元魔王様とエルフの上位種 8

 エルティアやドライアとの取り引きも終えて、ジル達はエルフ達と共に森の入り口までやってきた。

恩義を感じてわざわざ見送ってくれるらしい。


「有意義な取り引きが出来て良かったな。」


「こちらこそです。ジルさんに助けてもらえなければエルフ族は滅びていたかもしれません。改めてお礼を。」


 そう言ってエルティアが頭を下げると他のエルフ達も頭を下げる。

後ろの方にはエルリアの姿も見えて、無事に里に戻れていたのを確認出来た。

向こうもジルに気付いて軽く微笑んでいる。


「我も随分と色々貰ったから気にするな。それに今後は万能薬があるのだから心配も無いだろう。」


 万能薬は多めに渡してあるので今回の様な不測の事態が続いても心配は無い。

万全の状態のハイエルフであるエルティアがいれば、大抵の事には対処可能だ。


「そうですね。本当なら母がいてくれればもっと安心出来るのですが。」


「母?」


 困った様に呟くエルティアを見てジルが尋ねる。

一応旅に出た事は知っているが皆の前なので初めてのフリをしておいた。


「現在放浪の旅に出ている私の母です。里での暮らしに飽きたらしく、目的も無く世界を回っているのです。一応100年毎には帰ると言っていました。」


「スケールのでかい旅だな。」


 100年と言うのは初耳だ。

そんな人族の一生単位で旅をするのは長命種ならではだろう。


「ここから外への入り口を開けます。ジルさん、貴方の様な人族に出会えて幸運でした。」


 そう言ってエルティアが手を差し出してくる。

エルフ族が大勢いる前で堂々と人族である自分が握手なんてして大丈夫かと思ったが皆静観している。


「我もエルフ族と交流を持てて良かったぞ。」


 いつまでも手を差し出させておくのも悪いのでその手を取った。


「また用があれば是非いらして下さい。いつでも私は歓迎致します。」


 握手に応じるとエルティアがジルにだけ聞こえるくらい小さな声でそう呟いた。

それを伝える為の握手だった様だ。


「ああ、機会があればな。」


 ジルも小さく呟いて返答すると、エルティアは満足したのか笑顔で小さく頷いた。


「それではエルロッド、エルミネル、貴方達もお元気で。」


「里長様ものう。」


「またくる。」


「空間を繋ぐ道よ、ここに!」


 二人も別れを済ませてエルロッドが何も無い空間に手を伸ばしながらそう言うと、目の前の草木が二つに分かれて道が出来る。

来た時と同じく魔法で作られた特殊な入り口だ。


 エルフ族に見送られながらジル達が森の中を暫く進んでいくと街道が見えてきた。

元の場所まで戻ってきた様だ。


「ではセダンの街まで戻るとするかのう。ジルよ、また頼むぞ。」


「道中の移動の手伝いに関しても報酬は期待しているぞ。」


 そう言いながらエルロッドを背負う。


「やれやれ強欲な奴じゃのう。里長様にあれだけ世界樹の素材を貰っておったじゃろう?」


「人族の世界だと一財産。」


 そんなに金が欲しいのかとエルロッドが首を傾げている。

この前もスタンピードの報酬で大量のお金を貰っている。

しかし二人は知らない事だがそのお金は殆ど浮遊石に消えたので、ジルとしては稼げるなら稼ぎたい。


「全て売ればの話しだろう?我が個人的に使う分もあるから、あまり市場には流れないと思うぞ。」


 手持ちが全て無くなったので自分用の万能薬も作りたいと考えていた。

それに世界樹の素材は何かと使い勝手が良いので、高値で売却出来るとしても手元に残しておくかもしれない。


「エルフ側としても市場に流す量は少ない方が助かるじゃろうな。素材が大量に出回れば出所を探られるからのう。」


 エルフの里に関して捜索が始まれば人族の世界で暮らすエルフ達に危険が及ぶかもしれない。

あまり派手に動いてほしくはないだろう。


「無事に終わって一安心。」


 エルミネルが走りながら大きな欠伸をしている。

ギガントモスとの激闘で疲れたので早く休みたそうだ。


「うむ、ギガントモスの報酬は期待しておるといい。素材も必要無ければ買い取らせてもらおう。」


 Sランクの魔物なので相当な金額になりそうだ。

お金が欲しいジルとしては有り難い臨時収入であった。


「ああ、我は買い取りで構わないぞ。」


「私も。」


 一瞬ライムに吸収させようかとも考えたが、今回は止めておいた。

その理由はギガントモスのスキルにある。


 ギガントモスは二つのスキルを持っており、一つはとても魅力的な全属性耐性だ。

しかしもう一つが火弱点と言うスキルだった。

スキルはメリットばかりある物では無く、そう言ったデメリットのあるスキルも存在する。


 ライムの変化吸収のスキルは有用だが、魔物が複数のスキルを所持していた場合得られるスキルはランダムとなる。

自分で選べない事を考えると弱体化する可能性もあるので、今回は見送る事にしたのだ。


「ならば帰り次第今回に関しての手続き作業じゃな。二人共、ご苦労じゃった。」


 突発な依頼だったが無事に終わらせる事が出来て、知り合いのエルフ族も救う事が出来た。

貴重な世界樹の素材も手に入り、ジルとしても申し分の無い結果であった。

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