元魔王様と災厄の対策 9
ジル達が模擬戦を余裕で勝利した事で、高ランク冒険者達の態度が一気に変わった。
もはやその実力を疑う者は一人もおらず、共に戦える事を喜んでくれている。
「調子の良い奴らだ。」
会議室に戻ったジルが周りの者達を見て呟く。
「まあ、実力を認めさせられたんだからいいじゃねえか。」
「万事解決。」
「認め過ぎてる奴らもいるけどな。」
ジル達の目の前でギルメンテ率いる剣の誓いの者達が土下座をしている。
意識を取り戻してからずっとこの調子だ。
「いつまでそうしてるんだ?」
「兄貴達に失礼な態度を取ったけじめですから、どうか気にしないで下さい!」
土下座の姿勢のままギルメンテが言う。
実力の違いを理解して呼び方や話し方まで随分と変わっている。
「我は低ランクだぞ?」
「俺とエルミネルもCだしな。」
「自分が恥ずかしいです、弄るのは勘弁して下さい。この模擬戦で気付かされました、実力にランクは関係無いのだと。」
ジル達の様にランク止めをしている冒険者は稀だ。
なので冒険者の殆どはランク帯に相応する実力を持っている事になる。
CランクやDランクで高ランク冒険者を上回る実力を持っているなんて普通は想像出来無い事だ。
「ジルちゃん達がイレギュラーなだけで強さとランクは基本的には関係あるんだけどね。」
「でもAランクパーティーの彼らがジル君達を認めてくれたおかげで、これ以上文句を言う者もいなくなったね。スタンピードには万全な状態で臨めそうだよ。」
トゥーリの思惑通りに事が運び、ジル達の実力を見せ付けて冒険者達の不信感は取り除く事が出来た。
これでスタンピードに参戦しても誰も文句は言わないだろう。
「コホン、そろそろいいかのう?色々あったが会議再開じゃ。個人間のやり取りは後にしとくれ。」
それからスタンピードについての話し合いが暫く行われた。
一番の懸念点であるジル達の問題が片付いたので会議はスムーズに進行していく。
「こんなところじゃな。トゥーリ嬢から何かあるかのう?」
一先ず話し合いが纏まったところで領主であるトゥーリに話しが振られる。
セダンの街を守る為の戦いなので、ギルドマスターのエルロッドだけで無くトゥーリの意見も重要となってくる。
「ジル君達を予定通りに配置出来る事になったから何も言う事は無いかな。皆がランクで判断してこの条件を呑んでくれないのが私にとっては最悪だったからさ。」
ここにはいないがジルの仲間であるナキナも含めてランク以上の実力者が多い。
この者達を使えない事態だけは回避したかったのでトゥーリからすれば最上の結果と言える。
これでジル達が戦況を良い方向に動かしてくれるだろう。
「わしとしてもこの配置は満足のいく結果じゃ。ラブリートはどうじゃ?」
数々の戦いを経験してきたSランク冒険者の意見も参考になる。
誰もが経験した事の無い災厄となれば、戦闘経験豊富な者の知識は頼りたくなってしまう。
「そうね、私としてはジルちゃん達と同じくもっと最前線で戦いたかったのだけれど、やっぱりそれは難しいわよね。」
ラブリートが残念そうに呟く。
配置場所がジル達と違って戦場からは離れていた。
「さすがに今回は規模が分からんからのう。」
「最高戦力であるラブちゃんには街の防衛として残ってもらわないと、万が一が起きたら怖いからね。」
二人が申し訳無さそうにラブリートに言う。
今回のスタンピードの間、ラブリートが配置された場所は街の防衛であった。
場所的には後衛なので前線が崩れない限りは戦う機会はあまり無いだろう。
「残念だけど仕方無いわね。街の防衛は任せておきなさい。」
領主とギルドマスターからの頼みとあってはラブリートも無碍には出来無い。
街には大勢の非戦闘員がいるので防衛にもある程度の人材は必要となるのだが、その大半は前線に参加しない低ランク冒険者なので万が一の時が不安なのだ。
だが国の最高戦力とも言われるSランク冒険者が街に残ってくれればこれ程心強い事は無い。
これで前線の者達は後ろを気にせず戦いに集中出来る。
「本番のスタンピードは近々起こると思うがいつかは分からぬ。皆警戒しつつ本番に向けて慎重に立ち回ってくれると助かるのじゃ。これでスタンピードの会議は終わりじゃな。」
会議は終わったが本番のスタンピードはこれからだ。
まだまだ気が抜けない期間が続くので冒険者達の気持ちも引き締まる。
「今日は集まってくれてありがとう、皆でセダンの街を守ろう。」
「「「おうー!」」」
領主であるトゥーリの言葉に冒険者達は高らかに声を上げた。
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