「巨人の子孫なのに小さくて悪かったな。」強がる少女勇者は魔王に転職したい。

百田桃

ミア

道連れ

「エッダ、エッダ。きょうは野宿? わたし、いい場所知ってるよ?」


 森の中。後ろからするミアの声はわざとらしく明るく弾んでいて、息切れをかくしているのがわかった。


「このまま歩けば、朝には隣町となりまちにつく」

「えーっ? いいけど、だったらちょっと休まない!?」


 エッダはけもの道を整備された街道のように難なく進んでいた。

 ふりかえるとミアは思ったより遅れて藪を分けながらのぼってくるところだ。鶯色のケープも膝丈のスカートもゆさゆさ揺れている。非効率な歩き方だ。

 小柄な体にぴったり沿う皮革と銀製の軽装備のエッダは、ほとんど草も鳴らさずに歩き続ける。


「はーい、ごめんなさい!

 かってについてきて我がまま言ってすみません」


 ミアの声は笑いを含んでいて、嫌味を感じさせない。

 これが吟遊詩人バードの表現力というものだろうかと思いながら黙っていると、行く手の鬱蒼とした木立の間から何ものかが羽ばたく音が耳についた。


「休むならそこで座って」


 しばらくしてエッダが立ち止まったのは、森の中に小さく開けた場所だった。楢の木が数本かたまって自然の東屋のように立っている。かすかな木漏れ日がそこに集まって、薄暗がりに慣れた目にはまぶしく映った。


「繁栄と豊穣の女神よ! ありがとうございます!」


 ミアは歌うように祈り、祈るように膝を落ち葉の上について座り込んだ。青い膝丈のスカートが大きく広がり、鶯色のフードがずれて暗褐色の編み髪があらわれた。


「エッダもありがとう」

「『も』なのか」


 リュックを下ろしながらエッダは苦々しく言う。

 ミアはよいしょと木の根元ににじりよると、竪琴ケースを抱えてもたれかかった。子猫の青さの目をいたずらっぽく輝かせて笑みを見せる。


「ふふ。ごめんなさい。――ここ、気持ちいいわね。寝ちゃっていい?」

「ちょっとって言わなかった?」

「ごめんなさい、おねがいします。

 だってふつうの女の子だもん。体力おばけの勇者さまとは違うんですぅ」


「……ふつうの、女の子?」


 女性ながら旅の吟遊詩人だというミアは、フードを被りなおしてもうウトウトしていたので――ぐっさり傷ついたエッダの顔を見なかった。


 エッダは今日「おまえとは違う」と言われて、仲間と別れてきた。


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