その列車は夜だけを駆ける

Eternal-Heart

時代遅れの警笛

この世には

その役割を終え、廃れたと思われながら

しぶとく生き延びているものがある。



例えばレコードだ。

盤に刻まれた音溝の波形を針で拾い、音に変換するという

非常にアナログが仕組みが、

今となっては唯一無二の存在となり、愛好家に支持されている。




待つ時間は好きではない。

ホームの硬いベンチ。


人混みの東京駅には、その人数分の日常が行き交っている。

雑踏の中の孤独。

そんな人生ばかり繰り返してきた。


取り留めのない考えが、浮かんでは消えてゆく。




時代遅れの警笛が聞こえた。

ホームにベージュと赤の列車が入ってくる。

『サンライズ出雲』 下り。

東京発、出雲行き。 寝台特急である。



俺は電車には興味がないので知らなかった。


新幹線と国内線の飛行機が、張り巡らされた

現代では夜行列車などというものは、

とうに廃れたものだと思い込んでいた。


移動手段とは違う形で、この様に存続しているのだ。




ポケットから切符を取り出す。

眠りのチケット。

列車の中で一夜を過ごす体験を提供するために

存続している、とも言える。



今の寝台列車は

間仕切りのついた座敷のような席のほか

各種、個室で構成されている。

洗面台やデスク、テレビを備えたデラックスや

ツインベッドの個室もあるそうだ。

基本はシングルベッドサイズの個室で構成されている。



東京ー出雲 12時間の運行。



浜田省吾の『路地裏の少年』を聴きながら

列車に乗り地元を離れたのは、18の頃だった。


朝焼けのホームにアイツの顔 探したけど涙で見えず


ボストンバッグひとつ抱え

居場所の無い街から列車に乗り

ただ遠く離れる事ばかりを、繰り返してきたような気がする。




列車に乗り込む時、ふと振り返る。

誰が見送る訳でもないのに。

分かっている。

それでも雑踏に、誰かの姿を探してしまう。



君は今どうしているのだろう__


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