17章

元魔王様とオークションでの再会 1

 ブリジットと模擬戦をした次の日にジルはギルドを訪れていた。

昨日の荷運びによる報酬を受け取る為だ。


「こちらが報酬になります。昨日はありがとうございました。」


 ミラがそう言って報酬の入った袋を手渡してくる。

ジルにとっては簡単な作業だったので、楽で割りの良い依頼であった。


「あの依頼なら毎回受けてもいいぞ。」


 大した労力も無く定期依頼を片付けて報酬を貰える依頼だったのだ。

ジルとしてはそう言った依頼が定期的にあれば楽だと考えていた。


「ジルさんにとってはおいしい依頼みたいですね。」


 しかし片道を商隊での移動で2週間も掛かってしまうので頻繁に訪れる事は無い。

早くても次は数ヶ月後と言ったところだ。


 既にブリジット達はセダンの街を出発している。

別れは昨日済ませてあるし、こちらからも訪ねる約束をしたので、遠からずまた会える筈だ。


「そう言えばジルさんに言伝を預かっていますよ。」

「言伝?」

「はい、ダナンさんから時間が空いている時に店を訪ねてほしいとの事です。」


 ダナンはジルの腰に下げている刀、銀月を打ってくれたエルダードワーフだ。


「ふむ、進展があったか。」


それを聞いて少し嬉しそうにジルが呟く。


「進展ですか?」

「ああ、例のミスリル鉱石だが我には売り払う伝手が無い。だから機会があれば金に変えておいてほしいと前に頼んでいたのだ。」


 既にミスリル鉱石は幾らか渡してある。

魔法道具に使う機会があるかもしれないので、渡した中の一定数はインゴットにして返却してもらう予定だ。


 そして金に変えられそうならば代行も頼んでおいた。

そう言った鉱石類の扱いはドワーフが一番慣れているだろう。

報酬をミスリル鉱石にしてやると言ったら飛び付いていた。


「成る程、確かに鍛治師であればそう言った伝手は多いかもしれませんしね。なんであれギルドでは扱いきれないので助かります。」


 ジルの持つミスリル鉱石は一般的に出回っている物と比べて純度が高過ぎた。

ギルドで扱うには困っていたので、ダナンが代わりにやってくれるならミラとしては助かる。


「では早速行ってみるとするか。」


 ギルドを後にしてダナンの店を訪ねる。


「邪魔するぞ。」


「いらっしゃいませ。」


 店番をしていたのはダナンでは無く人族の男だった。

前に言っていた弟子かもしれない。

ダナンに呼ばれてきた事を伝えると領主して呼びにいってくれた。

少しすると男に引き連れられてダナンがやってくる。


「ジル、待っていたぞ。」


 作業中だったのか顔の汗を拭っている。

離れているのに熱気が伝わってきそうだ。


「こいつはわしの取り引き相手だ。これからは直ぐに奥に通して構わん。」


「分かりました親方。」


 人族の男もジルがダナンにとって特別な人族なのだと理解した。

あまり他人と関わらないドワーフの親方がそんな事を言ってきたので密かに驚いていた。


「ジル、付いてこい。」


 そう言って奥の部屋にジルを招き入れる。

前に銀月を受け取った部屋である。


「ミスリルの件か?」


「ああ、インゴット五個売っ払ってきた。」


 仕舞っていた袋を取り出してテーブルに置く。

ドサッと言う如何にも重そうな音をあげるので、袋の中身が大量に入っていると分かる。


「金貨で85枚入っている。」


 そう言って袋を開いて見せてくれる。

眩く輝く金貨だけが大量に入っているのが見える。

金貨1枚で10万Gなので合計で850万Gもの凄まじい大金である。


「そんなに高いのか!?」


 売却額を聞いてジルは驚いた。

まさか昔道端の石ころ感覚で拾っていた物がこんな大金に変わるとは思わなかった。


「高純度のミスリルだったからな。一つ辺り170万Gと少し高値だとは感じたが、その値段でも欲しがる奴がいると言う事だ。」


 この金額はダナンにも予想外だったらしい。

それだけ払ってでも手に入れたいと思う者がいて需要があると言う事だ。


「我としては高く売れる程助かる。ダナンの取り分はどうする?」


 これはダナンの伝手に頼ったから売る事が出来た。

詳しく決めていなかったが、その報酬を支払うのは当然である。


「わしにはその報酬もミスリル鉱石で貰えると助かる。」


「相変わらずだな。」


 ジルは無限倉庫のスキルに袋を仕舞いながら言う。

代わりに報酬としてミスリル鉱石を取り出してやる。

ついでに次に頼む分も纏めて取り出す。


「これ程のミスリル鉱石ならば幾らでも手に入れたいからな。」


 ダナンは新しくテーブルに出されたミスリル鉱石を手に取って嬉しそうに呟く。

このミスリル鉱石があれば最高級の素材で武器を打つ事が出来るのでダナンにとっては非常に喜ばしい事であった。

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