君の好みになるために

君の好みになるために

作者 左下の地球儀

https://kakuyomu.jp/works/16817330660509427700


「頭のおかしな人が好き」と振った彼女を振り向かせるため、想定外な行動をくり返し、振られた廊下で腹部に包丁を突き立てて告白する話。


 ホラーかな。

 主人公を狂わせた彼女が恐ろしい。


 主人公は男子高校生。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプのに沿って書かれている。

 まともな一般人である主人公の男子学生が好きな女子に告白すると「頭のおかしな人が好き」とひとけのない廊下で言われて振られたので、彼女に好かれるために頭のおかしな人間とは何かを考える。

 わからないから彼女に聞くと、想定外なことをすればいい、と教えてもらい、自分磨きをはじめる。

 授業中に教科書を破り捨ててそのまま帰り、昼食の時に弁当をそのままゴミ箱に捨て、放課後に校門の前で路上ライブをし、考えつく限りの行動を起こすも彼女の意識が向くことは無かった。

 学校では無事「僕は頭のおかしな奴」というレッテルを貼られた。担任には呆れた顔で生徒指導をされ、親には精神科にまで連れて行かれた。ある日、隣の席を殴ると、こちらを見て笑みを溢す彼女が映った。

 以後、自分磨きにより一層気合を入れる様になり、学校から退学処分を下される。学校を去る前に、彼女に家はどこかと聞き教えてもらうと、「君に会えるの、楽しみにしてる」と彼女に言われ感動と喜びでいっぱいになる。

 サプライズとして、彼女が帰宅したら家にいることにした。それだけでは駄目だと、飼い犬を殺し、死んだ犬の前足を振って彼女を出迎える。彼女も喜んでくれているみたいだ。彼女デートに誘い、薄暗い夜の公園で二人で話す。

 帰路につくと父親に怒られる。犬を殺すのに使った包丁で、静かにすると、お隣さんがやってくる。家の中は散らかっているし騒がれるのは迷惑だからと裏口から外に出る。、今なら告白のやり直しもできるかもしれない。「明日、朝早くに学校に来てほしい」と彼女に電話で伝えて、その後は一晩中告白の仕方を考えることにした。

 告白をする場所を考えたとき、一番最初に思い浮かんだのがこの廊下。全てが始まったこの場所で、僕はこの恋に終止符を打つ。

 彼女の期待に応えるためには、もう一つ何かが必要。その何かを、僕はずっと考えていた。

「僕は、あなたが好きです。だから、これからもずっと僕を見ていてください」

 ひとけのない廊下で二人きり、告白しながら新品の包丁で自分の腹部を突き刺すのだった。


 彼女の謎と、主人公に起こるさまざまん出来事の謎が、そう関わって、まともだった主人公を変えてしまうのかに驚かされる。

 人が感動するには、わからないことがわかるようなる、自分と関係がある、自分にもできる、のどれかが書かれている必要がある。

 誰しも人を好きになるし、好きになると相手に振り向いてもらうために努力するところは、自分と関係があると感じられる。

 また、気にられようと相手の考えに染まろうとするためことは、自分にもできることである。

 なにより、主人公と彼女の恋の結末がどうなるのかは、最後に明かされる。

 三つのことが描かれているため、本作からはある種の感動をおぼえるのだろう。


 場面の状況を具体的伝えるために五感を使いながら、主人公の心の声や感情の言葉を入れては想像できるよう書かれているため、読み手は感情移入できる。


 書き出しから、違和感を感じられる。

「彼女は真顔で『頭のおかしな人が好き』と言って、人気のない廊下で僕を振った」

 実に変わった女子である。

 それでいて抽象的。

 頭のおかしな人とは、具体的に何を指すのだろう。

 それ以前に、遠回しであなたのことが嫌いと振ったのではないのか。などなど色々な考えが浮かんでくるので、続きが気になってしまう。

 彼女に聞くと、「想定外とか?」と、少しだけ具体性を帯びた抽象的答えを返している。

 なにに対しての想定外なのかしらん。


 そもそも、主人公は彼女のどこが好きになったのだろう。

 断られたにも関わらず、「それでも諦めきれない」と思うほど彼女が好きな理由がわからない。

 彼女の具体的な容姿も書かれていない。

 恋は盲目だからだけでは、今後展開されていく奇行に走る動機づけとしてはいささか弱い気がする。

 気がするのだけれども、容姿が書かれていないということは、主人公は彼女の容姿に惹かれたのでは無いことを表していると考える。

 つまり、マトモな考えをする主人公から見て、彼女はマトモではないほどに他の子達とは違う何かを持っている点に惹かれたのだ。

 どこにでもいるような、誰でも持ち合わせている考えではなく、奇抜で、斬新で、いままで出会ったことのない女子だったから、特別に感じて好きになったのだろう。

「頭のおかしな人が好き」と振ったように、他の女子が持っているものとは違う、感性や考え方が好きになったのだろう。


 想定外といわれて、手始めに教科書を破り捨てて帰り、自分を傷つける行為のあとは、周囲の人達に迷惑をかけ、暴力をふるい、命を奪って、自死へと走りながら告白する。

 なぜ破壊衝動に走るのだろう。

 想定外とは、相手の想定する考えの範囲の外にあることを指す。

 壊し、傷つけ、奪い、社会性を逸脱する行為が想定外ではないのに。マトモな主人公ならば、それくらいは気がついても良さそうなのになぜ、勘違いしてしまったのだろう。

 彼女の想定内がわからないためか、彼女の考えが常人の枠を越えているからか。

 これだけ非常識なことをするのは、彼女が非常識な人間だからなのだろう。少なくとも、主人公にはそうみえていたのだと思う。


 隣の子を殴り、周りの男子生徒に押さえつけられていた主人公を、彼女は「見て笑みを溢す」とある。

 ひょっとすると、彼女は主人公が嫌いで、ひどい目に合えばいいと思っており、そのとおりになっていい気味だとわらっていたのでは、と邪推する。

 だけど、学校を去る時に住所を教え、「君に会えるの、楽しみにしてる」と微笑みながらいっている。

 社交辞令だったかもしれないし、皮肉だったとも考えられる。

 帰宅したら、飼っている犬が殺されていたら驚くだろう。


 想定外のことをして、彼女を振り向かせるのが目的なので、デートではなく告白すべきだったのではと考える。

 デートしたのなら、なおさらその時に告白すればよかっただろう。なぜならすでに彼女を驚かしたのだから。デートを誘うという普通なことをしているのなら、告白もできたはず。


 クライマックスで父を殺す展開になる。彼女と付き合うためにしてきた自分磨きなので、父を殺す必要はないのだけれども、自分磨きのしすぎて、主人公はもうマトモではなくなっている。そんな彼の強い思いを現すためにも、必要な行動であり、必要な表情や考えを強く描いていることで、頭のおかしな人としての行動として読み手に深く伝わってくる。


 最後、驚愕の展開を見せて終わる。

 彼女はなんと答えたのだろう。返事がもらえたのだろうか。聞く前にこと切れたかもしれない。

 彼女は本当に、主人公が行った想定外の行動に対して、恐怖を抱くことなく受け入れていたのだろうか。

 それとも、本当は怖がっていたのか。

 マトモでなくなった主人公の視点で書かれているため、判断がつかない。本当の彼女はまともなで、ちょっと冗談が好きなだけの子かもしれない。主人公が勝手に勘違いし、勝手にエスカレートして、狂っただけ、という可能性もある。

 もしそうならば、彼女に事情を聞いたら、彼が勝手にしたことで私は知らないと答えるかもしれない。


 読後、タイトルを見ながら、好きな子に自分を合わせようとする人がいるのを思い出す。

 生きることは変化の連続なので、いろいろな人に出会って影響を受けることも時には大切。だからといって、相手に合わせて自分らしさを失ってしまうのは本末転倒だと思う。

 本作を反面教師とし、人を好きになった時は自分を見失わず、一人で突っ走るのではなく、誰かに相談することを忘れてはいけない。


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