元魔王様と聖女の魔法訓練 5
それから暫くホッコとグランキエーゼは魔法を使用し続けた。
「…もうこれ以上は…飲めない…うっぷ。」
グランキエーゼが両手で口を押さえて力無く呟く。
すらっとした体型が見る影も無く、ポーションの飲み過ぎでお腹がぽっこりと膨らんでいる。
そろそろ飲むのは限界だろう。
「それで使える様にはなったのか?」
ジルの言葉にグランキエーゼは首を横に振る。
残念ながらまだ超級神聖魔法を使えるまでには至っていない。
訓練はこれまでにもしてきたと言っていたが、やはり簡単には習得出来無い難易度だ。
「ふむ、丁度昼頃か。このままではユテラの言う通りになってしまうな。」
それを聞いてグランキエーゼは悔しそうな表情を浮かべる。
ユテラに頼らずに自分が治したいのだろう。
「だがそれは我も癪だ。故に少しばかり手助けをしてやろう。」
ジルが無限倉庫のスキルを使用する。
そして取り出したのは前世の頃に作った魔法道具の一つ、スキル収納本だ。
これは所持している状態で相手を殺すと、相手の持つスキルをランダムに取り込んでストックする効果を持つ。
そしてストックしたスキルを他者に与える効果も持っている。
このスキル収納本を使い、グランキエーゼに新しいスキルを与えようと考えた。
万能鑑定で視たがグランキエーゼのスキルは聖壁と言う防御系スキルのみだったので、まだ覚える事は出来るだろう。
「今からグランキエーゼにスキルを与える。」
「…スキル?」
「これは他者にスキルを付与出来る魔法道具だ。これを使って魔法の習得に役立つスキルを与える。」
それを聞いてグランキエーゼが驚いている。
他者にスキルを与える魔法道具と言うのは数は少ないが存在はしている。
だがその効果からとても貴重で高価と言うのが常識だ。
それを自分に使うと言われれば驚くのも当然である。
「与えるのは魔導の真髄と言うスキルだ。このスキルを持つ者は魔法の習得速度が格段に高まる。」
「…そんな凄いスキルを貰っていいの?」
「ああ、ただ魔法を早く覚えられるだけのスキルだ。逆にこのスキルを与えても問題無いか?」
本当に効果はそれだけしかないので与えてもジルとしては全く痛手にならない。
と言うのもこのスキルはスキル収納本でそれなりにストックがあるのだ。
凄いスキルの様に感じるかもしれないが、訓練さえしていればその内覚えられる魔法を早めに覚える事しか出来無いスキルだ。
トレンフルにいた頃にルルネットにも与えようと思えば与えられたがそれをしなかったのには理由がある。
スキルは取得限界数があるのではないかと魔王時代に考察した事がある。
魔力量に比例して覚えられる数が決まっている可能性があった。
それを考えるとスキルを与えるのは慎重にならざるをえない。
特に戦闘を生業とする者であれば、いずれ習得出来る魔法の為だけにスキルの所持枠を一つ使うのは非常に勿体無い。
それがルルネットにスキルを与えなかった理由だが完全にヒーラーであるグランキエーゼの場合は違う。
神聖魔法に高い適性を持っているので、おそらく極級まで至る事が出来るだろう。
そして早く神聖魔法をマスターしたいと考えている筈だ。
ジルとしても光魔法や神聖魔法と言ったサポートよりの魔法の適性を持つ非戦闘職は、このスキルが非常に役立つと思っている。
神聖魔法の超級や極級はかなり便利だが使い手が極端に少ないので有り難い存在と思われるだろう。
しかしその為にグランキエーゼのスキルの所持数を増やす事になるので、本当に取得限界数があるかは分からないが一応本人にどうしたいか確認はしておく。
「勿論構わないわ。私は早く全ての神聖魔法を使える様になりたいもの。そして少しでも多くの人達を救える様になりたいの。」
グランキエーゼはジルを真っ直ぐに見て言う。
今の自分には何よりも神聖魔法の習得が一番大切だと思っている様だ。
これ以上教会でユテラの様な金稼ぎで治療する者を野放しにしておきたくないのだろう。
「よし、ならばスキルを与えよう。」
ジルはスキル収納本の魔導の真髄のページを開く。
「グランキエーゼに魔導の真髄のスキルを譲渡する。」
ジルがそう宣言するとスキル収納本とグランキエーゼの身体が光り出した。
その光りは直ぐに収まり、スキル収納本にあった魔導の真髄のストック数が一つ減っていた。
そして万能鑑定で視てみるとグランキエーゼのスキルが一つ増えていた。
魔導の真髄のスキルを無事に取得出来た。
「スキルの付与完了だ。これで魔法の習得速度は格段に上がった。と言う事でこれだ。」
ジルが差し出すのは無限倉庫から取り出したポーションである。
グランキエーゼはそれを見て目からハイライトが消えていった。
それでも超級神聖魔法を習得する為にその後も何度もポーションを飲んで魔法の詠唱をし続けた。
そしてついに超級神聖魔法のパーフェクトヒールの発動に成功したのだった。
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