元魔王様と災厄の予兆 10

 地面に倒れたタイタンベノムスネークの胴体からは止めどなく血が流れ出しており、辺りが直ぐに血の臭いで染まっていく。


「すげえ血の量だぜ。こいつもご機嫌だ。」


 アレンはそう言ってタイタンベノムスネークの首元に呪いの武具を近付けている。

斧に触れた血は吸収されている様で空中で消えている。


「血に関する呪いの武具か?」


 タイタンベノムスネークの背中を歩きながら近付いてきたジルがその様子を見て尋ねる。


「血っつうか魔力だな。頻繁に吸わせねえと所有者の俺が吸われる事になる。」


 血は魔力を多分に含む液体なので、呪いの武具も魔力を得られて満足するのだろう。


「好んで使う者の気が知れん。」


 呪いの武具は破格の能力を秘めている物も多いが、命を危険に晒してまで使いたいと思う者は少ない。

魔王時代であれば問題無かったが、今のジルには多少なりとも危険な武具である事には違い無いので使う予定は皆無である。


「こいつは血さえ与えてやりゃ最上級の武具なんだぜ?と言っても血も売り物になるなら、もう収納してもいいぞ。」


 Sランクの魔物の血ともなれば使い道も多いだろう。

魔力も他の魔物に比べて多いので呪いの武具を満足させられるだろうが、吸収させる血は他の魔物でも問題は無いので勿体無い。


「別に血が少しくらい減ろうと構わん。それよりも引き上げるか?」


 目的の依頼である魔物の討伐は完了した。

しかしジルが介入した事によって、当初よりも早く片が付いてしまった。


「思ったよりも早く片付いたからな。俺が倒した分だけ運んでくれるんだよな?」


「ああ、今日中に街には帰りたいから夜通しは無理だがな。」


 転生した事によって幾つもの娯楽を知ったジルに野宿と言う選択は無い。

街に戻って美味い食事を食べたり、柔らかいベッドで寝たりしたいのだ。


「ならギリギリまで魔物狩りといかしてもらうぜ。今回は稼ぐチャンスだからな。」


 夜通しは無理だとしてもまだまだ時間は余っている。

絶好の稼ぎ時と分かっているアレンには引き返すと言う選択肢は無い。

このまま魔の森で魔物狩りを続行したい様子である。


「いいだろう。ではタイタンベノムスネークは一先ず仕舞うぞ?」


「ああ、こいつもそれなりに満足した様だ。」


 アレンは斧を血の噴き出す首元から離す。

ジルはタイタンベノムスネークの首と胴体を無限倉庫のスキルに収納する。


「便利なスキルだな、羨ましいぜ。」


 それを見たアレンが呟く。

やはり収納系スキルは冒険者にとって喉から手が出る程に欲しいスキルなのだ。


「収納系魔法道具でも手に入れればいいだろう?」


「けっ!どんだけ高いか知らねえのか?自前のがある奴はいいよな。」


 ジルの言葉を聞いたアレンが文句を言う。

無限倉庫のスキルがあるジルは気にした事が無いが、そう言った魔法道具はかなり高価なのだ。

と言ってもその系統の魔法道具もジルは無限倉庫の中に幾つも持っていたりする。


 魔王時代に暇潰しとして魔法道具作りをしていた時の物であるが、自分にはスキルがあるので使う予定は無いので死蔵確定である。

あげてもいいのだが高価と聞くと出所がバレた時に面倒になる可能性があるのでやめておいた。


「そう文句を言うな。今回は大金を稼がせてやるんだからな。」


「こうなったら狩り尽くしてやるぜ。」


 意気込んだアレンが魔の森の奥に向かってどんどん突き進んでいき、ジルはその後に続いた。

それから暫く魔の森で狩りをした後、ジルとアレンの二人は街に向けて街道を急いで走っていた。


「全く、いつまで狩り続けるつもりだったのだ。我が止めなければ門が閉まるまでに間に合わないところだったぞ。」


 ジルは隣りを走るアレンに文句を言う。

既に空は徐々に赤みがかって夕方に差し掛かろうとしていた。

街には門限が存在し、日が沈む頃には閉まってしまうので、それに間に合わなければ街の外で野宿する羽目になるのだ。


「稼げるチャンスだったんだ、仕方ねえだろ。」


 アレンは収納系のスキルを持っていない。

そして今回は孤児院の事情も考えて、倒した分の魔物を全てジルが運搬してくれると言う話しだった。


 普段の依頼とは違って一度に大金を稼ぐチャンスだったので、アレンとしては時間ギリギリまで狩りを続けたかったのである。


「限度と言うものがある。」


「そう言うなって、俺達の足なら充分間に合うだろ?」


 魔装によって身体能力を上げ爆速で移動する二人であれば、魔の森からセダンの街まで10分ちょっともあれば辿り着ける。


「そうなる様に我が止めたからな。」


 魔装を使って走れば間に合う時間を考慮してジルがアレンの狩りを止めたのだ。

あのまま止めなければ一晩中狩りしていそうな雰囲気だった。


「ほら、もう見えてきたじゃねえか。」


そう言ってアレンが街の方を指差す。

確かにセダンの街の高く聳え立つ門が見えてきたところだった。

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