十文字さんの口はいつも真一文字
十文字さんの口はいつも真一文字
作者 みけめがね
https://kakuyomu.jp/works/16817330663158428978
いつも真顔の十文字春香に百合男子とバレた三条智永は、彼女が百合にハマったことを知って友達になろうと声をかけ、百合共有仲間となる話。
三点リーダーやダッシュはふたマス云々は気にしない。
クラスメイトの意外な真実を知ってしまうも、同じ趣味の仲間ができるのは嬉しいにちがいない。
その喜びようは、天にも昇るほどだったかも。
しかめた表情より笑顔が一番だと思う。
主人公は、男子高校生の三条智永。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
それぞれの人物の思いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプと、女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
十文字晴香はクラスメイトに一度も笑顔を見せたことがないのは、百合漫画が好きな百合女子であり、好きになったキャラが必ず死ぬので喪に伏しているため。
百合男子を隠している三条智永は十文字晴香と一緒に日直となり、スマホでツミッターを流し見しながら今日の出来事を日直帳に書き込んでは『うわばみ』先生の百合漫画を読んで癒やされていた。
そこに十文字が背後から覗き込み、百合漫画を見ていたのがバレる。
「ちょっとお手洗い行ってくるから黒板消ししておいてくれます?」
と教室を出ていく彼女。勝手に秘密を暴くならこちらも、と呪文時の鞄を無断で開けて覗くと、ブックカバーのかかった本がたくさん入っていた。一冊手にして開くと思わず声を上げる。
そのタイミングで戻ってきた十文字は、まるで変なニオイを嗅いだ猫のような顔でじっと三条智永を見て立ちすくんでいる。三秒くらいして真顔に戻り、近づいては「私、百合にハマったんです」「私、最近本屋でバイトを始めたんです。そしたら他のバイトの女の子がこの本を読んでたのが気になったので自分も買って読んでみたんです」「それが本当に!もうヤバいです…思い出すだけで目から尊みの後光が溢れ出しそう……! ウワ――!」一瞬にして顔も言動も限界オタクになる。
三条は彼女に友達にならないかと声をかけると、「いいですよ、じゃあ早速さっき三条くんが読んでた百合漫画のこと教えてくれませんか?」といわれ、百合共有仲間となるのだった。
書き出しの、ありふれた高校生の雑談として、「ねぇ、A組の十文字さんの表情差分見たことある?」「ないない! よく考えると一度も笑顔とか見たことないかも……てかなんで商業イラストレーターみたいな言い回しなんよ」が面白い。
顔の輪郭はそのままで目鼻口の表情だけ変化させた差分を、表情差分という。
その表現を用いて、十文字春香の顔だけはいつも口を真一文になっている状態のイメージしやすくしている。
この発想は上手い。
真一文字は、不快、顔をしかめて納得のいかない表現である。
いつも同じ表情をしているからといって、真顔で怖い顔をされるのはたしかに怖い。それでいて背後に立たれて、スマホ画面を覗かれているとなると、オバケか幽霊かと思えて仕方がない。
彼女の容姿の譬えが怖い。
「血が通ってないような異様に白い肌」なんて顔色悪い。
「カラスの羽のような色をしたロングヘアー」普通に、黒髪と表現すればいいのに、カラスの羽を持ってくるところも、ホラーじみている。
貞子みたいな見た目だったのかもしれない。
十文字春香の表情が変わらないのは、「好きになったキャラが必ず死ぬので喪に伏しているから」とある。
百合好きになるより前、好きなアニメや漫画、ゲームのキャラがいて、そのキャラが死んでしまって喪に服している状態があってから本屋でバイトをし、百合好きの子から勧められて百合にハマったということだろう。
「十文字さんは一瞬にして顔も言動も限界オタクになってしまった。
限界オタクとは、アイドルや役者、アニメ・ゲームのキャラクターといった「推し」に対する感情が限界に達してしまった状態を指す。または、 限界化と呼ぶこともある。
推しを目の前にすると頭が真っ白になり、推しへの愛が強すぎて意味不明でイタい言動をとるだけでなく、推しは何をしていても可愛いといい、推しを語るときついつい早口になる。推しの漢字が出てくると興奮し、
ときに突然、思考停止状態に陥りフリーズし、「無理」「死ぬ」などの鳴き声を出し、感無量状態になって遂には泣きだす。推しのグッズを大量に買い、推しのカラーを選び、聖地巡礼や推しの全公演に参加するなどの傾向が見られる。
「俺の脳内の十文字さんのイメージは破壊された」とあるから、おそらく感情豊かな表情をした百合女子の十文字の顔は、美少女だったのだろう。
互いに百合好きだったからは二の次で、限界オタクの彼女に一目惚れしてしまったから「俺たち友達にならない?」と声をかけたにちがいない。
読後、これからの十文字さんの口は、三条智永と百合漫画の話をするときだけ、饒舌に語り、笑みが溢れることだろう。その方が彼女にとっても、周りにとっても幸せだと思う。
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