元魔王様と国宝級の武具 6

 店の裏にはそれなりのスペースがあったが、素材や道具が乱雑に置かれていて足の踏み場があまりない。

手分けして片付けるのも面倒なので、ジルが無限倉庫に一度収納して一気に移動させてスペースを無理矢理作る。


「おおお、便利なスキルだな。」


「片付けるスキルじゃなくて収納スキルだからな?」


「これで広くなったの!」


 ホッコが龍聖剣を鞘から抜く。

早く使ってみたくてウズウズしている。


「風刃と龍爪は試しても良さそうだな。」


「何か的を用意しますか?」


 ジルが片付けたのでスペースは出来たが何も攻撃する様な物が無い。


「的だと攻撃を受け止めきれない可能性がある。我が受けよう。」


 ジルが銀月を抜いてホッコの対面へと向かう。


「おいおい大丈夫か?どっちもかなり攻撃に特化したスキルだぞ?」


 ドメスが不安そうな表情でジルに尋ねる。

ジルの実力を知らないのでそう思うのも当然だ。

それだけ龍聖剣の出来が素晴らしいのだ。


「ジル様ならば問題無いでしょう。」


「そうなのか?キュールネがそこまで認めているなんて何者だ?」


 ドメスとキュールネは元々知り合いだ。

過去にキュールネが冒険者として活躍して、Aランクまで至ったのも知っていた。

そんな実力者が認めるとなると普通の冒険者では無いのは明らかだ。


「ランクは低いですが私以上の腕前の冒険者ですよ。見ていれば分かります。」


 キュールネの視線に促されて二人を見る。


「主様、それじゃあいくの!」


「ああ。」


 ホッコに返事をすると龍聖剣を構えて横薙ぎに振るってくる。


「風刃なの!」


 スキルを発動させると振るわれた龍聖剣から風の斬撃が生み出される。

斬撃はジル目掛けて真っ直ぐに飛んでくる。


「ふっ!」


 ジルが斬撃に合わせて魔装した銀月を振るう。

すると銀月に斬られて風の斬撃は霧散した。


「斬撃が出たの!」


「まさか風刃を両断してしまうとは。実力も確かだがあの武器も相当な業物か。」


 ホッコは斬撃が飛び出た事に喜び、ドメスは斬撃を両断したジルに驚いていた。


「次のスキルなの!」


「それは近接系のスキルだから近くで使ってみるといい。」


「分かったの!」


 ホッコがとてとてとジルに歩み寄ってきて龍聖剣を構える。


「龍爪なの!」


 ホッコが嬉々として龍聖剣を振るってくる。

ジルは一応全身を魔装して身体能力を強化した上で銀月で受け止める。

銀月に中々の衝撃が伝わってくる。


「おっと。」


 その直後に銀月に龍聖剣の衝撃以上の衝撃が加わる。

まるで巨大な三つの爪で斬り付けられたかの様な激しい衝撃により、ジルは大きく後退させられる。

身構えていたからそれで済んだが、知らなければ吹き飛ばされて大怪我を負っていたかもしれない。


「大丈夫ですか?」


 キュールネが心配しながら駆け寄ってくる。

怪我らしい怪我はしていないが、あんなに押し負けるジルは見た事が無かったので気に掛けてくれている。


「ああ、少し驚かされた。」


「少し驚く程度の威力では無かったと思いますけど。」


 側から見ていても強力なスキルなのは一目瞭然だった。

さすがは龍の名を冠するスキルである。


「凄いの!最高の剣なの!」


 スキルの威力に大満足のホッコが龍聖剣を掲げて嬉しそうにしている。


「喜んでもらえたなら俺としても良かった。さて、それじゃあ早速報酬の話し合いといこうか。」


 依頼主が満足したのを確認してドメスが言う。


「そうだな、先ずは飯にするか?」


「報酬とは別に食わせてくれると言っていたな。しかしそこのメイドのせいで味覚が殺されて今は楽しめそうもない。」


 ドメスがキュールネに恨めしそうな視線を向ける。

だがキュールネはどこ吹く風と全く気にしていない。


「それなら後で思う存分食べてくるといい。」


「お、悪いな。」


 ジルは食事代として金貨数枚をドメスに渡した。

これで満腹になるまで食べられるだろう。


「それで報酬についてだが。」


「ああ、キュールネからは俺が満足出来る品を提供出来ると聞いていた。だから最初に報酬について特に話していなかったな。」


「事前に欲している物は教えてもらっていたからな。」


 既にドメスに渡そうと思っている物も決まっている。


「何か条件に当て嵌まる物があったって事だな?」


「そうなるな。」


「助かるぞ。欲しくても滅多に手に入らない物ばかりで、ずっと欲しい物が変わっていないからな。」


「まあ、見せてもらったがあの内容だとな。」


 権力者であってもそう簡単に手に入らない物ばかりであった。

便利なスキルを持っていると言っても平民の店主が手に入れるのは厳しいだろう。


「それでどんな物を譲ってくれるんだ?」


「延命に間する物だな。」


「おおお!」


 ジルの言葉を聞いてドメスが嬉しそうな反応を示す。

欲する物の中には寿命を伸ばす類いの物も含まれていた。


「そう言った物が欲しいと書いていたからな。」


「当然欲しい。人族は短命種だからな。伸ばせるなら幾らでも伸ばしたい。それにこの混成装具師のドメスが死ぬのは世界の損失だからな。」


 まだまだ長生きして自分のスキルを使って名を広めたいとドメスは言う。


「随分と大きく出ますね。」


「それだけのスキルを持っているって事だ。」


「まあ、かなり使えるスキルだと我も思うぞ。では報酬を渡そう。」


 ジルが無限倉庫から取り出したのはエルフの里を救った礼として受け取った世界樹の実だ。

食べた者の寿命を伸ばす効果があるのでドメスの注文通りの品物となる。


「美しい実だな。」


「これは世界樹の実と言うかなり珍しい物だ。効果は自前の物で調べてくれ。」


「随分と世界樹関連の物を所有しているのですね。ジル様はエルフと親交があるのですか?」


「さて、どうだろうな。」


 その後世界樹の実の効果を見たドメスが驚愕しており、かなり感謝されてジル達は店を後にした。

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