ため息

ため息

作者 @haru_tomo

https://kakuyomu.jp/works/16817330663035311976


 ため息を付きつつも気持ちを切り替え、自分を頼りに理想の未来に近づこうと、いつもと違う道で帰ろうとする話。


 文章の書き出しはひとマス開ける等は気にしない。

 書き出しの「さらあと、風が」は、「さらあ、と風が」にしたほうが意味が通る。

 なんでもないような日常を、誰もが一度は思いつきそうなことを題材にしながら、ちょっとだけ前を向いて足取り軽く進めるような作品は、ほんの少し元気がもらえる。


 主人公は、ため息をついてる人。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 思い通りにならない世界で生きている主人公の僕は、夕方頃に吹く風に頬を撫でられながら、ため息を付いてイヤホンを耳にさして帰路につく。

 嫌なことがあったわけでもないのに、一度、二度、とため息をつきながら、神がいるなら何故この世に自分を生み出したのか、何故宇宙ができたのかを考えるとまた、ため息がこぼれ出る。 

 いいしれぬ不安から怒りを感じていたけれども、しょうもなと気分を変える自分が好きに思えた主人公は、自分というたった一つの武器を使って、思い通りにならない世界と戦い、理想の未来に近づこうと思えば、イヤホンから流れる「未来はもっと眩しいかもしれない」歌詞を聞いて歩幅を広げ、いつもと違う道で帰ろうと思うのだった。


 夕方の風に心地よさを感じながら、ため息つく理由と主人公に起こる出来事とが絡まって、歩幅広げて別ルートで帰ろうとする流れが良い。

 何気ない日常を描くのは難しいのに本作では取り上げ、ため息に焦点を当てつつ、負のイメージから正へ展開するところが良かった。


 書き出しから、主人公が置かれている情景が描かれている。

「さらあと、風が僕の頬を撫でるように過ぎ去っていく」の「さらあと」ってなんだろうと引っかかった。

 さらあ、と頬を撫でる風を表現したのだと考える。

 

 主人公が「どうしてまたこの場所に立っているのか、自分でも分からない」とあるけれども、具体的な場所が書かれていない。

 堤防沿いとか橋の上とか、場所の言及がないけれども、夕方の心地よい風が吹いて自分の頭を冷やしてくれる場所が、家路の何処かにあるのだろう。

 

 嫌なことがったわけでもなく、ため息を付いてしまうときの、「心が言いようのない消化不良を起こしてしまっている。何が不安なのだろう。分からない。分からない。分からない」の書き方がいいなと思った。

 上手く言語化できないけれども、気持ちがもやもやする、スッキリしないときは、誰にでもある。

 不安とは、形やとらえどころがなく、名前もなければ説明できない状態にあるときに抱くもの。

 原始の人間が、雷に恐れおののき怯えたのと同じように。

 そこに、妄想と想像から「神の怒り」とする、真実でなくとも納得できる説明を作ることで、人は不安から距離を取ることができる。


 本作も、二度目のため息で自分の思い通りに動く世界を想像し、スーパーヒーローだと妄想するのは、不安から距離を取ろうと、自身が納得いく説明を作ろうとした。

 でも、現実では思ったとおりにならない。

 神様がいるなら、なぜ自分をこんな世界に産み落としたのだ、どうしてこの世界を創ったのだとさらに想像することで、不安から怒りへ転化していく。


 三度目のため息で、自分の考えに対して「しょうもな」と呆れ、くだらない考えをする自分を諌め、なかったことにしようと忘れるのだ。

 気持ちの切り替えが上手いのだろう。

 そんな気分屋の自分を好きだと、自分自身を肯定するまでになっている。

 自分を認め、肯定できたから、

「明日も明後日もこれからも、思い通りにならない世界と戦ってやろう」「自分というたった一つの武器を使って理想の未来に近づけてみせようじゃないか」と、前向きな考え方ができるように変化している。

 そこに、イヤホンから流れてくる音楽が後押しするのだ。

「未来はもっと眩しいかもしれない」

 結果、歩幅を大きくしてくれる。

 きっと、風に頬を撫でられる前までは、歩幅も小さく、背中を丸めてはとぼとぼ歩いていたのだろう。

 最後には、「今日はいつもと違う道を使って帰ろうか」と、これから冒険にでも旅立てるまでの気持ちさえ抱いているのだ。


 ため息は人生の鉋という言葉がある。嫌なことを体験する度に、ため息がこぼれるから自身の人生が削られていくと考えられたのだろう。

 だけど本作の主人公のように、ため息は決して悪いものではない。

 気持ちをリセットし、前向きに変えてくれるキッカケにすればいい。人生のちょっとしたコツ、ヒントを読者に教えてくれる作品だと考えると、本作は実に素晴らしい作品に思える。

 素敵な作品だ。

 

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