第3話 任務だから
すごっ……。
昼食はランチルームで食べるって北澤くんとしゃべっているのを聞いて、わたしも自分のお弁当を持って、南条くんのあとを追ってきたんだけど。
普通、給食みたいなのを想像するじゃない?
全然違うんだから! まるで高級レストランみたいなの。
しかも自分で取りに行くわけでもなく、注文するとウエイターみたいな人が運んできてくれるんだから。
ここが学校だってことを忘れてしまいそう。
南条くんたちの隣のテーブル席に腰かけたんだけど、南条くんたちのテーブルの上に思わず視線が釘付けになってしまう。
おいしそう……。
あんな大きな塊のお肉なのにとっても柔らかそうだし、上にかかっている二種類のソースもオシャレ。
それにパンとスープにサラダ。それに小さなスイーツも。
じゅるり。
思わずよだれがたれそうになって、慌てて口元を拭う。
だ、大丈夫だもん。わたしにはこの特大おにぎり×2があるんだから。
今わたしは、この任務のために、お兄ちゃんと学校近くのマンションで暮らしてる。
だから、お弁当を作ってくれる人もいないんだよね。
お母さんの食事が恋しいなぁ……まだ引っ越してきて一週間も経っていないのに。
モソモソとおにぎりのラップを剥がし、大口を開けてかぶりつこうとしていたら、「望月」と南条くんに声をかけられた。
「な、なに?」
こんなとこで、そんなもん食べるなって?
そんなこと言われても……。
「毒味もおまえの仕事だろ?」
……は?
「毒味っておまえ。望月ちゃんになにさせようとしてんだよ」
南条くんの向かいに座った北澤くんが、ゲラゲラ笑ってる。
それよりも、周囲の女子からの睨みつけるような視線が怖いんですけど……。
「え、ひょっとして、本当に食べるつもり、あの子?」
「よくこの学園に通ってるわよね。あんなものがお弁当だなんて」
ヒソヒソしゃべる声が聞こえてくる。
「俺を守るのが仕事なんだよな? ほら、早くしないと冷めるだろ」
毒味……いや、しろって言われたらするけどさ。
たしかにそういう任務があるっていうのも聞いたことがあるし、修行の一環として多少の毒になら慣らされているのも事実。
おそるおそる南条くんのテーブルに近づくと、渡されたナイフとフォークを手に取る。
じゃあ、ちょっとだけ。
ソースをフォークの端っこですくうと、
「肉に仕込まれてたらどうすんだよ」
なんて言われ。
ごくり。
このおいしそうなお肉、本当に食べていいの?
「じゃあ……」
端っこをナイフで切り取り、口へと運ぶ途中、ふっと酸味のある香りが鼻についた。
そのまま口の中に運ぶと——ほらね、やっぱり嚙まなくても口の中でとろけるように柔らか…………ダメだ、これ、食べちゃダメなヤツ……。
南条くんに警告しようとしたんだけど、足の力がかくんと抜け、その場に崩れ落ちる。
「詩乃⁉」
南条くんの焦ったような声がランチルームの中に響く。
「おいっ、しっかりしろ」
南条くんが、わたしの背中を支えて上半身を抱き起す。
その瞬間、「キャーッ!」という女子の悲鳴がランチルームの中にこだました。
そりゃあそうだよね。
みんなが食べてるお肉にまさか毒が入ってるなんて……。
……うん? 唇になにか柔らかい感触。
ゆっくりと閉じていた目を開けると、ぼんやりと人の顔が見えて……。
「詩乃、大丈夫か?」
唇の感触が消え、少しだけ距離を取ってわたしの顔を心配そうに覗き込むその人物の顔がはっきりと見えた。
その直後——。
ばちーん!
わたしは反射的にその相手の頬をビンタしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます