元魔王様と秘密の拠点 5

 暫く作業を続けていると日も落ちて夕方になってきた。


「一先ずこんなところか。この浮島の防衛に関しては問題無いだろう。」


 ジルは浮遊石の埋められた地面の上に魔法道具の装置を設置した。

様々なボタンが取り付けられているこの魔法道具は、魔王時代に作った結界発生装置だ。


 様々な種類の結界を範囲を指定して展開させる事が出来るのだが、魔王時代は無限の魔力と結界魔法を使えたので、結界なんて張り放題であり使い所が無かった。

しかし転生した今は魔力にも限りがあるので、こう言った設置型魔法道具の方が都合が良い。


「これだけの結界があれば外敵の心配も無いだろう。」


 浮島全てを覆う様に、断絶結界、偽装結界、遮音結界、感知結界、帰還結界を張っている。

ジル達のプライベート空間なので荒らされない為に備えておくに越した事は無い。


 これらの結界により外から視覚と聴覚によって浮島を見つける事は出来ず、偶然近付いてもその場から去りたいと思わせられる。

そして攻撃されても結界が防いでくれて、万が一突破されてもジルが敵に気付く事が出来る。


「そしてこいつは浮島の要だからな。我も結界を張っておけば二重の意味で安心だ。」


 結界発生装置と埋められた浮遊石にはジルによって断絶結界が三重に張られた。

ここが浮島の心臓部の様なものなので、守りは盤石にしておきたい。


「まあ、外の結界が万が一突破されてもこいつらがいれば問題無いだろう。」


 ジルの目線の先では魔法生命体であるメイドゴーレム達がいる。

この浮島の番人として自由に出歩かせておくつもりだ。

今はシキの手伝いで拠点作りをしてくれている。

魔の森で切った木を使って異世界で言うログハウス作りだ。


「我も何か手伝うか?」


「こっちは大丈夫なのです。皆が頑張ってくれてるのです。」


 タイプBが魔の森の木を切って丸太を作り出し、タイプCが連動外装の手でシキの指示通りに丸太を組み立てていく。

大工も驚きの組み立て速度である。

ちなみに魔力の満ちた魔の森の木は普通の木とは違うので、乾燥しなくても立派な建材として使える。


「そうか、では我は少し用事があるから後は頼む。」


「お任せなのです。」


「「マスター、行ってらっしゃいませ。」」


 三人に見送られてログハウスの中に不自然に設置されている扉に入る。

そこを抜けると普段セダンの街で生活するのに使っている宿屋の部屋に出る。


 これもジルの魔法道具であり、対となる扉同士がつながっていて遠方を行き来出来るのだ。

これによりセダンの街と浮島の移動が簡単に出来る。

宿側の扉は普段は無限倉庫に仕舞っているので、行き来するにはジルかシキが必要となり侵入の心配も無い。


「さて、先ずはギルドだな。今はとにかく金がいる。」


 浮遊石を購入した事でジルの手持ちは寂しくなった。

今まで貯めてきた大金は殆ど消えてしまった。


「幸い売る物なら大量にあるしな。」


 転生後に倒してきた魔物の素材や魔石、トレンフルのダンジョンにて手に入れた魔法道具の数々と売る物には困らない。

早速ギルドにやってきていつもの受付に向かう。

スタンピードが終息して間も無いのでギルドはまだまだ忙しそうだ。


「ミラ、今忙しいか?」


「ジルさん、すっごく忙しいです。」


 ジルの事をチラリと見た後に話しながら手元の書類を進めている。

休む暇も無いとは正にこの事だ。


「魔物の素材を売却したいので倉庫まで頼む。」


「話し聞いてました?」


 思わず顔を上げてミラが言う。


「スタンピードを無事に切り抜けられたからこその忙しさだろう?それなりに活躍した我の功績を立ててもいいんじゃないか?」


「それを言われたらギルドは何も言い返せませんよ。では倉庫に向かいましょう。」


 ミラは作業を中断して立ち上がる。

スタンピードでのジルの活躍は当然ギルドも把握している。

分かっているだけでも関係者の確保、前線の補助、遊撃としての働きと大活躍であった。

そんなジルの為であれば忙しくても時間を割くのは当然だ。


「空いているのはここくらいですね。」


「かなりのスペースが魔物で埋まっているな。」


「スタンピード直後ですからね。」


 現在進行形でギルドには魔物が大量に運び込まれている。

スタンピードで倒された膨大な数の魔物を冒険者達が自分の利益とする為にせっせと運んでいる。

なのでスタンピードが終息した今も一部の冒険者とギルドは大忙しなのである。


「ご覧の通り人手が不足しているので買い取れる量も少ないですし、時間も掛かりますが宜しいですか?」


「仕方無いか。金を手に入れたかったが、ギルドのは後回しでもいいだろう。」


 直ぐにとはいかないが手に入るのであれば問題無い。

一定の金額は持っておかないと気軽に買い物も出来無いので他の場所でも金策が必要そうだ。

いつの間にかすっかり人族の生活に慣れてきている。


「スタンピードの報酬をお渡ししたのにまだお金が必要なんですか?」


「少し大きな買い物をしてな。」


 この世界に存在しない浮遊石は信じられない程高い買い物だった。


「あれだけの報酬を渡しても無くなってしまう程の買い物…。お金の利用は計画的にしないと破産しちゃいますよ?」


「使っても稼げるから問題無い。」


「確かにジルさんなら直ぐに貴族並みに稼ぎますからね。心配するだけ意味が無さそうです。」


 目の前に出されていく高ランクの魔物の素材を見て、ミラが呆れた様に呟いた。

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