現の話

現の話

作者 雨水 曇

https://kakuyomu.jp/works/16817330661174524156


 春の好きな小さな光る宝石は歌っていると、黄色いスイセンと出会い、トパーズと名付けられてまた歌い出す話。


 文章の書き出しはひとマスあけるは気にしない。

 現代ファンタジー。

 詩的表現、描写がいい。


 主人公は、小さなぴんくいろの宝石、トパーズ。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。ボーイミーツガールのよう。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもドア示唆を感じることで共感するタイプに沿って書かれている。

 主人公の小さなぴんくいろの光る宝石は、春の音にのっかるように声に出して歌うのは、春が好きだから。

 歌っていると、続きを聞かせてと声をかけられる。声に導かれて主を探せば、ぽつりと咲く背の高いきいろの花が咲いていた。

 自分以外に声が出せるのに驚きながら、嬉しくなる。

「はじめまして。私はスイセン。春に咲く花のひとつよ」と名乗られ、自分の名前はなんだろうと考える。

 名前がないから何者かわからないので、名付けてほしいとお願いすると、トパーズと付けられる。「ふっとね、心に降りてきたの。なんだかトパーズってワクワクする響きじゃない? あなたの歌にも、あなた自身にもピッタリだと思ったわ」

 互いに挨拶し直し、「ねぇ、トパーズ。私のために歌を歌ってちょうだい」と頼まれて、また歌い出すのだった。


 冬が明けて訪れた春の謎と、主人公に起こる出来事の謎が、出会いを生む展開に暖かさを感じる。

 冒頭の、命あふれる春の描写がいい。冒頭の書き出し、六行で読者は読むかどうかを決めるという。きれいな描写を見せて、気を引く書き方がすばらしい。

 また、文書のカメラワークがいい。

 遠景である春の様子を、客観的視点で状況説明して、近景で、みんな冬眠して寂しい冬を描いて距離感を表現してから、主人公の僕は、小さな宝石だと心情を綴ることで、深みが増してくる。

 しかも、宝石が歌うのである。

 ファンタジーな世界観だと読者に伝わったところで、「その歌、もう終わりなの?」と、本編へと入っていく。

 

 宝石に心臓があるのかとか、どうやって転がっていったのかなど、深いことは考えず、ファンタジー世界なのでそういうものだと、広い心で読んでいく。

 宝石が歌うのだから、スイセンが喋ってもなんの問題もない。宝石の歌が耳に馴染んできたといっているけれど、花に耳なんてあるのかとか、反抗的な読み方をしてはいけない。

 受け入れて読んでいけるのは、命あふれる春を季節に選んだところにあると考える。

 寒い冬の長い間、冬眠という死をイメージする季節から、誕生と命に満ちている春へと変わった暖かい中では、宝石もスイセンだっておしゃべりしてしまうに違いないと思わせてくれる。

 春を選んだのが何より良かった。


 名前をつけるのは詩的な行為である。

 この展開を生かすためにも、書き出しの描写が詩的っぽかったのが実にいい。

 名前をつけることで、付けたものの所有物になる考えもあって、トパーズと名付けられた宝石は、「ねぇ、トパーズ。私のために歌を歌ってちょうだい」と頼まれて、歌うのだ。

 宝石にしたら、春が一番好きで、「色とりどりの花の中で、君という花にめぐりあえた」とあり、その思いをこめて歌う姿から、宝石にとってもスイセンは特別なものになったのだろう。

「ふわふわり…、きらきらしゃらら…、ゆらゆらり…、」は、スイセンが風に揺られているのを表現して歌ったのかもしれない。


 読後、春の情景が浮かんでくる。

 暖かい春を迎え、草木や花、虫や鳥や獣など、長い冬から抜けて生を謳歌しようと芽吹いていく姿がありありと想像できる。読んでいるのが寒い冬だから、なおさら感じるのかもしれない。


 

 

 

 

 

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