元魔王様とルルネットの可能性 3
ルルネットを少し励ました後、訓練を再開する。
命中精度を見ても先程までよりは集中出来ていそうだ。
「ジル様、あまりルルネットお嬢様に変な事を吹き込まれては困ります。」
先程の話しを聞いてサリーが苦言を呈してくる。
ルルネットの専属メイドとして聞き逃せない発言があった。
「何か変な事なんて言ったか?」
「セダンの街に訪れる件です。貴族令嬢をそう簡単に一人で外出なんてさせられません。道中何があるか分からなくて危険なのですから。」
どれだけ強くても僅かでも危険があるのならば、護衛も付けずに遠出させる事は無い。
貴族と言うだけで何か起こればとんでもない被害に発展する可能性が高いのだ。
「ブリジットでもか?」
「ブリジット様も外出の際は最低二人は護衛を付けておられます。トレンフルにとって重要なお方なのですから。」
ジルが思うよりも貴族の外出と言うのは気を使う行為らしい。
それ考えるとルルネットをダンジョンに連れていく事をよく許可したなと思った。
安心して任せられるくらいの信用は得られている様だ。
「ならば実力者を付けた上で少数でセダンに来ればいい。サリーもそれなりに戦えそうだしな。」
魔法の適性も一般的な平均と比べると多い部類だ。
それだけの適性があれば戦闘の心得は多少なりともあるだろう。
「何々?何の話し?」
訓練が一区切り付いた様でルルネットも話しに加わってくる。
「ルルネットがセダンの街を訪れる際に道中危険ではないかとサリーが心配しているのだ。そこで心配なら自分で守ってみたらどうだと言っていた。」
隠す様な事でも無いのでルルネットにも教える。
ルルネットの専属メイドであるサリーは普段から主人に付きっきりなので遠出をする際はどこでも付いていきそうではある。
セダンの街を訪れる事になってもそこは変わらなそうだ。
「まあ、セダンを訪れる時にはサリーには付いてきてもらいたいわね。私の専属メイドだし強くて頼りになるんだから。」
「ルルネットお嬢様…。」
ルルネットの言葉を聞いてサリーが感極まった様に口元を押さえて目に涙を浮かべている。
主人からの言葉が余程嬉しかったのだろう。
「ジルは知らないと思うけどサリーは元Bランク冒険者で相当強いのよ。」
ルルネットは自分の従者を自慢する様に言う。
サリーも主人に自慢されて嬉しそうに照れている。
Bランクと言うと冒険者の中でも高ランクに位置付けられる部類なので実力は高そうだ。
「ほう、冒険者だったか。」
「魔装が使えない後衛の魔法使いですけどね。ジル様達には到底敵いませんけれどそれなりには戦えますよ。皆さんは規格外過ぎます。」
「ほんとよね。」
サリーの言葉にルルネットが何度も頷いている。
元Bランク冒険者であるサリーや規格外なところを見てきたルルネットだからこそ、ジル達の実力が自分よりも遥かに高い事が分かってしまう。
正に強さの次元が違うと言った感じだ。
「だがこのくらいの強さを身に付ければ、大抵自分でなんとか出来るから色々と楽だぞ。」
危険な存在に絡まれても己の身一つで解決する事が出来る様になる。
助けを期待して震えて待つよりもずっといい。
「ブリジットお姉様以上でしょ?私になれるのかな。」
ルルネットが不安そうな表情で尋ねてくる。
ブリジットは戦闘の目標であり憧れだ。
将来こんな風になりたいとルルネットも思っているが、自分がそうなっている想像が出来無いのである。
「素質は充分あると思うぞ。少なくともブリジットと同等の力は身に付けられるだろう。」
「ルルネットお嬢様であれば、必ずなれますよ!」
ブリジットの才能も相当だが、妹のルルネットだって負けていない。
成長すればトレンフルを背負う者の一人になれるだろう。
「逆にサリーは追い抜かれるかもな?ルルネットを危険から守りたいのであれば、元冒険者の力を驕らず訓練に励む事だ。」
魔装が使えないらしいので魔法のみでBランクまで上り詰めた事になる。
それは相当な魔法の才能があると言う事だが、同時に成長の余地が残されているとも言える。
後衛であっても魔装は使えて損になる事は無い。
魔法使いが苦手とする防御力や移動速度の向上、咄嗟の近接戦闘にも活かせるので非常に便利なのだ。
「これでもメイド業務で忙しいのですけれどね。ですがルルネットお嬢様の護衛の為とあれば、日々の業務に訓練を追加するくらい訳もありません。」
先程のルルネットからの言葉が効いたのか、護衛は自分が務めるとばかりにサリーの瞳は燃えていた。
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