼かなー」
「んじゃ、
「はいよ」
SNSが発達した現代。
SNSを使えば他人も知り合いも気軽に繋がることができる。
今、オレたち大学生の間で流行っているSNSは日常の出来事を投稿するアプリ。写真を投稿するアプリ。ショート動画を投稿するアプリの3種類だ。
その他にも一昔前で言うところのメールと電話が無料で利用することができるアプリも使われている。
正輝が雄太に連絡を送ったのもこのアプリだ。
と、まあオレたちの生活にSNSは密接に関わっている。
—2—
「大河、正輝お疲れー」
「お疲れー」
昼になり学食で雄太と合流した。
基本的に大学では3人で行動することが多い。選択している講義によってはバラバラになることもあるが休み時間は一緒に過ごしている。
「なあ、プレゼント企画ってあるだろ?」
注文したスタミナ丼を受け取り、テーブル席を確保すると高校から付き合いのある
「ああ、アカウントをフォローして投稿を拡散したら抽選で何か貰えるってやつだろ」
「なんと最新ゲーム機が当たりました!」
雄太がSNSの当選画面と主催者とのやり取りが記されたダイレクトメッセージを見せてきた。
「そういうのって危ないんじゃないのか?」
特盛の豚キムチ丼を口一杯に頬張りながら正輝が疑いの目を向ける。
「過去のプレゼント企画でも実際に届いたって投稿が上がってたから大丈夫だって」
「怪しいなー」
SNSでプレゼント企画を行う目的として第一にあるのがフォロワーを獲得する為だ。
SNSは数字の世界。
数字が大きければ大きいほど影響力を持っているという証明になり大衆から憧れの対象となる。
数字を持っている人たちはインフルエンサーと呼ばれ、企業から案件の依頼がきたりするらしい。
最近ではSNS活動で注目を浴び、そこから芸能の世界に足を踏み入れる人も増えてきている。
数字を増やす為に身銭を切ってプレゼント企画をする。
リスクはあるが後々のことを考えれば利口な戦略なのかもしれない。
有名人でもやっているくらいだしな。
「実はオレも雄太とは違うやつだけど応募してて当たったんだよね」
オレが雄太と同じようにSNSの当選画面を2人に見せる。
「なんだよ2人して運良いなー」
プレゼント企画に対してあまり良い印象を持っていなかった正輝も身近に2人も当選したとなれば興味が湧いてきたみたいだ。
SNSの検索画面でプレゼント企画と入力して検索を掛けている。
「ネットで使える1万円分のギフトなんだけどな。一般的なプレゼント企画とは違って先着順なんだよ」
「詳しく教えてくれ」
すっかり興味津々となった正輝にオレが当選したプレゼント企画の概要を説明することに。
前提として他のプレゼント企画同様に企画者のアカウントのフォローと投稿を拡散する必要がある。
毎日昼の12時にクイズが出題される。
そのクイズに答えて正しい回答をした先着5名にプレゼントが配られるといった内容だ。
同時刻に複数人回答した場合は抽選となる。
ちなみにオレが回答した問題は『中国四神を全て答えろ』だった。
答えは『青龍・朱雀・白虎・玄武』だ。
スマホアプリのゲームのキャラ名なんかで目にする機会があったから即答することができた。
同時刻に回答していた人が多かったから抽選で選ばれたようだ。
いずれにせよ自分の知識が試されるから他のプレゼント企画よりは倍率が低い。
「マニアックな問題だったら俺にも可能性あるな」
「俺も立て続けにゲットしちゃおうかなー」
正輝と雄太も早速アカウントをフォローして問題に答える気満々だ。
とはいえ、今日の問題はもう出題されてから30分以上経っている為、挑戦するとしたら明日だろう。
「明日の2限は体育でバスケだからスマホ触る時間もあるだろ?」
「そうだな。じゃあ3人で勝負だな」
意見がまとまり空になった食器を返却口に返す。
次の講義は会計学だ。
食後に計算問題はキツイ。
「放課後、ゲーセン寄りたいんだけどどう? バイト?」
教室に向かう道中、雄太からそんな提案が上がる。
「俺は空いてるけど、大河は
「んー、まあそうだな」
オレには高校3年生の時から付き合っている彼女がいる。
同じ大学で別な学部だから2人とも何度か顔を合わせている。
「なんだよその歯切れの悪い返事は。このリア充が! この、このっ」
正輝が冗談半分で肩を組んで、横腹をズシズシと殴ってくる。
もちろん手加減しているので痛くはない。
「いや、まだ会うか決まってないからさ」
「リア充、羨ましいなー」
オレと正輝のじゃれ合いを見ていた雄太がボソリと呟く。
実を言うと絵茉とは3日前から連絡が取れていない。
2人に話すと心配を掛けてしまうからこのことは伏せている。
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