23章
元魔王様と風の姫騎士との再会 1
ワイバーンの卵を取りに行ったり魔物の大群から村を救ったりと忙しい日々が過ぎ去り数日が経った。
昨夜早く寝た事もあり、ジルは早朝からスッキリとした目覚めを迎えていた。
階下に降りると女将やリュカは既に働いており、ジルに気付いて朝食を出してくれる。
他の者達はまだ眠っているので先に朝食を食べる。
「おはようなのです…。」
「おはようなのじゃ…。」
朝食を食べていると眠そうに目を擦りながらシキとナキナが階段を降りてくる。
ライムだけは朝から元気で、ナキナの肩から飛び降りてジルの座るテーブルに用意された自分のご飯に飛び付いている。
ライムと言えばまだ覚えていないスキルを持つウルフ種の魔物が手に入ったので変化吸収のスキルを使わせてみた。
それにより統率、駿足、咆撃、狼牙、斬爪と言った5つのスキルを取得する事が出来た。
統率は同種の魔物を率いる時に他者の能力を高める効果がある。
ライムであればスライム種となり、統率個体の様な力を発揮するスキルとなるだろう。
駿足はスキルを発動させると移動速度が上がる。
と言ってもスライムは元々あまり移動が速く無い魔物であり、スキルを使っても人の歩行速度と同じくらいになるだけであった。
そして残りの三つのスキルに関してだが、現状完全な死にスキルである。
ライムには口、牙、爪と言ったものが存在しておらず、検証した結果スキルは発動しなかったのだ。
そもそもスライムが得られるスキルでは無いと言う事もあり、変化吸収と言う特別なスキルを使う事で様々なスキルを得られるが、全てがライムの使えるスキルかと言われればそうでは無いらしい。
「遅いぞお前達。早く食べないと痺れを切らして迎えがくるぞ?」
ジルが眠そうにしている二人に向けて言う。
迎えとはシュミットの事だ。
数日前についに出発の目処がたったからと連絡があったのだ。
そして今日の朝からセダンの街を出る予定だ。
「こんなに朝早くじゃなくてもいいと思うのです。」
「同感なのじゃ。」
二人は眠い目を擦り文句を言いながらも席に着く。
「さて、我は先に食べ終えたしギルドにいってくる。集合場所に遅れるなよ。」
「はーいなのです。」
「了解じゃ。」
二人の眠そうな返事を受けてからジルは一人ギルドに向かう。
珍しく朝早くきたので人が多い。
今回のシュミットの護衛は正式な依頼なので手続きをしにきたのである。
「ジルさん、お待ちしてました。」
嫌々長い列に並ぼうとしているとミラがジルに気付いて駆け寄ってきた。
そのまま受付では無く応接室に通される。
「受付でやらないんだな。」
「領主様からの指名依頼ですからね。あちらは人も多いですから余計な騒ぎに巻き込まれたくないでしょう?」
「確かにな。」
ジルは実力のある冒険者ではあるがDランクで止めているのでランクは低い。
それなのにセダンの街の領主であるトゥーリから指名依頼をもらっていると知れれば冒険者達の間で要らぬ騒ぎを起こす事になるかもしれない。
「依頼内容や報酬について何かありますか?」
「特に無いな。事前に聞いていた通りだ。」
ミラに渡された依頼書を見て答える。
トゥーリと話した時に内容はある程度聞いている。
ジルの無限倉庫のスキルを当てにしているので随分とジルに有利な内容の依頼となっていた。
「それではこちらで手続きしておきますね。それとジルさんは暫く馬車での移動となりますので、ギルドでの定期的な依頼は気にしなくて大丈夫です。」
身分証である冒険者カードの所持には定期的な依頼が義務付けられている。
それを理由無く怠れば剥奪されるのだが、ギルドが事情を把握していれば問題は無い。
「ですがトレンフルに滞在される間は向こうで依頼を受けて下さいね。」
「どれくらいになるかは分からないが滞在はするつもりだからな。その間はしっかりと依頼を受けるつもりだ。」
シュミットにはいくらか滞在すると事前に聞いている。
詳しくはまだ決まっていないが長期間滞在するなら複数回依頼を受ける必要もあるだろう。
それに今回はシュミットの護衛に加えてトレンフルにいく目的であるシキの用事が終わるまで帰れない。
こちらはトゥーリやシュミットにも話しているので問題無い。
「分かってもらえてるなら大丈夫です。それとこちらを向こうのギルドに着いたら渡してもらえますか?」
「手紙?」
「ギルドマスター宛てです。」
「分かった、引き受けよう。」
ギルドには確実に訪れるので大した手間でも無い。
受け取って無限倉庫に仕舞う。
「内容はジルさん達が依頼を受けてもランクアップに反映しない様にと綴ったものです。伝えておかなければ直ぐにでもランクが上がりそうですからね。」
「気が利くな。」
どうやらジルに配慮してトレンフルのギルドに送ってくれる手紙らしい。
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