元魔王様と記憶喪失の天使族 9

 ジルはそれを聞いて少し驚く。

まさかこんな場所で接触を図ってくるとは思っていなかった。


「レギオンハートが急に従魔を寄越してまでの伝言とは相当な案件か?」


 人族の街に人化した従魔を潜り込ませるのはリスクがある。

そうまでして伝えたい情報となると重要度が高そうだ。


「それは人次第でしょう。主人は一応報告しておくかくらいの雰囲気でしたから。」


「成る程な。それで伝言は何だ?」


「天使族と魔族による戦争があったのはご存知ですか?」


「もう起こっていたのか。」


 前にレギオンハートからその話しは聞いていたがまだまだ先の話しだと思っていた。

この前ベゼルグルが戦争準備として結晶石を採掘にきていたのもあって準備段階だと思ったからだ。


「つい昨日の事ですね。そして先程終息しました。」


「確か天使族の勝利に終わるとレギオンハートは言っていたな。」


 ジルが魔王だった頃の配下達の殆どが今の魔王軍から抜けてしまった事でかなり弱体化している。

そして一部の天使族はこの世界には無い聖痕と言う力まで有しているので戦力差はかなりある。


「その筈だったのですが、結果は痛み分けと言ったところでしょうか。魔族側の被害は予想より遥かに少なく、逆に天使族側の被害は大きかったですね。」


 どうやらレギオンハートの予想が外れた戦争結果だったらしい。


「魔族がそれだけ強かったと言う事か?」


「それもありますが要因は二つあります。一つ目はこちらの魔法道具です。戦場にて確保してきました。」


 そう言って渡されたのは腕輪型の魔法道具だ。

万能鑑定を使って効果を視てみる。


「自己強化系の魔法道具か。」


「そうです。こちらを魔族の多くが持ち歩いていた事で戦力が底上げされていました。素材は結晶石です。」


「シャルルメルトから持ち去られた物だろうな。鉱山で魔族と出会ったから確定だ。」


 ベゼルグルの採掘した結晶石が魔国で魔法道具に変えられたのだろう。

それで魔族全体を強化したのだ。


「やはりそうでしたか。相当数所持していたので出所は最近話題のシャルルメルトだろうとは思っていました。」


「また来ると思うか?」


 お互いが敵視しているので魔族と天使族との戦いはまだまだ終わらないだろう。

今回で結晶石を使った魔法道具が戦争で有用だと分かったのでまた採掘に来てもおかしくない。


「主人は大丈夫だろうと言ってました。持ち帰った結晶石の量はかなり多かった様で魔法道具は余っている様でしたから。」


「そうか。」


 まだまだ尽きない程所持しているのであれば問題無いだろう。

帰った後のシャルルメルトが少し不安だったので良かった。


「そして二つ目です。こちらの方が重要なのですが、進化の碑石と言う魔法道具を覚えていられますか?」


「進化の碑石、どこかで聞いた事がある様な。」


 聞き覚えのある様な気がする名前だが直ぐに思い浮かばない。


「主人の話しでは元魔王時代に作られた魔法道具だと。」


「そう言えばそんな物を作ったかもしれんな。我は大半の魔法道具は死ぬ前に回収していた筈だが残っていたのか?」


 魔王城の中は随分と片付けた。

収納し忘れた危険な物は無かった筈だ。


「魔王城では無く街に残っていた物や配下に贈られた物はそのままらしいですからね。進化の碑石もそうして残っていた物の一つなのでしょう。」


 さすがにそこまで広がった物は回収が難しかった。

そう言った魔法道具はこの世にも多く残っているだろう。


「確か供物を捧げ自身を上位の存在へと押し上げる魔法道具だったな。」


「その様ですね。何を払ったのか分かりませんが、魔王軍の現四天王達が相当な力を身に付け、戦争では大きな戦果を上げていました。主人も全員を相手取るのは厳しいだろうと言ってましたね。」


 現在の四天王は昔の四天王とは比べるまでも無い実力差の筈だったが相当な力を手に入れているらしい。

レギオンハートにそこまで言わせるとは中々強そうだ。


「レギオンハートが直接戦争を見に行ったのか?」


「いえ、四天王の一人がパンデモニウムを訪れてきました。簡潔に言えば勧誘はしないから邪魔もするなと言う内容ですね。」


 何度も何度も復帰の誘いを断っているレギオンハートが、仲間になるどころか敵になるのは魔族側としては面倒だろう。

今の魔族達は天使族の相手に集中したい筈だ。


「そしてその時に聞いたらしいのですが、その四天王がジル様を探しているらしいです。」


「我を?他に魔族の知り合いがいたか?」


 ジルが元魔王だと知っている者は直接会った魔族達だけだ。

転生して会った魔族はそんなに多くは無い。


「マニエッテと言う四天王なのですがご存知ありませんか?」


「あいつか。鉱山で会った内の一人だ。」


 そう言われると分身体ではあるがマニエッテとは出会っている。

あれでジルが死んだとは向こうも思っていない様だ。


「成る程、そう言う事でしたか。中々厄介な者らしいのでお気を付け下さいませ。」


「やれやれ面倒なのに目を付けられたな。」


 そこからは軽く近況の情報を報告し合って解散となった。

ついでに確保している天使族の事も調べてくれないかと相談しておいた。

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