貧乏国家の黒字改革〜金儲けのためなら手段を選ばない俺が、なぜか絶賛されている件について〜
空野進
第1話 貧乏国家
世の中は金で回っている。金さえあれば他のことはどうにでもなる。
それが帝国に留学中に俺が学んだことであった。
ものであれ人であれ、金さえあれば手に入れることができる。
つまり第一王子である俺の仕事はいかにして効率よく大量の金を手に入れるのか……。
そのための手段も学んできたつもりだった……。
病に倒れた父の代わりに国政をするために自国に帰るまでは――。
「う、嘘だろう……?」
十年ぶりくらいだろうか?
久々に帰ってきたユールゲン王国の様子は目を疑うほどで、思わず手に持っていた荷物をその場に落としてしまう。
たくさんの人が歩いていた大通りは人の影すらなく、商業区画は閑古鳥が鳴き、常に作業音が鳴り響いていた工業区域は静寂を保っている。
四季折々の豊かな作物が育てられていた田畑は誰も手を加えていないのか、荒れ果てていた。
そして、ろくに整備がされていないようで、建物や大通りはボロボロだった。
「こ、ここは本当にユールゲン王国なのか……?」
誰もいないのに言わずにはいられなかった。
しかし、それが良かったようでたまたま通りがかった人が答えてくれる。
「はい、ここは紛れもなくユールゲン王国になります」
「し、信じられない。一体俺が留学していた十年の間に何が?」
「それが、多くの貴族が自分のことばかりですので……。それに嫌気が差した住人たちが去っていき、国王様が気づいた時にはもう手の施しようがなくなっていたのです。国王様もそれに悩まれ病に倒れられたとの噂ですが……」
「そんなことはない! 俺がなんとかしてやる!」
俺が自由にできる金を作るにはまず国家をまともに機能させないといけないからな。
そのためにはこの国の問題を解決してやるしかない。
「俺が……? と言うことはあなた様がアルフ王子!?」
「あぁ、そういうことだ。とりあえず手の付けられるところから始めないといけないな。城まで連れていってくれないか?」
「かしこまりました。ではご案内させていただきます」
◇
城にやってきた俺はまず現状を把握することに努めた。
ただ、国庫の中にある金の量を見たときには思わずめまいがしてしまった。
「たったのこれだけか……」
金貨が数枚、あとは銀貨や銅貨のみでその辺にいる貴族たちのほうがはるかに持っているだろう。
更に収入源たる国民達はほとんど残っておらず、現状だと減る一方ということがはっきりわかる。
領地を任せている貴族達は一切金を納めていない。
おそらく彼らが私腹を肥やしていたのだろう。
しかし、彼らを取り締まろうにも今は力が足りない。
ただ、俺からすれば帳簿に書かれている支出の数々は用途がわからないものばかりなので、その場にいたら問い詰めていただろうな、と思う。
まぁ、そんなことを今更いっても仕方がない。
とにかく今は金を稼ぐ方法だ!
「とりあえずいらないものは全て売っていくか。この城の使用人は……三人か。すでに城の掃除も回っていないだろう。早急に増やすことを考えないといけない。あとは金を集めて国の体裁を整えていく……。これが最優先だな」
見栄を張るための絵画や豪華な絨毯や家具、更には武器庫に残されていた武器や防具、更には宝石の類いも一切を集めて、城下町の商店へ持ち運ぶ。
ただ、商店も店を閉じており、思わずうなだれてしまった。
「最初の最初でつまずくとは……」
「どうかしたのか?」
「あぁ、金がないので色々と売りに来たのだが店が閉まっていてな……」
「そうか、ちょっと待っていろ。今開けてやる」
その言葉を聞き、はっと顔を上げる。
「まさかここの店主か?」
「あぁ、そういうことだ。本当なら今日店じまいにして別の町へ行こうと思ってたんだが――」
「それではこの品を全て買い取ってくれ」
俺は荷台に乗せたものを見せる。
「これは――あの城の備品か? さすがに盗品は扱わないぞ?」
「いや、俺はあの城の者だ。今日から政務全般を担当するアルフ・ユールゲンだ」
「あ、アルフ様でしたか。それにしても備品を全て売るなんて豪快ですね……」
商人は急に敬語に変わる。
立場の違いを考えると仕方ないだろう。
「そんなことないだろう。今は国を立て直す方が優先だ! そのための費用を作るためならこの程度当然だろう?」
金を稼ぐにも先立つものが必要になる。
その準備すらできない状態だったから、今は少しでも金を作るしかないからな。
「そ、そうなのですね……。では、こちらを買い取らせていただきます。全て併せて金貨十枚……でいかがでしょうか?」
「助かる。それで頼む」
「かしこまりました。では、お金の準備をいたします。少々お待ちください」
商人が大慌てで金の準備をしてくれる。
そして、店を出るときに「またのご利用お願いします」と深々と頭を下げて見送られた。
今日で閉店するのではなかったのか?
まぁ、いてくれるなら俺としては助かるのだけれどな。
とにかくこれでひとまず動く分の金はできた。
次に必要なのは国民が働く環境か……。
特に貴族が私腹を肥やした結果逃げられている以上、生半可なことでは戻ってきてくれないだろう。
とりあえず残ってくれた人たちの労働環境を改めていくところからだな。国民なくして国はあり得ないからな。それはつまり国民がいないと金が手に入らないと言うことだ。
だからこそ、国民には手を差し伸べるべきだ。
しっかりとした保証をして、働きやすい環境を整えてやる。
そうすることで最終的に俺に還元されるというものだ。
◇■◇■◇■
「はぁ……、はぁ……、た、確かこのあたりに国があったはず……。で、でも、私でも入れてくれるかな……? 人族の国に魔族である私を……。元々住んでいたとか言えば可能性はゼロではない……よね。いくら人族と魔族が犬猿の仲でよく戦争をしていると言っても……」
白銀の長い髪をした小柄な少女は息を荒げながら、町へと向かって歩いていた。
ただ、その少女の頭には魔族特有である角がなかった。
元来、魔族とは強力な魔法を操る種族なのだが、その調整を角で行っているためにこの少女は魔族なのに魔法を使うことができない、異端の少女であった。
「それに見た目は普通に人族だもんね。と、とにかく私自身の身分を隠して、なんとか身を隠す場所を見つけないと。魔王の娘なんてことがバレてしまっては殺されてしまってもおかしくないから……。で、でも、魔族国にいても角なしの私は同じように迫害されるだけ……。それなら見た目は人と同じなんだから人族の町の方がまだ暮らしやすいはず……」
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