元魔王様と街巡り 8
ダナンの店を後にして次に訪ねたのは一つの商会だ。
「シュミット、いるか?」
「ジルさんやないか!久しぶりやな!」
嬉しそうな表情で迎えてくれるのは商会長であるシュミットだ。
転生して魔の森で目覚めた時に一番最初に出会った人族である。
「護衛依頼で王都に行っていたからな。」
「私と一緒にね。」
「ラブリート?こんな場所で会うなんて奇遇だな。」
奥の棚からジルの声に反応して出てきたのはラブリートだった。
「ラブリートさんは商品を卸しにきてくれたんや。」
「王都で購入した化粧品よ。」
傍らに積まれた箱を指差して言う。
王都で購入した大量の美容関係の商品が詰め込まれている箱だ。
無限倉庫に入れなければ持ち帰れない量を購入していた。
「我に運ばせる程購入していた化粧品か。自分では使い切れず売る事にしただけではないのか?」
「違うわよ。事前に王都に行く事を話したら仕入れを頼まれていたの。」
「王都の品物は進んどるからな。自分の店の商品の向上ついでに、知り合いの商人に用意してもらったんや。」
本当に商品の仕入れを頼んでいたらしい。
だが持ち込まれている量を見ると自分で使う分も充分過ぎるくらいに確保している様だ。
「セダンの女性達も王都の商品は欲しがっているからね。簡単に行ける場所じゃないから私が持ってきてあげたって訳よ。」
同じ女性として見過ごす事は出来無いとでも言いたげだ。
それについて突っ込むと物理の突っ込みが返ってきそうなので、いつも通り触れないでおく。
「大量の商品を運んだのは我だがな。」
「そのお礼は払ったでしょ?」
「貰いはしたがいつまで預かっていればいいのだ?」
確かに運搬費でそれなりの報酬は貰っている。
しかしその大半はまだ無限倉庫の中に入ったままだ。
「昨日受け取ってもよかったんだけど、帰ったばかりでバタバタして解散になっちゃったから今受け取ろうかしら。」
昨日は久しぶりにセダンに帰ってきたので各々忙しかった。
ジルの代わりにギルドで依頼の報告もしてくれたので受け渡す時間は無かった。
「今受け取ると言っても相当な量だぞ?これもシュミットの店に卸していくのか?」
「そんな訳無いでしょ。殆どは私のよ。」
「ラブリートさん、運ぶ為の馬車を用意させるで?」
「あら、助かるわ。お願いするわね。」
「お安い御用や。」
シュミットが従業員達に声を掛けて馬車を何台か用意してくれた。
ジルは馬車の荷台に次々と化粧品を出して積んでいく。
「こんなに買っとったんか。凄まじい量やな。」
用意した馬車の荷台が殆ど埋まってしまってシュミットが驚いていた。
これだけの馬車が埋まるとは思っていなかったのだろう。
「これでも足りないとか言っていたんだぞ?おかしいと思わないか?」
「男共には分からないのよ。それよりジルちゃんは何の用でここにきたの?」
「我は買い取りを頼もうと思ってきた。」
そう言って無限倉庫の中から取り出したのは、浮島で巣作り中のハニービー達が作り出す極上蜂蜜である。
「こ、これは極上蜂蜜やないか!?」
ジルの手から物凄い速度で極上蜂蜜が入った瓶を奪い取って間近で見ている。
非戦闘員とは思えない速度に少し驚いた。
「さすがは商人、よく分かったな。」
「あら?ハニービーが巣作りをして蜂蜜を貯めるには時間が掛かる筈だけど?」
「これは王都で取ってきた分だ。」
ラブリートの言う通り浮島では巣作りを始めたばかりで極上蜂蜜なんて一滴も溜まっていない。
収穫にはまだまだ時間が掛かるが、それまでの間を補う分は王都のハニービーの巣から貰ってきている。
「ジルさん、これどんくらい卸せるんや?」
目の奥を金の形に変えてシュミットが尋ねてくる。
売ればかなりの利益が見込める事を理解している。
「そうだな、持っている分から定期的に数瓶程度なら渡しても問題無いぞ。シュミットの商店を利用させてもらう形になるからな。」
「利用?詳しく聞いてもええか?」
「それなりの数を持っているが、供給はまだ安定していない。安定したらシキの店で販売する予定だ。」
元々自分達が浮島で作った物や手に入れた物の余剰分を気軽に販売出来る様に店を構えたいと話して出来たのがシキの店だ。
いずれは極上蜂蜜も販売して主力商品にしたいと考えている。
「シキさんの店って事は精霊商店やな?」
「ああ、さすがに知ってはいるか。供給が安定するまでどのくらい掛かるか分からないから、先にシュミットの店でセダンに広めてもらおうと思ってな。」
「どうして自分の店でやらないの?」
ラブリートが不思議そうに首を傾げる。
販売出来る店を持っているのだから他に頼る必要は無いのではと思っているのだろう。
他に頼めばその分金も掛かって損をする事になる。
「新興の商店だから今ある物でも充分過ぎる客足で忙しそうにしている。もう少し店員達が慣れるまでは人気商品を入れるのは待とうと思ってな。」
店は浮島から卸している商品だけで手一杯な様子だった。
働いているのは大人だけで無く孤児院の子供もいるので、慣れるまでは無理をさせたくない。
「確かに極上蜂蜜となると客が一斉に押し寄せそうやしな。それに販路が安定しとるうちの商会ならセダン全域とも交渉が可能や。」
ジルが求めているのは正にそこであった。
セダンの街に極上蜂蜜が手に入ると言う状況を周知させられれば、いずれ販売する時にシキの店まで足を運んでくれるだろう。
トゥーリが商会長となったビーク商会に頼んでもいいのだが、今は帰ってきたばかりで忙しい時期なのでこちらを頼る事にした。
ついでにトゥーリに貸しを作ると面倒だとも思ったので、恩義を感じてくれているシュミットの方が都合が良い。
「いずれは卸せなくなるが、それまでは儲けさせてやれる。悪くない提案だろう?」
「ジルさんの頼み事で儲け話しに繋がらん事なんてあらへんからな。勿論期間限定でも喜んで引き受けるで!」
シュミットが快く引き受けてくれて極上蜂蜜を高値で買い取ってくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます