元魔王様と孤児救済の魔物狩り 5

 馬車を走らせる事1時間、目的の場所に到着する。

本来の目的であるグレートバッファローの為に、受けてきたDランクの依頼は到着するなり速攻で終わらせた。

日帰り目的なのでグレートバッファロー狩りや帰りの馬車の時間を考えると時間は節約しておきたい。


「ふむ、目的の魔物っぽいのは見えないな。」


 周囲を見回してみるがグレートバッファローと思われる魔物は見えない。

依頼場所ではあるが範囲が広いので少し移動しているのかもしれない。


 ちなみに美酒の宴の三人は一緒に行動しているが特に口出しもしてこない。

危険な事態になるまではジルの自由にさせてくれる様だ。


「兄ちゃん、グレートバッファローじゃないけどオークは見つけたよ。」


 獣人の男の子が教えてくれる。

指差した方を見ると確かに遠くに何かいるのが分かる。

さすがは五感に優れた獣人族である。


「主様、ホッコが倒したいの!」


「別に構わないが気を付けるんだぞ。それと少し移動するから倒したら来てくれ。」


「了解なの!」


 ホッコは腰に下げていた剣を抜いて嬉しそうに駆けていく。

あれはジルが無限倉庫の中から取り出して渡した魔法武具だ。

所持者の身体能力を高めてくれる効果があるので、近接戦闘に慣れていないホッコでもなんとかなるだろう。


「さて、こっちに移動してみるか。離れずに付いて来るんだぞ?」


「「「はーい!」」」


 孤児達が元気良く返事をしてジルの後に続く。

少し歩いて移動すると遠くに巨大な牛の姿が見えてくる。

今回の目的のグレートバッファローである。


「兄ちゃん、あれ!」


「ああ、グレートバッファローだな。」


 適当に歩いて運良く見つけた、と言う訳では無い。

こっそり空間把握の魔法を使用して周囲の魔物を調べ、グレートバッファローのいる方角に歩いてきたのだ。


「あれは食べ応えがありそうだな。」


「それにとっても美味しいらしいです!」


 孤児達の何人かは味を想像して涎を垂らしたりお腹を鳴らしたりしている。


「Bランクの魔物だけど手助けはいらないのよね?」


 美酒の宴のリーダーである、魔法使いのミチチカが尋ねてくる。

ちなみに剣士がテールナ、弓使いがメリッサと言うらしい。

普段から良くしてくれる優しいお姉ちゃん達だと孤児達が教えてくれたのだ。


「ギルドでも冒険者を倒したのを見ていただろう?」


「対人と魔物では勝手が違うからお手並み拝見ね。」


 三人がジルの実力を楽しみにしつつ静観の姿勢をとる。

孤児達も期待する様にジルの背中を見ている。


「さっさと片付けて肉を食べるとしよう。」


 ジルが腰に下げている銀月の柄に手を添えながら言う。


「ちょっと待って!?剣で相手をするの?」


「何か問題あるのか?」


 テールナが焦りながら尋ねてくる。


「グレートバッファローは近接だと危険な相手だから遠距離攻撃で倒すのが定石だよ?」


「だが火魔法で相手をすると肉を駄目にする可能性があるからな。まあ、見ていろ。」


「えっ、ちょっ!」


 テールナの台詞を置き去りにしてジルがグレートバッファローとの距離を詰める。

猛スピードで接近してくるジルに気付くと、グレートバッファローも地面を思い切り蹴ってジルに突っ込んでいく。


「ブモオオオ!」


 鋭い角で刺し貫こうとグレートバッファローの巨体が迫ってくる。

確かに近接戦闘が危険だと言われるくらいの迫力はある。


「まあ、自力の足りない者ならば危険なのだろうな。」


 ジルは迫るグレートバッファローをギリギリまで引き付けてからその場で軽く飛び跳ねる。

そして下を通り過ぎるグレートバッファローの首目掛けて銀月を振るう。


 それだけで胴体から首が落ちてグレートバッファローが地面に崩れ落ちた。

近接戦闘を生業とする冒険者が苦戦する高ランクの魔物らしいが、ジルにとっては大した事は無い。


「倒したから解体は任せるぞ。」


「「「はーい!」」」


 グレートバッファローが倒されて安全になったので子供達が一斉に駆け寄ってくる。

魔物の解体作業は冒険者の手伝いとしてよくやっているらしいので、皆手際良くグレートバッファローを解体していく。


「グレートバッファローをあんなに簡単に仕留めるなんて…。」


「テールナも出来るっすか?」


「あんなに無駄の無い動きで仕留めるのは難しいよ。下手したら大怪我だし。」


 美酒の宴の三人が今のジルの動きを見て心底驚いていた。

高ランク冒険者で同じ様に仕留められる者がどれ程いるか、それを考えるだけでジルの実力の高さが窺える。


「ん?」


「どうかしたか?」


 獣人族の女の子が兎耳をピクピクと動かしている。

何か遠くの音でも聞き分けているみたいだ。


「凄く大きな足音が沢山近付いてくる。あっちの方角。」


 そう言われて見てみるが特に何も見えない。

同じく隣りで獣人族の男の子が目を凝らしている。


「あっ!狐のお姉ちゃん…ってやばいよ!その後ろにグレートバッファローが沢山いる!?」


 男の子が慌てている。

どうやらホッコがグレートバッファローの群れに襲われているらしい。

それを聞いて美酒の宴が戦闘体制に入る。


「主様ー、助けてなのー!」


 ホッコがグレートバッファローの群れに追い掛けられながら猛スピードで向かってくる。

あの数を相手取るのは今のホッコでは難しいので逃げに徹している様だ。


「あの数はまずいね。皆こっちに集まって!」


 テールナが解体作業中の子供達を一箇所に集める。

散らばっていると守れない。


「ミチチカ、やるっすよ!はっ!」


「上級水魔法、アクアランス!」


 追い掛けられているホッコを助ける為にメリッサが魔装した矢を放ち、ミチチカが巨大な水の槍を作って放つ。


「中級火魔法、ファイアウォール!」


 二人の行動を見て咄嗟にジルが魔法を発動させ、即座に火の壁を作り上げる。

そして矢と水の槍は火の壁にぶつかって消滅した。

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