26章
元魔王様と絶品魚料理 1
トレンフルに到着してから数日が経過した。
ジルはブリジットから依頼されたルルネットの訓練をしつつ、貴族の様な快適な生活を送っていた。
寝泊まりする場所がブリジットの屋敷であり、しかも客人として迎えられているので待遇は文句無しである。
今も魔法の訓練を頑張っているルルネットを見ながら、メイドが入れてくれた紅茶を飲んでいる。
「魔力を糧とし、火炎の矢よ、敵を焼き貫け、ファイアアロー!」
ルルネットが初級火魔法のファイアアローを詠唱して火の矢を放つ。
訓練用の的に向かって放った矢が見事に命中して的が燃え上がる。
辺りには燃えカスとなった的が大量に出来上がっていた。
「ふぅ。」
額の汗を拭いながらルルネットが息を吐く。
ずっと魔法の詠唱をしていたので疲労が溜まってきた。
「ルルネット、そろそろ休憩してはどうです?」
ブリジットがそう言って待機しているルルネット専属メイドのサリーに目配せをする。
すると速やかにルルネットに近付いていく。
「ルルネットお嬢様、こちらを。」
サリーは冷たい果実水の入ったコップを差し出す。
「サリー、ありがとっ!」
ルルネットはそれを受け取って美味しそうに飲んでいる。
その間にサリーがルルネットの汗をタオルで拭いている。
「魔法の使用はそろそろ止めておくか。また魔力切れを起こして倒れるかもしれない。」
「夢中になり過ぎてただけでもうしないわよ!」
ジルの呟いた言葉にルルネットが恥ずかしそうにしながら反論する。
魔法についての座学をした翌日、魔法の訓練を早速始めたのだが、張り切っていたのか魔法を使い過ぎて魔力切れになり倒れたのだ。
実戦の場合は命に関わる事なので厳しく注意するとルルネットも反省していた。
また魔力切れで倒れたりはしないと思うが、そもそも子供のルルネットにそこまでやらせるつもりは無いのだ。
「初級魔法ではありますが、順調に日に日に使える回数が増えていってますね。」
「魔力量を増やすには毎日魔力を使う事が重要だからな。」
取り敢えずは遠距離攻撃の手段を確保する為にファイアアローを使い続けてもらっている。
詠唱破棄でも使える様に毎日使ってイメージを叩き込むのだ。
使用魔力はそこまで多くないが使用回数が多いので、一日経つ毎に魔法を使える回数は着実に増えていっている。
魔法の使える回数が増えているのは魔力量が増えている証だ。
魔力量が増える程、魔法や魔装に使える魔力が増えるので、訓練の幅や効率が大きく変わってくる。
初級火魔法を使うだけの訓練に見えて、詠唱破棄と魔力量増加の二つを一気に鍛える同時訓練なのである。
「はぁ~、早く詠唱破棄出来る様にならないかしら。」
ジル達のいるテーブルの空いている椅子に座ってルルネットが言う。
疲れたのかテーブルに脱力して突っ伏している。
「そう簡単に会得出来たら誰も苦労しませんよ。」
「そう言う事だ。」
詠唱破棄の技術は本来難しいものだ。
会得している冒険者も少ないし、そこに至るまでに相当な訓練が必要となる。
ルルネットは強くなる事に貪欲な性格なので、毎日真剣に取り組めるのだろうが、それでも長い時間は掛かってしまうだろう。
「お姉様が言っても説得力が無いわ。」
ルルネットがジト目を向けながら言う。
ジルの魔法の授業を聞いて、ブリジットも劣化魔法と思っていた派生魔法の有用性に気付かされた。
休暇で時間に余裕もある事なのでルルネットと同じ様に魔法の訓練をしていたのだ。
そして早くも初級雷霆魔法の一つの詠唱破棄を会得していた。
「私の場合は回数は少ないですが使った事はありましたからね。それに騎士団の一員が好んで雷霆魔法を使うので、長年見ていたのも影響しているかもしれません。」
「確かに自分で使って訓練するのも大事だが、見て学ぶ事も出来るな。何十回何百回と見ていればイメージも固まってくるだろう。」
同じ騎士団で長年見てきた魔法であれば、ブリジットにとって雷霆魔法は身近な魔法と言う事だ。
自身の適性や才能も関係しているかもしれないが、見てきた影響も少なからず受けているだろう。
「そんな事もあるのね。あっ!だったらさ、この機会に初級の爆裂魔法を見せてよ!」
ルルネットがジルに向けて言ってくる。
「爆裂魔法の使い手って周りにいないし、完璧な完成系を目と脳に焼き付けておきたいわ!」
ブリジットの話しで、見てイメージを固める事で詠唱破棄を習得する手助けになる事が分かった。
それならばルルネットも爆裂魔法のイメージが固まりやすい様に完成系を見ておきたいと思ったのである。
「そう言えばジルさんが火魔法以外を使っているところは見た事がありませんね。」
「えっ、そうなの?火魔法に高い適性があるジルなら爆裂魔法の適性も持っているわよね?」
ルルネットの言葉を受けて、どう返答しようかとジルは少し考えた。
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