魔法生命体達と浮島防衛戦 8

 タイプCの言葉を聞いてリコエルは周囲を見渡す。

現在自分達と相対しているのは三人だと思っていたがまだ仲間がいると言う。

だが実際に戦っているタイプBとタイプD以外にそれらしい仲間は見当たらない。


「ハッタリか?」


「分かるのですよ、同じメイドですから。ここに近付いてきてくれているのが。」


 タイプCは感じ取っていたのだ。

遠くから接近する最後のメイドゴーレムの気配を。


「ならばその前にお前を始末する。」


「残念ですが既に時間切れです。」


「何?くっ!?」


 飛来する高威力の一撃に気付いてリコエルが大きくその場から飛び退く。

それはタイプAが放った魔力の塊だ。


「遅くなって悪かったな。」


「おいおいタイプC、ピンチじゃないか。俺が助けてやるよ。」


 頼もし過ぎる二つの声が頭上から聞こえてきた。

飛ばしてきたおかげでタイプCの救援に間に合った。

聖痕持ちの一人と戦闘中の様であり、タイプCを手こずらせるとは中々強そうだ。


「マスター、あいつは俺がやってもいいんだろ?」


「ああ、任せる。」


「うっし、軽く消し飛ばしてやるぜ。」


 新たな獲物を見つけたタイプAが獰猛な笑みを浮かべて言う。

久しぶりに無限倉庫から出したのでまだまだ暴れ足りない様子だ。


「タイプA、久しぶりですね。その天使はお任せします。」


「おうよ、俺に任せておけ。」


 タイプCに変わってタイプAが聖痕持ちの天使に向かっていく。

タイプAにはジルが重力魔法を使用しているので空中戦も問題無い。


「駆け付けるのが遅れて悪かったな。」


「いえ、問題ありません。こちらの被害はありませんから。」


「その様だな。結界内の浮島も問題無さそうで安心した。」


 ジルの展開している結界がかなり消耗させられているが突破まではされなかった。

皆が頑張って持ち堪えてくれたおかげだ。


「結界外では私、タイプB、タイプDが天使達と戦闘を行い、聖痕持ちを三体、上級以下の天使を合計二百体以上撃破済みです。私は一体も聖痕持ちを倒せず申し訳ありません。」


 タイプCが現状の戦果報告をしてくれる。

戦闘を行いながら戦場の状況把握までしてくれていたらしい。

しっかり仕事はしてくれているのに、他の二人と違って聖痕持ちを倒せなかった事を悔いている。


「それは仕方無い事だ。タイプCは元々戦闘に特化している訳では無いからな。こう言った状況分析をしてくれているから助かっているぞ。」


「そう言っていただけるだけで幸いです。残る天使達の中に目の前の天使を除いて聖痕持ちが二体程いる様ですが、そちらはタイプBとタイプDが既に交戦中の様です。」


 激しい戦闘の余波がこちらにまで伝わってくる。

どちらも派手に戦っている様だ。


「ならば全員早々に終わらせられそうだな。後は聖痕を持たない天使だけか。」


 結界に攻撃を加えている者、こちらの様子を伺っている者、聖痕持ちの援護をしようとしている者とそれなりの数が残っている。


「苦戦はしませんが数が多いです。私も微力ながら数を減らします。」


「そうだな、我らだけでも時間を掛ければ殲滅は容易い。聖痕持ちは任せて早速取り掛かるか。」


「了解しました。」


 ジルとタイプCでそれぞれ上級以下の天使を倒しに向かう。

聖痕持ちは戦闘狂メイド達で事足りるとの判断だ。


「ん?マスターは行っちまったか。もうお前に興味は無いってよ。」


「はぁはぁ、あり得ない、聖痕で強化状態なのだぞ。」


 ジル達が話し合っている間にもタイプAはリコエルと軽く戦闘を行っていた。

タイプCが苦戦した相手だったが、僅かな時間でもう追い詰めていた。


「何の聖痕か知らないが多少の強化で俺の攻撃が防げる訳無いだろ?お前のお仲間も簡単にやられたんだからな。」


「お前達が駆け付けてきたから予想は付いたが、やはりライエル達はやられたか。これ程とはな。」


 相手の力量を見誤っていたと言わざるを得ない。

聖痕持ちをこれだけ投入して全員返り討ちになるなんて予想出来る訳が無かった。


「今更気付いてもお前が死ぬのは確定だぜ。俺が確実に殺してやるからよ。」


「せめて道連れだ。死んでいった同胞達に貴様の首を持ち帰ってやる!」


 リコエルが聖痕と魔装を使って自分を強化する。

文字通り最後の力を振り絞る。

だがリコエルの真の狙いは別にあり、この言動と行動は本当の目的を隠す為の虚勢だった。


 リコエルは聖痕の力を使って統率下にいる何体かの上級天使に念話をして指示を出していた。

ここで全滅になる事が一番最悪なので、今直ぐに戦線を離脱して情報を持ち帰ってもらうのだ。

リコエルは自分の命よりも情報を優先した。


「はっ、俺様の首だと?今の俺はマスターよりも強いぜ?それはつまり不可能って事だ!」


「くっ!?」


 タイプAの怒涛の攻撃にリコエルは防戦一方だ。

数分も経てば全身ボロボロであり、息も絶え絶えにさせられた。

だがその数分でリコエルの目的は達する事が出来ていた。

上級天使の一人が安全圏まで逃げ切れたのだ。


「これで止めだ。残りも直ぐに片付けてやるから安心して逝け!」


「ごはっ!?」


 タイプAのショットガンによって放たれた魔力の塊によってリコエルの身体に風穴が出来る。

リコエルが死んで統率の聖痕の力が無くなり、天使達の力が大幅に下がった。

おかげでジルやタイプCの戦闘がかなり楽になった。


「さあて、他はどうなってる?」


 タイプAが辺りをキョロキョロと見回す。

ジルやタイプCが天使達を次々に倒しているが、まだそれなりの数が残っている。


「まだまだ生き残りがいるみたいだな。俺様がぶっ放して殲滅してやるか。」


 アサルトライフルを構えて連射しようとするタイプA。

しかしその瞬間に天使達に異変が起こる。


「ん?どうなってやがる?」


 天使達を殲滅しようとしたタイミングで、浮島周りにいた全ての天使達が真っ逆さまに落下していったのだった。

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