元魔王様とダンジョンのボス部屋 9
ルルネットの手によって紅色の短剣が振るわれてオークの身体が焼き斬られる。
返す刃で隣りにいたオークも同じく焼き斬る。
「斬れ味最高だわ!使い勝手も良い感じ!」
ルルネットが短剣をヒュンヒュン振り回しながら満足そうに言う。
せっかく強力な武器を手に入れてダンジョンにいるのだから試し斬りをしたいと言われた。
超級雷霆魔法のレールガンで何層も天井をぶち抜いて登っていき、現在は10階層まで戻ってきてオークで試し斬りの真っ最中である。
「随分と気に入っておられますね。」
「ダンジョン産の武器で性能もルルネットに合っているからな。潜った成果を手に出来て嬉しいんだろう。」
ダンジョンに潜りたいとずっと思っていたルルネットが念願のダンジョンに潜る事が出来ただけで無く、ダンジョン産の強力な武器まで手に入れられたのだ。
今回のダンジョン探索はこれ以上はない成果と感じているだろう。
「それもありますが尊敬しているマスターから頂けたのも大きいと思います。」
「我から?」
「ルルネット様はマスターの事を戦闘の師匠の様に慕っておられますからね。少しでも強くなって追い付きたいとマスターを目標にしているのです。」
そんな人から何が出るかは分からないが希少な宝箱を貰えたのだから、自分の事を少しは認めてくれていると感じているのかもしれない。
実際にルルネットの年齢を考えるとよくやっている方だとジルは思っている。
戦闘狂故か多少厳しくしても文句を言いながらではあるが従ってくれるので、ジルとしても教え甲斐はある。
「ほお、そんな事を思っているのか。それは初耳だな。」
普段の小生意気な態度からは想像出来無かったので意外である。
「私との戦闘訓練中にマスターには内緒でと教えて下さいましたから。」
そう言葉にしたタイプCの表情からは悪気は一切感じない。
まるでそうする事が当然であるかの様な雰囲気である。
「思い切り話してないか?」
「マスターへの隠し事はしたくありませんので。」
タイプCにとって何よりも優先されるのがマスターであるジルと言う存在だ。
創造主でもあるジルに些細な事であっても隠し事の類いなんてしたくは無いのだろう。
「まあ、面白い事を聞けたし我も黙っておくとしよう。」
「マスターの配慮痛み入ります。」
タイプCが深々と頭を下げながら言う。
ルルネットが戦闘に夢中なのでこの会話も気付かれていないが、バレてしまえばタイプCは文句を言われる事は確実だろう。
「この後はダンジョンの外に向かうのですか?」
「そのつもりだ。ダンジョン探索は終了だな。」
ルルネットが試し斬りに満足したら再び天井をぶち抜いてダンジョンの入口を目指すつもりである。
「あと二階層下でしたが宜しかったのですか?」
「ああ、今回は暇潰しであってダンジョンを攻略しにきた訳では無いからな。」
タイプCが言っているのはボス部屋についてだ。
28階層を探索していたジル達だったがその二つ下の30階層がボス部屋となっているのをジルもタイプCも魔法や機能で気付いていた。
そして29階層に降りる階段も見つけていたのだが降りずに戻ってきた。
ルルネットが試し斬りをしたいと言ったのもあるが、今回は攻略が目的では無いのでタイミング良く切り上げる事にしたのである。
今回は暇潰しでダンジョンに潜っただけで、最高到達階層を更新しただけでは終わらず、それを遥かに上回る階層更新記録を残したので、ジルが攻略目的であればトレンフルのダンジョンはあっさりと攻略されていたかもしれない。
「そうでしたか、そろそろシキ様も解放されそうでしたし、良い暇潰しとなりましたね。」
「やっと解放されるのか。随分と長かったな?」
シキは前契約者だったブリジットとトレンフルで暮らしていた頃の様々な後始末として到着してからずっと働いている。
一日中働いている訳でも無いがそれなりの時間拘束されているのだ。
自分がやり残した事とは言え、最後までやり遂げる為に毎日頑張っている。
最もその理由は頑張っている分領主のミュリットがお給金を出してくれるらしいのでそれが目的であろう。
「シキ様の膨大な知識は領地経営にも秀でている様でしたから。ミュリット様が中々離したがらないのも納得です。」
街の様子を見る限りミュリットも領主としては優秀な部類と思われるが、そんな優秀な者からしてもシキは手元に置いておきたい存在なのだろう。
「そうなると拘束時間が伸びるのではないか?」
他にもシキに手伝ってもらいたい事は沢山ある筈だ。
セダンに帰るまで金を餌に働いてほしいと思っているかもしれない。
「一旦は区切られると思われます。シキ様がマスターにお願いしたい事があるらしく、その為にミュリット様に時間を貰いたいと言っていましたので。」
「そう言えばセダンでも同じ事を言っていたな。何を言われる事やら。」
トレンフルを訪れた目的の一つがそのお願いでもあった。
何か重要な事なのかもしれないが詳細については特に聞いていないので考えるだけ無駄である。
暫くすると試し斬りに満足したルルネットが戻ってきたので、ジル達はダンジョンの出口を目指した。
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