元魔王様とエトワールの生誕祭 10
二人が渡し終えたので最後はジルの番となる。
「さて、最後は我だな。」
「この二人の後ではハードルが上がってしまったか?」
どちらの品物も相当珍しく価値の高い物だった。
別に高価な物を期待している訳では無いが、エトワールはジルから貰える物を密かに楽しみにしていた。
「ジルちゃんなら簡単に応えてくれそうだけどね。」
「でも私達も何を贈るか知らないから不安も若干あるけど。」
既に渡し終えている二人もジルが何を渡すのか気になって注目している。
「何を贈ろうかと悩んだが、我も冒険者らしく素材を贈る事にした。エトよ、受け取るがいい。」
そう言ってジルは無限倉庫の中から立派で巨大な牙を一つ取り出してエトワールに差し出した。
突然目の前に巨大な魔物の牙が現れてエトワールは驚く。
「立派な牙だな。有り難く受け取らせてもらう。」
エトワールがジルから牙を受け取って両手で持つ。
「随分と軽いな。」
「この見た目だから重いと思ったか?」
「ああ、想像以上に軽くて驚いている。」
少し身構えて受け取ったのだが手に掛かる重みはあまりにも少なかった。
特殊な牙であるのは間違い無い。
「ちょっとジルちゃん、これどうしたのよ。」
その場にいる者の中で唯一ラブリートだけが驚いていた。
この牙を持っていた魔物の正体が分かったのだろう。
普通に生活していればまず遭遇する事の無い魔物だ。
「スタンピードの時に魔の森でな。」
「こんな化け物がいたって言うの!?」
「と言っても
ジルのドラゴンと言う言葉にその場にいた全員が驚愕の表情を浮かべる。
ドラゴンと言えばその存在自体がSランクに位置付けられる最強の魔物の種だ。
同じSランクの冒険者でも相対すればただでは済まない。
冒険者の最高峰であっても生きて帰れる者の方が少ないだろう。
そんなドラゴンと言う種の中でも世界に魔法を広めたと言われている原初の龍は、ドラゴン種の中でも別格の強さを持っている。
戦うとなればラブリート並みの冒険者が十数人は欲しいレベルだ。
そんなドラゴン種なので若いと言っても普通の魔物とは比較にならない強さを有している。
なので素材を持っているだけでもとんでもない事だ。
「つまりこの牙はその若いドラゴンの物と言う事か。」
「ああ、ドラゴンの牙は良い武器の素材になるぞ。軽いし頑丈で最高の素材だ。」
滅多に出回らないドラゴンの素材なのでそれを素材にした武器も相当珍しく価値が高い。
王国の宝物庫にだって片手で充分数えられるくらいしか無いだろう。
「本当に受け取っていいのか?」
「まだドラゴンの素材はあるからな。」
「そうか、大切に使わせてもらおう。」
エトワールは嬉しそうな表情でジルに礼を言う。
「他のドラゴンの素材はどうするのだ?オークションに出すのか?」
国王が気になって尋ねてくる。
ドラゴンを直接倒したと言う事は他の素材も所持している事になる。
それだけで一財産だ。
欲しがる者は幾らでもいる。
「まだ決めていないな。だが自分で使うかもしれないから取り敢えず所持しておくつもりだ。」
ドラゴンの素材は魔石と牙一つが無くなっただけで殆ど丸々残っている。
今後も使う可能性を考えると手放したくは無い。
「もしオークションで売る気になれば王家が高値で買い取らせてもらうとしよう。」
「ドラゴンの素材が欲しいのか?」
「簡単に手に入る物でも無いからな。欲しがる物は大勢いるだろう。」
王族や護衛の者達が国王の言葉に頷いている。
この場にいる誰もが欲しいと思っている。
「持っているだけで箔が付くからね。貴族でも欲しがる人物は多いと思うよ。勿論私もね。」
「それに冒険者ならもっと数は増えるわね。ドラゴンの素材で作った武器を持ちたいと考える者は数え切れないくらいいるわ。それだけ需要のある魔物なのよ。」
冒険者は武器として、貴族は装飾品としてそれぞれドラゴンの素材を欲する。
どんな者達にも求められる最高の素材である。
「それは良い事を聞いた。売る時には参考にさせてもらおう。」
オークションに牙や爪を出品すればとんでもない金額になりそうだ。
「まさかここまでの物を贈ってくれるとはな。三人共本当に有り難う。」
「いえ、それでは私達はこれにて。」
無事に祝う事も出来たのでジル達は王族達のテーブルから離れる。
すると直ぐに次の貴族が向かっていった。
「ドラゴンの素材を贈るなんて予想外過ぎたよ。」
席から離れて緊張が解けたからかトゥーリが溜め息を吐きながら言う。
「本当よね。まさかスタンピードにドラゴンがいたなんて。ジルちゃんがいなかったらとんでもない被害になってたかもしれないわ。」
「確かにな。我以外に相手を出来るのはラブリートくらいか。」
若いドラゴンと言ってもSランクなのは変わらない。
Aランクの冒険者達では討伐は難しいだろう。
「私だって太刀打ち出来たかは分からないわ。」
「セダンの街が襲われていたらと考えるとゾッとするね。」
「動く災害みたいなものよね。それに空を飛ばれたら私も殆ど見ている事しか出来無いもの。」
近接戦闘を得意とするラブリートだと空を飛ぶ魔物は苦手な部類だ。
何かしら攻撃手段は持っていると思うが普段の力は発揮出来無いだろう。
「それを考えるとジル君って本当にSランククラスの力があるんだね。」
「人外よ人外。」
「自己紹介か?」
「皆様お帰りなさいませ。無事?に謁見が終わった様で何よりです。」
戻ってくるなり軽い言い合いをしている三人を見てキュールネが首を傾げていた。
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