元魔王様とテルイゾラの地下空間 8

 フォルトゥナを見送って待っていたジル達だったが数分もするとフォルトゥナは一人で戻ってきた。

そして席に着くなりテーブルに顔を突っ伏す。


「うっうっ、僕なんて…僕なんて…。」


 戻ってくるなりメソメソと泣き言を呟いている。

結果はお察しである。


「どうやら失敗した様ですね。」


「魔法道具の力を借りても駄目って逆に才能よね。」


 レイアとテスラの言葉で更にフォルトゥナは落ち込んで泣いている。


「フォルトゥナ様の見た目はインキュバス種と言う事もあり、かなり整っていると思いますが何が原因なのでしょう?」


 一見するとフォルトゥナの見た目は格好良い部類だ。

故に何故モテないのかミネルヴァは不思議そうに首を傾げている。


「「がっつき過ぎるところ(です)ね。」」


「な、成る程。」


「うっうっうっ…。」


 レイアとテスラの綺麗に一致した意見にミネルヴァが納得すると更にフォルトゥナは涙を流す。

女主人を虜にした後の事を想像していただけに中々ショックが大きかった様だ。


「娼館では上手く言っていたのだがな。」


 ベタ惚れ薬を娼館で使用したが娼婦には普通に効いていた。

女主人は魅了に対して適性が高いのかもしれない。


「娼館にはジル様も行っていたではありませんか。フォルトゥナよりもジル様に惹かれたのでは?」


「あり得ますね。」


「うっうっうっ…。」


 二人の言葉でテーブルにはフォルトゥナの涙で水溜りが出来ている。

そろそろ言葉で刺すのは止めてあげてほしい。


「少し宜しいかしら?」


「ん?」


 突然声を掛けられて振り向くと、そこには女主人が立っていた。


「そちらの方に付いては御免なさいね。初対面の人との同伴はお断りしているの。」


 遠巻きにフォルトゥナが泣いている姿が見えたのだろう、わざわざ謝罪に来てくれたらしい。


「気にするな。連れが失礼な事をした。」


「いいのよ、貴方も御免なさいね?」


「いいんです。魅力の無い僕が悪いんですから。」


 フォルトゥナが女主人に慰められている隙を見て、テスラがさりげなく近付いて小声で話し掛けてくる。


「ジル様、チャンスです。私の魅了魔法はフォルトゥナのポンコツ魅了とは訳が違います。この女主人を完全に魅了出来ずとも、ある程度の思考誘導や判断力の低下は可能です。」


 フォルトゥナが失敗したので次は自分が試すと言ってきた。

確かにサキュバスのプリンセスであるテスラの魅了魔法の適性は世界的にもトップクラスだ。

魔法道具に負けたりはしないだろう。


「そうだな、頼めるか?こちらの言動が怪しまれなくなる程度でも構わない。」


「お任せ下さい。チャーミングボイス!」


 テスラが魅了魔法を使用して自身の声に相手を魅了させる効果を付与する。

暫く声を聞いていれば自然とテスラに魅了されていく事になる。


「それでは私はこれで失礼しますね。」


「まあまあ、もう少しいいじゃないの。」


「えっ?」


 謝罪を終えて立ち去ろうとする女主人をテスラが引き留める。

相手に気付かれにくい魔法ではあるが、ある程度の会話をしていなければ効果が薄いのだ。


「せっかく知り合えたのも何かの縁だし一杯くらい一緒に呑みましょう?フォルトゥナもその方が嬉しいわよね?」


「は、はい!」


「そうですか?では一杯だけ。」


 フォルトゥナはテスラの魅了魔法の使用に気付いてすらいないだろう。

単純に女主人と一緒に呑みたいから頷いただけだ。

そこから女主人を引き留めて話しながら酒を飲む事数分、女主人はテスラの虜になっていた。


「と言う事で魅了完了です。」


「相変わらず鮮やかな手際だ。」


 やはり魅了魔法に関してはテスラの右に出る者はいない。

さすがはサキュバスのプリンセスである。


「本人は操られている事にも気付いていません。ついでに店主の方も魅了状態にしておきましたから心置きなく会話出来ますよ。」


「さすがはテスラだ。」


「それ程でもあります。」


 席からは離れた場所にいた店主すらも魅了していた。

あまり他者に知られたくない話しをするので完璧な配慮である。


「ミーナさん、その若さで娼館を束ねる女主人なんて惚れ惚れします!」


「フォルトゥナ、交代だ。」


 女主人であるミーナと楽しそうに会話していたフォルトゥナを下がらせる。


「えっ!?これから僕の口説き文句でミーナさんとの恋が始まるかもしれないんですよ!?」


「無いから安心しろ。」


「ぐほおっ!?」


 ジルからの真っ直ぐな否定の言葉のナイフで刺されたフォルトゥナは床に倒れる。

丁度席が空いたのでジルがそこに座る。


「さて、ミーナと言ったな?」


「はい、何でしょうか?」


「実は我らは地下へ行きたくてな。」


「地下ですか?」


 魅了魔法で操られているミーナだが会話は普通に出来る。

怪しまれない今の内に聞きたい事を尋ねる。


「地上と地下を行き来するには権限がある者でないと駄目なんだろう?」


「はい、テルイゾラの地下は世界中から運び込まれたオークション出品物を管理する場所ですから。人の行き来は最小限にして管理する必要があるんです。」


 ジルの質問にミーナが頷く。

しっかり出入りの管理をされているので権限を持たない者が通るのは難しいらしい。


「そこを何とかして我らも連れて行ってもらえないかと頼みたくてな。」


「少し難しいですね。どなかのご紹介があれば多少は融通が効くのですが。」


「紹介?」


「テルイゾラへ多くのお金を落としてくれる方には権限を持つ方々が地下世界への招待もしているのですよ。かなり稀ではありますけど。」


 どうやら権限を持つ者にはある程度の招待の自由が与えられているらしい。

しかしそれをしてもらう為には何か証拠を提示する必要がある。


「成る程、それなら話しが早い。実は我の知り合いにこう言う者がいてな。」


 そう言ってジルが無限倉庫から取り出したのは一枚のテルイゾラへの入行許可証だった。

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