元魔王様と街巡り 3

 突然アレンが頭を下げてきたが状況がよく分からない。


「孤児院を助けた?前に金に困っていた時の事か?」


 孤児の一人が孤児院のお金を使って装備を整え、魔物狩りをして皆の暮らしを良くしようとした一件があった。

その結果はおそらく魔物に返り討ちにあったのだろう、孤児が行方不明になってしまい孤児院のお金が無くなっただけで終わり、ジルが食べ物を分けてあげたのだ。


「それもあるが俺が言ってんのは別件だ。孤児院のシスターやチビ達を雇ってくれたおかげで裕福な暮らしが出来てる。それについての礼だ。」


「それなら礼を言う相手が違うな。我は何もしていない。」


 ジルがいない間に店の手伝いとしてシキが雇っただけである。

それに関してはセダンに戻ってきてから知ったので、孤児院を助けたのはジルで無くシキだ。


「当然精霊の方にも礼を言ってあるぜ。だがあの精霊はジルの契約精霊だろ?主人にも筋を通しておきてえと思ってな。」


「律儀な奴だな。」


「それくらい恩恵を受けてんだよ。お前は暫くいなかったから知らねえと思うがな。」


 シキに雇われる様になってから孤児院の財政は一気に潤った。

孤児達に普通の生活をさせてやれる事が大人達は何よりも嬉しかったのだ。


「随分と精霊商店は繁盛しているらしいな。」


「そうだな。物珍しい商品を多く扱ってるから注目を集めやすい。それに大々的にセダンに広まってる新しい料理。こいつが外から客を呼びまくって相乗効果がある。」


「成る程な。」


 物珍しい商品は浮島で実験した成果物だ。

過程は見せられない物も多いが、成果物であれば流しても問題は無い。

そして珍しい物が多いので皆が注目するのも当然だ。


「我は店に立つ予定は無いからこれからも頑張ってもらいたいところだな。」


「おう、チビ達も安心して働かせられるから助かってるぜ。そのおかげで最近は冒険者業に専念出来てるからな。」


「稼げているのか?」


「さっきも依頼で高ランクの魔物を仕留めてきたところだ。たんまり稼げたぜ。」


 アレンは孤児院の卒業生であり、自分を育ててくれた孤児院の事を気に掛けていた。

それがシキの開いた店のおかげで状況が変わったので、自分の為に時間を使う余裕が出来た様だ。


「それだけ稼ぎがあるならいい加減に装備の更新をしたらどうだ?」


 ジルがアレンの背負っている装備に目を向けて言う。


「おいおい、こいつを捨てろって言うのか?」


「逆にまだ呪われた装備を持っている事に驚きだ。」


 アレンは初めて出会った時と同様に現在も呪いの武具を使用していた。

強力な能力を持つ武具である代わりに使用者に負担を掛ける諸刃の剣だ。

好んで使いたがる者の気が知れない。


「ジルは良い印象が無えのかもしれねえが、俺はこいつに何度も助けられてんだ。そう簡単に手放す事は出来ねえよ。」


「何度も殺されそうにもなってるだろう?」


「それは俺が上手く扱えてねえだけだ。」


「重症か。」


 何を言っても手放す気は無さそうだ。

武具に殺されそうになりながらも実際に命を救われた事も多いのだろう。


「そんな事より話しの続きだ。冒険者業に集中出来る様になったからパーティーを組んだんだ。」


「ほう、ずっとソロだったのについにか。」


 アレンは孤児院の為にCランクに留まっていたので高ランク冒険者では無いが実力は高ランク冒険者と遜色無い。

ずっとソロで活動出来ていたのがその強さを物語っていると言える。


「まあ、パーティーっつっても二人だけだけどな。」


「相手は我の知っている者か?」


「ああ、知ってるぜ。」


「私。」


 アレンの言葉に答える様に突然背後からひょっこりと現れた。


「エルミネル、久しぶりだな。」


「久しぶり。」


「エルミネルがパーティーメンバーだ。」


 アレンのパーティーメンバーは武闘派エルフのエルミネルだった。

どちらもCランクの割にかなりの実力者である。


「ソロ同士で組んだのか。」


「パーティーメンバーにするなら自分と同等の実力者が好ましいって意見が一致してな。」


 同ランク帯でパーティーメンバーを求めても二人に付いていける者は少ないだろう。

だがこの二人であればCランクでありながら同じ様な高い実力を所持しているのでぴったりだ。


「アレンは合格。ジルも入る?」


「我は既にパーティーを作っているぞ。」


「残念。」


 冗談のつもりで誘ったと思うが、ジルが断ると少しだけ残念そうな表情をしている。


「まあ、そう言う事だから今後も何かあったら宜しく頼むぜ。」


「ああ、何かあれば頼らせてもらおう。」


 この二人の力を借りる様な面倒な事態になってほしくは無いが、頼れる者が多いのは有り難い事だ。


「そんじゃな。」


「アレン。」


「ん?」


「ジルに話す。」


 串焼きを受け取って帰ろうとするアレンの服を掴んでエルミネルが言う。


「おっと、そう言えばそうだったな。すっかり忘れてたぜ。」


「しっかりする。」


 どうやらジルに何か伝えたい事があった様だ。


「お前が当事者なんだから自分で説明すりゃあいいだろうが。」


「リーダーの仕事。」


「ったく、だからリーダーなんてしたくなかったんだ。」


 やりたくもないパーティーリーダーをエルミネルに押し付けられて不満そうである。

どちらかがパーティーリーダーになるとすれば、エルミネルがやっているところは想像出来無いので、必然的にアレンとなるだろう。


「それで我に何か追加の用か?」


「ああ、少し聞きたい事があってな。お前天使と何かあったか?」


 アレンが怪しむ様な視線を向けてきて、そうジルに尋ねてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る