他人の経験人数が見えるようになった。うわっ数字増えてる、気まず過ぎるだろ!?

ふじか もりかず

第1話 頭の上に数字が浮かんで見えるのですが……


 ―――世の中、知らなくても良い事がある。のちの俺の格言だ。




「なぁ親父おやじ、頭の上の数字……なにそれ」

「む、数字がなんだって?」


 いつもと変わらない朝。

 何の変哲へんてつもない登校前の朝の食卓。

 目の前に座る親父の頭の上に、が浮かんでいた。

 頭の上の何も無い空間、天使がいるとしたら光る輪っかの部分。

 そこにという数字が浮かんでいたのだ。


「いや、その……12ってなに?」


 俺の視線をたどって天井を見上げる親父。そして首をかしげる。


「まだ寝ぼけているのか? 早く顔を洗ってこい」

「もう洗ったよ」

「寝不足か?」

「普通に寝たけどな」

「ついに頭がいかれたか」

「うるせークソ親父」


 なんだこれ……。

 親父には見えないらしい。俺だけなのか?

 なぜ数字が見えるのか。12という数字の意味は?


 途方に暮れていると、母さんがキッチンからやってくる。


「ゆうき、さっさと食べなさい」


 テキパキと俺の分のベーコンエッグを並べてくれる。

「ありがとう」と言って、母さんを見る。

 すると―――そこにはという数字が同じ場所に浮かんでいた。


「2……」

「に?」

「な、なんでもない。行ってきます!」

「えっ、朝食は? あっ、こらっ」


 母さんの声を背にして家を出る。

 玄関の扉を閉めた途端とたん、自然とため息がもれた。


「気のせいじゃないよな。どうなってるんだ」



 俺は、本堂ほんどうゆうき。入学したての高校1年生。

 どこにでもいる普通の男子。

 勉強はそこそこ、スポーツはやや苦手。特に球技全般がダメ。

 ルックスは普通、だと思う。

 スタイルはやせ型。筋肉が付きにくい体質で、ほそマッチョからマッチョを抜いた感じ。要はもやし体型。

 見た目の特徴としては、背が高いところか。

 遅めの成長期がやってきて、そろそろ180㎝に届きそう。



 そんなありふれた一般人な俺が、朝起きたら不思議な変化があった。


 ―――相手の頭の上に数字が見える。


 これが何を意味するのか、この時は分からなかった。




 ――――――――――――――――――――




「7……15……0……3……」


 家の近くにある交差点で信号が青に変わるのを待つ。

 横断歩道の向こう側、信号待ちをしている人たちをじっと見る。

 やっぱり気のせいじゃなかった。数字が浮かんでいる。

 例外は無い。会う人すべてから数字が表示されていた。


 40代くらいのスーツ姿の男性―――7。

 花柄のワンピースを着た若い女性―――15。

 セーラー服を着た女の子―――0。

 その女の子と会話している、同じセーラー服の女の子―――3。


 数字は今のところ1けたか2桁。

 人によってマチマチ。

 信号が青になって、歩道を渡る。

 駅までの道すがら、すれ違う人々の数字を一つ一つ確認する。

 そして共通点を探してみる。


 数字が同じ1の人がいた。俺の前を並んで歩くカップル。

 私服だけど若いから大学生かな。

 いわゆる恋人つなぎをして傍目はためから見てもアツアツのカップルだ。

 数字は両方とも1だが、当然だけど性別が違う。年齢は同じくらいか。

 うーん、このカップルが1である意味が何も思い浮かばない。

 たいした推測もできない。とっかかりがあればいいのだが。

 まるで暗号解読のようで、紐解ひもとくきっかけが無いと意味不明なままだ。


 ふと視界のはしで大きな数字を見つける。

 152……初めての3桁だ。

 その人物は―――とても可愛らしい女性だった。

 俺が通っている高校の制服。でも、見たことが無い。学年違いかな。

 男にしても女にしても美形は目立つ。

 152の女性も周囲からチラチラと見られるくらい目立っていた。

 金髪でちょっとだけギャルっぽい。でも、清潔感がありケバケバしくはない。

 あの容姿なら相当モテるだろう。性格は知らないけど。

 偏見かもしれないが、クラスカースト上位にいそうなタイプだった。




 ――――――――――――――――――――




 駅に着いて電車を待つ。

 プラットホームで並んでいると、後ろから声を掛けられた。


「いたいた。なんで先に行ったのよ!」


 振り返ると、そこには幼馴染の女の子がいた。

 かなりお怒りのようだ。

 その顔を見た瞬間、待ち合わせをすっぽかしたことに気づく。


「あっ、わりぃ。忘れてた」

「はあ? ありえないんだけど」

「マジでごめん」

「んもうっ……お詫びに今日の帰り、付き合いなさいよ。ゆうきのおごりでね」

「バイトの給料日前なんだけど―――」

「付き合いなさい」

「……はい」


 プンスカと怒る俺の幼馴染の名は、カレン。

 加賀美かがみカレン。同い年の高校1年生。

 高校も同じ。というより幼稚園からずっと一緒。

 父親同士が同じ会社に勤めていて、家族ぐるみで交流がある。


 高校デビューのつもりか、最近髪を茶色に染めていた。

 悔しいことにそれが良く似合っていて、肩まで伸ばしたセミロングのヘアースタイルと合わさって同級生からも好評らしい。

 つまり、カレンは高校デビューの成功者。

 まだ入学してから一月も経っていないが、既に何度か告白をされているようだ。


 そもそも中学の頃から男子の間で密かな人気があった。

 気の強い性格と幼馴染の俺にべったりだったこともあり、誰かと付き合う関係には発展していなかったが。

 それでも高校に入って一度関係がリセットされた今ならアプローチしてくる男性がわんさかといるのだろう。


 まだ怒り足りないのか、目を合わすとキッと睨まれる。

 腰に手を当て、スラリとした身体を弓のようにしならせて見上げてくる。

 いわゆる怒ったぞ!のポーズ。


 でも、ちっとも怖くない。むしろ胸がドキドキする。

 目を細め、唇をとがらせ、上目遣いに見つめてくるからだ。

 目を完全に閉じてくれれば、まるでキス待ちされているかのよう。


 そのしぐさに引き込まれ、俺は段々と顔を近づけ―――る訳がない!


 なぜならカレンの頭の上に浮かぶ数字―――が目に入ったから。



 この数字、本当に意味しているのだろうか。






 ―――――


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