+ やわらかいと浅黄くん +

ω scene 01

  ◇  ◇  ◇



 ――海、太陽。



 ゴールデンウィーク。俺は入会したダイビングサークルの合宿で沖縄にきている。

 5月から海に入れるなんてさすが南国! 最高だ! 受験から解放されての海は輝きがちがう、たぶん。


 ギラギラしてるアウトドア系サークルかと思ったけど、新歓の雰囲気もやわらかくて、先輩もかっこいいし、同期のことはまだよくわからないけど、今のところは結構いい選択できたと思ってる。


 ……あいつさえいなければ。


 俺につきまとう幼稚園からの幼馴染・千歳。どこで知ったのかサークルまで俺と同じにしやがった(ほかにパンの同好会に入ったらしい)。そんなに泳げないくせに。


 溺れたフリとかしてシャレにならない絡み方するな、と釘を刺したら「水難事故は泳げる人のほうが多いんだよ。浅黄くんこそ『Fラン大学生自然淘汰w』とかヤフコメ欄に書かれないでよね」と言い返されてしまった。Fランじゃねーだろ。

 今朝も当然、空港までべったりだったし疲れる。


 今はビーチで集合まで時間をつぶしているところだ。着替えおわった人からそれぞれ水際で遊んだり、さっそくかき氷を食べに行ったりしている。


 女子は着替えに時間がかかってるみたいだ。あいつ、「水着なにいろか当ててみてー」とか「いちばん最初にみてね」とか言ってうるさかった。更衣室で着るんだからどう考えても一番になんないだろ。ツッコんだら、そういうことじゃないらしくちょっと怒っていた。

 ……ともかくできるだけ千歳を避けないと。サークルでカップル認定されたらたまったもんじゃない。


 もんもん考えていたのを遮るように、がばっと背中に衝撃を感じた。



「浅黄くん!」



 案の定、体当たりしてきた千歳がひょこっと顔をのぞかせる。



「えへ、着替えたー?」


「あっち行けよ……」



 俺がぼやくのを無視して、ジッとサークルパーカーのジッパーをおろした千歳が得意げに前を広げた。

 いつものストレートから三つ編みにまとめたらしい髪が跳ねる。

 


「オレンジにした。みてー」



 視界の端にオレンジ色がちらっと映る。



「あー、みたみた」



 テキトーに返事したとたん、はおっていたパーカーの袖をぐっと引かれた。



「わっ」


「全然みてないじゃん。ねー、かわいい?」


「あーうるさい、かわいくな……」



 そこで言葉を切る。目の前に入りこんできた千歳に違和感を感じて。


 ……コイツ、こんなにおっぱい……



「……詰めすぎじゃね?」



 ついポロっと出た。



「え」



 千歳の表情は一気になくなった。


 うん、見れば見るほどおかしい。だってあれがこうなってそうだろ……。計算が合わない。



「そんなにあるわけないじゃん」



 淡々と言うと、ぎこちない声がかえってくる。



「……知らないだけでしょ、見たことないんだから」



 お、めずらしく動揺してる……?



「それともなーに? どっかで覗いてんの?」



 悔しまぎれ、といった様子で攻撃してくる千歳にいつもの余裕はない。

 こっちをからかって形勢逆転狙い、ってとこだろうけどその手には乗らない。

 照れたら負けだから堂々と受けてやる。



「んなわけ。だいたい分かんだよ。毎日まな板が飛びついてくんだから。必死に詰めてるとこ目に浮かぶわ」



 嫌味を言ってやると、千歳はむくれて、よせてるだけだから、とかごにょごにょ言い出した。



「……詰めてない」


「見栄張っちゃって可哀そうなやつー」



 なんだこれ、めちゃくちゃ気分イイ!



「なんか今日冷たいー」


「いつもだろ。沖縄まで付いてこられてうんざりなんだよ」



 メソメソして。どうせいつものウソ泣きだろ。


 千歳の肩越しに女子の先輩たちが砂浜でキャッキャしてるのがみえる。


 トドメだ。たのしい合宿の邪魔者にはしばらく静かにしててもらおっと。



「わかったら向こうのホンモノおっぱいのところ行けよ、まな板ちゃん♡」



 ガーン、の音が付きそうなくらい千歳にパンチラインがささったらしい。


 ――勝った!



「……確かに」



 うつむいてぷるぷるしながら千歳がなにか言っている。負け惜しみだ。



「下の方はニセモノだけど……」



 顔を上げた千歳は、キッと俺を睨むと、がしっと俺の手をつかんで引っ張って自分の……



こっちはホンモノ!!」


「へぁ」



 手ぇ、なんか、やわらか――……


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