うた姫

うた姫

作者 花森ちと

https://kakuyomu.jp/works/16817330660523069403


 ディーヴァに憧れた人魚のラクリマは友人がディーヴァに選ばれ歌う中、青い海の中で歌いながら死んでいく話。


 ファンタジー。

 それぞれの生き方、考え方を人魚に模したように感じた。


 主人公は、人魚のラクリマ。一人称、わたしで書かれた文体。自分語りの実況中継で、ですます調で綴られており、現在→過去→未来の順に書かれている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 女しかいない人魚は卵を生むと死んでしまう短命であり、歌う生き物であり、選ばれた人魚ディーヴァは岩山のステージで歌うことが許される。

 主人公の人魚、ラクリマはひいひいお祖母様から受け継がれる古い家に暮らし、卵を生む時期に差し掛かっている。次の人魚を作るのは自分を殺すためであり、大きな傷みを伴うという。生涯を終えるなら、痛みの中でなく、歌の中で死にたいと思っていたので、ディーヴァになることに憧れていたものの、選ばれるほどの才能や技術を持ち合わせていなかった。

 友達のラエトゥスは才能のある人魚で、失敗や後悔などとは無縁に生きているからと、次のディーヴァに選ばれるであろう彼女に、主人公は嫉妬していた。

 先代のディーヴァの歌声は美しかったが、ニンゲンとの恋のためだったと暴かれたあとは、海底の洞窟に囚われている。

「もしディーヴァにえらばれたら、ニンゲンに恋しちゃうなんて絶対ダメよ」とラエトゥスにいい、どうして海の中では歌えないのかと疑問を持つ。

 歌は人間のすること、空気であるところで歌うのだから、海の名kでは溺れてしまうと言われる。だけど、海の中では喋ることができるのはどうしてだろうと笑い合ったとき、主人公は彼女のことが好きだと気付く。

 ラエトゥスがディーヴァに選ばれて歌うとき、主人公は海の中で歌おうとする。エラ呼吸ができず、苦しいともがいて海底へと沈み、歌の中で死んでいくのだった。


 作者は、人魚を題材にした話をよく描かれている。 

 青い世界にいたという謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どんな関わりをみせていくのかを描いている。

 書き出しは、遠景の「青い世界にいました」、近景の「わたしは頭上から降り注ぐ、光のようなうたに聴き惚れています」、心情の「『恍惚に浸るかのように』そんな言葉をふと思いつきました」の流れで書かれているので、読者にも主人公の思いが胸に届いていく。

 冒頭で読者の心をつかんでから、主人公は人魚で、うたう生き物であり、うたわなければ、「ほの暗い藍の闇でたゆたうだけの肉塊」とまでいってのけている。

 ディーヴァとして選ばれる方法など、客観的な状況の説明に主人公の感想や考えをまじえながら、主観が語られていく本編へと入っていくことで、読み手に世界観をわかってもらい、感情移入しやすくしている。


 とくに友人のラエトゥスとの会話の場面での、見た目や表情、主人公の心の声だったり感情の言葉だったりを描くことで、さらに読み手に想像できるよう書かれているので、人魚のファンタジーな世界観に入り込めていける。こういう作り方、見せ方は上手い。


「あら! あなたもそう言ってくれるのね、ラクリマ。ついさっき、先代のディーヴァにもそう言っていただいたのよ」と、海底の洞窟に囚われている、禁忌を犯した先代に会いに行っていることがわかる。

 ラエトゥスもディーヴァになりたいと思っているから、先代からアドバイスを教えてもらいにいったのかもしれない。

 人魚は、卵を生むと死んでしまうとある。

 先代はが生きているということは、まだ卵を産んでいないのだ。


 うたは人間のものであり、海の上の岩山に上がらなければ歌えない。ならばどうして、海の中で人魚は会話できるのか、といった読者も疑問を持つことを、主人公は疑問にして友人に尋ねる場面が良かった。

「たしかに。それって、すごく不思議」と済んでしまうけれども、不思議なことは不思議のままで良いと思う。むしろ、人魚たちも気にしてるんだと見せることで、読み手との距離が近づいたような、親近感が生まれる。いわば、主人公に共感できるのだ。

 こういうところを、中間にもっていき、しかもラストの展開へと結びついていくところは、よく考えられていて凄いなと感心する。


 ディーヴァになることと、卵を産んで死んでしまうことには関係性があると考える。

 きっとディーヴァとして歌うことで、長く生きられる、あるいは卵を産まなくても済むのかもしれない。

「ディーヴァとしてえらばれた人魚は、その身に収まらないほどの幸福と快楽、そして優越感という美酒を舐めることができました」と、他の人魚とは別格な存在として扱われるので、卵を生む痛み、苦しみを味合わなくてすむのではと考える。

 主人公だけでなく、他の人魚はディーヴァに憧れ、ほとんどがなれずに卵を産んで死んでいく。歌う生き物であるのに、歌えずに死んでいくのだ。

 卵を産んで痛みながら死ぬのが嫌だからと、主人公は海中で歌い、呼吸ができず、苦しみながら死んでいく。

 その姿から、ディーヴァに選ばれたものは、卵を産まなくても済むのでは、と思えた。卵を産まなくてもいいかわりに、陸に住む人間と恋をしようと繋がっていくのではないか。

 

 卵を生むことなく、結局は苦しみながら主人公は死んでいく。

 それでもラクリマは幸せだったかもしれない。

 歌うために生まれた人魚の自分は、歌いながら死ねたのだから。

 

 ラクリマとは、イタリア語で涙。

 ラエトゥスは、ラテン語で喜ばしい、楽しい。

 キャラクターに合わせたネーミングセンスは素晴らしい。


 読後、芸人は舞台の上で死にたいというのを思い出す。ラクリマも人形は歌う生き物だから、歌いながら死にたいと願った。

 人間も、自分がやりたいこと、生きたい生き方をして死ねたら本望かもしれない。

 


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