元魔王様と記憶喪失の天使族 7
ジルは目を開くとソファーに横たわっていた。
そして顔を覗き込んでくる三つの顔。
「ジル様、おはようなのです。」
「おはよう。」
「私が報告中でしたのによく眠っていられましたね。」
シキ、天使の少女、リュシエルの順番で声を掛けられる。
最後のリュシエルは若干ジト目だったが気にせず身体を起こす。
「ふわぁ~、どれくらい経った?」
「10分程なのです。」
シキに尋ねると時間を教えてくれる。
聖痕の力を受けたがそこまで長い眠りにはならなかった。
「こんなに早く起きるなんて驚いた。」
「そうなのか?」
「私の聖痕の力は強力。一度眠らせたら何をされても起きない。本来なら数時間は眠らせられる。」
眠っている間に耳元で声を掛けたり身体を揺すったり叩いてみたりと色々試していたらしい。
全く記憶に無いので睡眠時間は短かったがかなりの睡眠効果の様だ。
「スリープシープの上位互換の様なものか。」
「スリープシープ?」
「羊の魔物なのです。触れたら眠っちゃうから能力は似ているのです。」
スリープシープの場合は強い衝撃や強烈な味覚に作用する物等で目を覚ますが、少女の聖痕の力はそれを上回りそうだ。
睡眠時間に関してはジルはスリープシープに触れていないので比べる事は出来無い。
「魔物と一緒にしないでほしい。」
少女が頬を膨らませて抗議してくる。
自分の力が魔物の力と同じ様だと言われるのは気に食わない様だ。
「悪かった、お前の聖痕の方が遥かに上だ。」
「当然。」
ジルの言葉に満足そうに頷く。
それだけ自分の聖痕の力に自信があるのだ。
「それで報告は無事に済んだか?」
「はい、どちらも報告済みです。レイクサーペントの方は後でも構いませんのでお父様の前で出して頂けますか?」
「事実確認か。」
「そうですね。シャルルメルトがずっと討伐を試みていた相手ですから。」
信頼出来るジルや娘の発言であってもこればかりは領主自らが直接確かめなければならない。
「それが済み次第ベリッシ湖の安全を確かめ、民達にも知らせる予定です。」
「水の精霊の件はどうなった?」
レイクサーペントは討伐したがベリッシ湖は以前と変わってしまっただろう。
水の精霊が再び住み着かなければ領民も寄り付かないかもしれない。
「シキは定期的に精霊界に里帰りしているのです。その時に水の精霊は見掛けたのです。」
「やはり精霊界に帰っていたか。」
住処を追い出されたとなれば元々暮らしていた精霊界に帰るのが普通だろう。
そこにはレイクサーペントの様に自分を害する存在はいない。
「とっっっても不機嫌で愚痴っていたのです。せっかく信仰される場所を見つけたのに魔物に邪魔されたって言ってたのです。」
「ほう、それなら戻ってくれそうだな。」
水の精霊がベリッシ湖での生活を気に入っていたのなら再び住み着いてくれる可能性はある。
元凶のレイクサーペントは討伐済みなのでまた住処としてくれればベリッシ湖は発展するだろう。
「はいなのです。召喚魔法で呼び出せば喜んでまた住み着くと思うのです。」
「ならば早速試すか。お嬢、魔法陣を描いてくれ。」
水の精霊を召喚してベリッシ湖の現状を伝える事にする。
「召喚用の魔法陣ですね。ですが室内だと狭いですよ?」
「初級で問題無い。」
「応じてくれますか?」
「実績があるから大丈夫だ。」
シキの呼び出しもそれで成功したので問題無いだろう。
リュシエルが魔力を指先に集めて床に魔法陣を描いていく。
「我が呼び掛けが届いたならば、召喚に応えろ!」
ジルが魔法陣に魔力を流しつつ召喚魔法を使用する。
すると魔法陣が光り出してシキと同じ小さな羽を持つ小人が召喚される。
「ここは?ん?」
水の精霊が召喚された場所を見回していると、とある一点でピタリと視線が固定された。
その視線が向けられていたのはジルである。
「ま、ま、まままお!」
「初めましてだな水の精霊よ!」
シキと違って精霊眼で直ぐにジルの前世に気が付いた様だ。
余計な事を言わない様にジルが言葉を被せて、シキはリュシエルの後ろから口に指を当てて話さない様に伝えている。
「え?あ、はい。その、初めまして?」
状況がよく分からず困惑している水の精霊。
「水の精霊が本当に召喚に応じてくれるなんて!」
「お嬢、伝えてやるといい。」
「はい、水の精霊に伝えたい事があります!」
状況をよく分かっていない水の精霊にリュシエルがベリッシ湖の事を説明する。
すると水の精霊の表情がどんどん驚きと喜びの表情に変わっていく。
「ほ、本当か人族!私の住んでいた湖が解放されたのか!」
「はい、これからは昔の様に住んでもらっても構いません。」
「おおお!憎きレイクサーペントがついに!感謝するぞ人族!」
水の精霊は全身で喜びを表してリュシエルに感謝を伝えている。
ベリッシ湖には問題無く住んでくれそうな雰囲気だ。
「倒したのは私では無く、こちらのジルと言う冒険者です。」
「え?あ、その、ありがとうございます。」
「気にするな、お嬢の頼みだったからな。」
リュシエルの時とは違って丁寧にお辞儀をする水の精霊。
さすがにジルの前世を知っていて上からの物言いは出来無い。
「い、色々と尋ねたい事はあるけど、それはシキに今度聞かせてもらうとしようかな。わ、私は再び信仰の対象となりに向かわなくては。」
今は自分の元住処の事が一番気になる。
レイクサーペントに奪われていて変わってしまった住処を早く元に戻したい。
「送ってやろうか?」
「いえいえいえ、滅相も…じゃなくて、このくらいの距離であれば一人で問題はありません。」
水の精霊が恐れ多いとばかりに手をブンブンと振って遠慮する。
「ではこれで失礼しても?」
「ああ、またベリッシ湖で暮らしたいかどうか聞く為の召喚だったからな。」
「そうでしたか、それでは失礼しますね。」
水の精霊も再びベリッシ湖で暮らす事になり、昔の平穏を取り戻す事が出来た。
これで少しでもシャルルメルトに対する外からの印象が変わってくれれば御の字だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます