元魔王様と極上の蜂蜜 4
アーミーワスプの巣がある巨木に近付いていくと中から凄まじい数の羽音が聞こえてくる。
かなりの数が巨木の中に潜んでいそうだ。
「ほお、これは随分と多いな。」
近付きながら空間把握の魔法を使用したジルはアーミーワスプの数に驚く。
巨木の中は広い空洞になっており、アーミーワスプが住みやすい様に巣が作られていた。
巣では育ち切ったアーミーワスプの成虫が幼虫にハニービーや極上蜂蜜を与えて子育てをしている。
育つのが早い魔物なのか餌を食べてどんどん大きくなっていくのが見て分かる。
巨木内ですらそんな勢いで増えていき、成虫もかなりの数がいると言うのに、巣はそれだけでは無かった。
なんと巨木の下の地面の中も掘り進めてアーミーワスプは巣を作っていたのだ。
掘り起こされた地面の下へと巣が伸ばされていき、何十段もの巨大な巣がそこにはあった。
巣の外にいる成虫だけ見ても3桁は軽くいそうである。
これではいくらハニービーを襲っているところを狩っても数が減らないだろう。
「ホッコ、一応集団だと強いらしいから気を付けるんだぞ?」
「了解なの!」
ホッコは剣を振り回してご機嫌に答える。
と言ってもホッコは神聖魔法を使えるのでアーミーワスプに刺されても治癒や解毒が自分で出来る為そんなに問題は無いだろう。
「作戦は簡単だ。巨木の中に入ってアーミーワスプを殲滅する。」
「全部斬ってやるの!」
ハニービーを襲うアーミーワスプを殲滅出来ればこの依頼は達成だ。
直にハニービーも数を増やしていって元の数に戻るだろう。
「火魔法は燃え移ると面倒だし使わないでおくか。ホッコ、逃げられると面倒だから大きな入り口くらいは閉じてくれ。」
「分かったの。アイスウォールなの!」
ホッコが氷結魔法を使用して巨大な氷の壁を出現させる。
それはジル達が入ってきた巨木の大きな穴を完全に塞いで中と外を隔てた。
これで高い位置に空いている穴からしか出入りは出来無い。
「よし、後は殲滅だ。」
「ホッコが沢山戦いたいの!」
「別に構わないがさすがに数が多いだろう。少し我が減らしてやろう。」
ジルが銀月を鞘から少し抜く。
そしてその状態で銀月の鍔と鞘を魔装する。
「ホッコ、全身を魔装しておけ。」
「分かったの。」
「納刀術・斬響!」
銀月を鞘に戻していき鍔と鞘が当たるとチンッと言う心地良い音が辺りに響いていく。
この技は魔装した鍔と鞘がぶつかる事で生じる音にジルの魔力を乗せて、音の刃として辺りに響かせて敵にダメージを与える事が出来る。
攻撃力はそれ程無く、致命傷には程遠い擦り傷程度しか与える事は出来無い。
ホッコの様に魔装している者には傷すら入らないのだが、そうでない者には嫌がらせの様なダメージを入れる事が出来る。
「来たな。」
ジルの攻撃は巨木内のアーミーワスプの巣で広範囲に響いた事だろう。
致命傷にはならないがその攻撃に反応して多くのアーミーワスプの羽音が近付いてくる。
姿を現したアーミーワスプ達は体表に擦り傷を負っていて、少量の緑色の血を流している。
攻撃力は無いが遠距離から多くの相手に流血させる事が出来る。
これこそがジルの狙っていた事だ。
「鮮血魔法、ブラッドフラワー!」
アーミーワスプ達から流れ出ていた血がジルの魔法によって操作され、近くを飛んでいた別のアーミーワスプの身体を貫く。
貫かれたアーミーワスプから流れ出た血も周囲のアーミーワスプの身体を貫き、その連鎖が空中で続いていく。
まるで大輪が咲いた様な緑色の血の花が空中に一瞬で出来上がり、多くのアーミーワスプが力無く地面に落ちていく。
「これで結構倒したか?」
「まだまだ向かってくる音が聞こえているの!」
ホッコが狐耳をぴこぴこと動かしながら巣にいるアーミーワスプ達の音を聞いている。
空間把握でも分かっていた事だがかなりの数がいる。
「後何回かやれば数も減っていくだろう。」
ジルは納刀による音の斬撃でアーミーワスプ達を流血させながら誘き寄せ、鮮血魔法による広範囲攻撃で一網打尽にしていく。
それを数回繰り返すとアーミーワスプ達の死体が量産されて、向かってくる数も随分と少なくなった。
「結構減ってきたの!さすがは主様なの!」
「ならばそろそろホッコに譲るとするか。」
ジルは銀月を鞘に収める。
目の前の地面はアーミーワスプで埋まっているので相当数倒した筈だ。
これで集団による脅威は無くなっただろう。
「やっと出番なの!」
「危なくなったら我も介入するからな?」
「了解なの!」
ホッコは剣を掲げながら嬉しそうに走っていった。
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