元魔王様と王都ジャミール 6

 子供の奴隷は直ぐにトゥーリが奴隷契約を行い、自身の奴隷として購入した。

そして査定がまだ掛かるらしいので子供以外の奴隷も見せてもらっている。


「中々ピンと来る子がいないね。」


 奴隷商人が連れてきた奴隷達を交換しにいったタイミングでトゥーリが呟く。


「子供の奴隷と違って随分と悩むんだな。」


「大人の奴隷であればある程度は出来る事もあるからね。わざわざ私が保護しなくても問題は無いさ。」


 購入した子供の奴隷とは違って長い時間を生きている。

何かしら生きる術を身に付けているだろう。


「良い主人に買われるかは分からないけどな。」


 奴隷の誰しもが当たりだと思える主人に買われたいと思っているが、そんな客はごく一部だ。

トゥーリも他の客に比べたらかなり良い客だが、買ってもらえなければ意味は無い。


 なので良さそうな主人だと感じれば奴隷達は買ってもらえる様に必死でアピールをする。

毎回トゥーリへのアピールは凄まじいのだが、残念ながらお眼鏡には叶っていない。


「商館の奴隷を私が全て引き取る訳にもいかないんだから仕方無いよ。せめて未来ある子供達くらいはって言う自己満足の行い、他者から見たら偽善なんだからさ。」


 借金奴隷は犯罪して奴隷に堕ちた訳でも無い哀れな者達だ。

だからと言ってトゥーリが全て救う事は出来無い。


 奴隷商人も商売なので奴隷の受け渡しには金銭が発生する。

貴族と言っても奴隷を大量に買うだけの出費はそう簡単に出来無いのだ。


「そういえば犯罪奴隷は見ないのか?」


「一応貴族で領主だからね。元犯罪経験のある者は近くに置き辛いよ。」


「戦闘面では優秀だと思うけどな。」


 トゥーリは戦闘の出来る借金奴隷を見せてくれとお願いしているが中途半端な実力者ばかりで決めかねている。

こう言うのは罪を冒して奴隷堕ちした犯罪者達の方が荒事は得意なので実力も高いのだ。


「分かってはいるんだよ?私だって実力のある側近は幾らでも欲しいからね。だからそう言う借金奴隷がいないか探している訳だし。」


「自分で稼げるのに借金奴隷になる様な者がいるのか?」


 トゥーリが求める様な実力者ならば自分で稼いでいける。

借金くらい簡単に稼いで返せるだろう。


「滅多にいないから実際に苦労しているんじゃないか。怪我でやむなく、有力者との揉め事、才能がまだ開花していない、ここはそんな状況の奴隷に出会えるかの勝負の場所だからね。」


 言いたい事は分かるがそんなに都合の良い奴隷がいるかは別の話しだ。

トゥーリが欲しがるなら他にも欲しがる客は大勢いるだろう。


「だからジル君も見込みがありそうな子は教えてくれると嬉しいな。」


「戦闘面で言うなら今のところはいないかもな。」


 何人かは少しだけ見込みのある者もいたが、冒険者のランクで言えば中堅以下と微妙な位置だ。

その程度であればわざわざ奴隷として購入しなくても、トゥーリの配下に幾らでもいるだろう。


「お待たせ致しました。こちらが希望に合う最後の奴隷達になります。」


「どう?」


 奴隷商人が連れてきた奴隷を見てトゥーリが尋ねてくる。

しかし今までと変わらないのでジルは静かに首を振る。


「残念だけど見送らせてもらうよ。」


「いえいえ、こちらこそご期待に添えず申し訳ありません。」


 奴隷商人が頭を下げて奴隷達を連れていく。

トゥーリが求める実力者はいなかった。


「残念だけど今回は仕方無いね。」


「いや、まだ連れてこられていないが面白い奴隷がいるみたいだぞ。最後に連れてくると思ったのだがな。」


 ジルは視線を床に向けながら言う。

床の更に下、おそらくは地下にいるのだろう。


「私は何も分からないけど何か感じるの?」


「ああ、かなりの憎悪と殺気、それに生への執着心だな。奴隷にしては珍しい。」


 今まで紹介された奴隷達と違って自由を奪われた奴隷の身分でありながら一切諦めていない。

そう感じさせる程の強い思いが伝わってくる。


「強いの?」


「何を基準とするかだが、シズルくらいの実力はあるんじゃないか?キュールネには及ばないだろうけどな。」


「…キュールネはメイドさんだよ?」


 トゥーリがとぼけているが目が泳いでいるので嘘なのは丸わかりだ。


「あんな物騒なメイドがいてたまるか。旅の道中で普通のメイドで無いのは分かっている。面白い人材を抱えているではないか。」


 魔物との戦闘を何度か見掛けたが、騎士のシズルよりも派手さは無いが戦闘慣れしている良い動きだった。

少し戦闘が出来ると言うレベルでは無く、隠密や暗殺者の様な戦かい方だと感じた。


「キュールネは私の最終防衛ラインだから絶対に渡さないよ?」


「別に欲しいとは言っていない。他の貴族であれば多くが欲するとは思うけどな。」


 見た目が良くて相当な戦闘能力まで備えている女性なんて中々見つからない。

貴族であれば是非自分の側近やメイドとして欲しいだろう。


「はぁ、キュールネが実力者なのは一部の人しか知らないのに。君といいラブちゃんといい、化け物達には隠し通せないんだね。」


 トゥーリが人外の化け物でも見る様な失礼な視線を向けてきたので、額にデコピンをしてやった。

額の痛みに悶絶するトゥーリを見て戻ってきた奴隷商人が首を傾げていた。

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