46章

元魔王様とエルフの里 1

 翌日、ジルはギルドで適当な依頼を受けていた。

身分証の代わりとなるギルドカードを所持する為にはギルドでの定期的な依頼が義務付けられている。


 スタンピードから暫く休んでいたのでそろそろ受けなければならず、簡単な依頼を受けて直ぐに終わらせギルドで食事中だ。


「今日はこの後どうするかな。」


 分厚いオーク肉のステーキを頬張りながら考える。

今日は特にやる事を決めておらず、暇を持て余していた。


「ジルさんジルさんジルさん!大変です!」


 考え事をしていると受付の方からドタバタと慌てた様子のミラが走ってくる。


「喧しいぞミラ、我は今食事中だ。」


「あー、なんでこんな大変な時に食事を!ですがせめて話しだけは聞いて下さい!」


「全く、食事の時間は我の楽しみだと言うのに。」


 基本的には楽しみにしている食事中はそれだけに集中したい。

なので話し掛けられても食事を優先して食べ終わるまで待たせる事が多いのだが、急いでいる様なので話しだけは聞いてあげる事にした。


「時間が無いかもしれないので今回については後で幾らでも謝罪しますから。それでですね、この後の予定ってありますか?」


 ミラの表情からは暇であってくれと言う思いがひしひしと伝わってくる。

何かジルに頼み事をしたいのだろう。


「…厄介事なら予定が入るかもな。」


「つまり暇なんですね!助かりました!」


 ミラがホッと胸を撫で下ろしている。

第一関門突破と言ったところだ。


「おい、まだ内容も聞かされていないんだ。受けるなんて言ってないぞ。」


 面倒事は基本的に受けたくは無い。

ミラの様子から明らかに厄介な案件なのは予想出来る。


「報酬に糸目はつけません!それくらいの重大案件なんです!」


「よし、場所を移すとするか。」


「話しが早くて助かります!」


 高額の報酬と聞けば多少の面倒事でも引き受けてもいいかと思えてしまうので不思議である。

すっかり人族の生活に馴染んできた様だ。


 ジルは残りの肉を一気に頬張って立ち上がる。

人が少ない時間帯ではあるが他にも冒険者がいるので、聞かれたくない内容なのかミラと一緒に移動する。

いつも通り応接室に向かうかと思ったが、案内されたのはギルドマスターの部屋だった。


「失礼します、ジルさんをお連れしました。」


「入ってよいぞ。」


 ジルを部屋へと案内するとミラは一礼して戻っていった。

どうやら話しがあるのはエルロッドの方らしい。


「ジル、やほ。」


「エルミネルじゃないか。随分と早い…。」


 エルリアをエルフの里に送り届けていると聞いていたが戻ってきていた様だ。

しかしそんな事はどうでもいいくらいに、エルミネルの腕に視線が吸い寄せられる。


「呪いか?何があった?」


 エルミネルの腕には前に会った時には無かった痣が浮かんでいる。

前世から呪詛魔法を使えるジルは、呪いを受けた際にこう言った痣が現れる事があるのを知っている。


「さすがに察しが良いのう。エルミネルはエルフの里で呪いを受けたらしい。運び込まれた時は熱、出血、毒とそれは酷い状態じゃったが、わしの光魔法で大体は治療済みじゃ。」


「死ぬかと思った。」


 どうやらこれ以外にも多数の呪いに蝕まれていたらしい。

ギルドの前で力尽きて倒れているところをギルドの職員が発見して、エルロッドが暫く治療していたと言う。


「エルフの里で呪いか。人族の追跡にでもあったか?」


「そんなミスしない。これは魔物から。」


 エルミネルは心外だと言わんばかりに痣を見せてくる。


「どうやら厄介な魔物が里に居着いてしまった様じゃ。それを討伐しようとして返り討ちにあったらしい。」


「エルミネルを返り討ちにする程の魔物か。」


 エルミネルはジルの知る冒険者の中でもかなり強い部類だ。

そのエルミネルを返り討ちにするとなるとかなり高ランクの魔物だろう。


 それに呪詛魔法の適性を持つ魔物なんて厄介でしかない。

神聖魔法や魔法道具等で呪い対策をしていつでも解呪出来るようにしていなければ犠牲者が増える一方となる。


「強かったけど、次は勝つ。」


「無理をするな、まだ癒えていない呪いがあるんだろう?」


「そうなんじゃ。魔封じの呪いなんじゃがわしの光魔法では治せん。この呪いがある限り魔力が回復しないのじゃ。」


 殆どの呪いは光魔法で治せたが、まだ一つ治せていない呪いがある。

他の呪いに比べて高度な呪いであり、光魔法では治せない。


「それでも戦う。皆が危険。」


「エルリアはどうなったんだ?」


「エルフの里には送り届けた。でも魔物がいるせいで皆困ってる。集落に近付けなくて森で過ごしてる。」


 魔物を倒そうと近付けばエルミネルの様に呪いを受ける事になる。

複数の呪いを受ければ場合によっては命に関わる事もあるので近付きたくても近付けないのだろう。


「魔物はあまり攻撃的では無いか。」


「今のところは。」


 森に隠れるエルフ達を襲いにきたりはしていないらしいが、集落に居座られるだけでエルフ達からすれば充分迷惑だろう。


「それと呪いを受けているのはエルミネルだけではないそうじゃ。早くせんと命を落とす者も現れるかもしれん。」


「だから助力を頼みにきた。ジル、助けてほしい。」


「我が?」


 エルミネルからの申し出にジルは耳を疑った。

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