68章
元魔王様と結晶石泥棒 1
ブリオル達の件が片付いてから数日、ジルによるリュシエルの訓練が続いた。
元々戦闘の才能があった様で、ジルの厳しい訓練に必死で食らい付いて日々実力を磨いていた。
「今日はこのくらいにしておくか。」
「つ、疲れました。」
地面の上で大の字に倒れて息を整えているリュシエルに言う。
そのまま倒れているので背中や髪が土で汚れている。
「貴族令嬢らしからぬ姿だな。」
「そう思うのであれば立っていられるだけの余力は残させて下さい。」
そう言って恨めしそうな視線を向けてくる。
リュシエルとてこんな姿を晒したくは無い。
「無駄口を叩ける元気があるのならまだ続けてもいいんだぞ?」
「こ、これ以上ですか?」
ジルの言葉を聞いて頰を引き攣らせる。
既に身体は限界だが、ジルならばポーションで無理矢理回復させてきても不思議では無い。
「お嬢様をこれ以上訓練させるのはお止め下さい。」
「過度な訓練は身体に悪いです。」
見学していた騎士達が止めに入る。
ジルからの訓練はリュシエルの希望なので黙って見守っているが、見過ごせない場合は介入してくる。
「冗談だ。我もそこまで鬼では無い。」
「「どこがですか。」」
既に充分やり過ぎだと言うレベルなのだが、ジルからすればこれくらいは普通だ。
大切に育てられてきた貴族とは価値観が違う。
「お嬢様、ジル様、果実水でも如何ですか?」
「頂きますねアンレローゼ。」
「貰おう。」
受け取った果実水で喉を潤す。
果物の自然な甘みが訓練の疲労を解かしてくれる様だ。
「お嬢様は随分とお強くなられましたね。」
「まだまだです。日々強くなっているのは実感出来ますが、その分ジルが遥か先の存在だと理解出来てしまいましたから。」
強くなればなる程ジルと言う存在が自分とは次元の違う強さを有しているのだと分かる。
その力に憧れたので目標ではあるが道は険しそうだ。
「なんだ、我を目標にしているのか?」
「目指すなら高みを。いけませんか?」
何事も高い目標の方がやる気が出る。
強さを追い求めるならジル以上に適任はいない。
「いや、構わんぞ。楽しみにしている。」
「予想外です。無謀だと言われるかと思いました。」
「絶対なんて無いからな。それに我にも出来無い事はある。」
「ジルに出来無い事ですか?」
こんな規格外の存在に出来無い事なんて一見見当たらない。
強いて言えば料理くらいに感じる。
「幾らでもあるぞ。一人で生きていける者なんていない。どんなに万能な力を有していてもな。」
遠い過去を振り返りながらしみじみと呟く。
何故かリュシエルはその言葉に重みを感じた。
「おーい、ジルー。」
遠くからこちらに声を掛けながらダナンが近付いてくる。
最近会っていなかったが久しぶりに屋敷に戻ってきた様だ。
「どうかしたか?」
「また結晶石の採掘に協力してくれんか?」
「何?既に必要数分は確保したと言う話しではなかったか?」
シャルルメルトに到着して数日でお互いの目標分は集めた。
なので各々残りの時間は自由に過ごしていたのだ。
「ああ、もう充分に確保してある。狙いたいのは今までとは少し違う結晶石だ。」
「違う結晶石?」
「そう言えば鉱山に潜った者達から報告が入っていましたね。普通の結晶石に比べて明らかに大き過ぎる物が見つかったと。」
結晶石に関する報告を思い出してリュシエルが呟く。
何か鉱山関係の進展や情報があれば直ぐに公爵家に届く様になっている。
「リュシエル嬢、正にそれだ。わしの国では大結晶石と呼ばれていた。」
「珍しいのか?」
「結晶石ですら珍しいのに、それの巨大化した物なんだから珍しく無い筈がない。わしの国でも過去に数十個しか見つかっておらん希少性だ。」
ダナンの故郷の国は鉱山資源が豊富なドワーフの国だ。
そんな国で殆ど発見報告が上がっていないとなるとその価値は相当な物だろう。
「それがシャルルメルトで見つかったと言う事か。」
「鉱山のかなり深い場所でだがな。」
情報を聞き付けたダナンとしては是非手に入れておきたい。
今ならその近くやそれよりも下に埋まっている可能性はある。
「荷車で運び出したシャルルメルトの冒険者達が売却にきたのですが、お父様がかなり高額で買い取っていた筈です。数年は遊んで暮らせるのではないでしょうか?」
「よし、採掘に向かうぞ。」
「ジルならばそう言うと思っていたぞ。」
ジルの返答にダナンが満足そうに頷く。
一つ採掘するだけで数人が数年遊べる大金が手に入るなんて凄まじい鉱石だ。
今は特に金に困ってはいないが金策にはもってこいの鉱石である。
「今日の訓練は終わったので構いませんが、ジルはそんなにお金に困っているのですか?」
「あって困る物では無いだろう?簡単に大金が稼げるのであれば、やらない手は無い。」
異世界通販のスキルを使用すると金が一瞬で消えていくので稼げる時に稼ぎたい。
「鉱山の深層なので魔物も強いのですけど、ジルならば問題無さそうですね。」
「その為の護衛だからな。だがダナン、多少は分け前を貰うぞ?」
仕事は既に完了した様なものだった。
大結晶石の採掘は臨時収入を貰いたい。
「分かっている。わしは大結晶石、ジルは大金でどちらも満足だろう?」
「分かっているならいい。では早速向かうか。…ん?何だお嬢?」
服の裾をリュシエルが掴んでいるので振り向いて尋ねる。
「私も向かいます。鉱山へ共に連れて行って下さい。」
リュシエルがニッコリと微笑みながらそう言ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます