元魔王様と商会長との交渉術 3
いきなりそれなりの量を提示された事もあり、女将もリュカも異論は無さそうである。
「是非それで…。」
「600だと?それは少ないのではないか?」
二人が了承しようとしたが、ジルがその発言に被せる様にして言う。
「へ?」
自分の発言に対する女将とリュカの反応から、交渉成立だと思っていたトゥーリは、突然のジルの言葉を受けて間の抜けた声を上げている。
「シキよ、確か宿屋にはモンドの配下が押し入ってきていたな?」
「はいなのです。暴力もふるってきそうで、女将もリュカも凄く怯えていたのです。」
ジルがシキに尋ねて、シキは当時の様子を思い出して語る。
わざとらしいやり取りをした後に二人がトゥーリの方を見る。
「じ、じゃあその迷惑料も含めて700…。」
「あの時は無関係な筈のシキも身を呈して奴らの前に立ちはだかっていたな?」
「お世話になっている二人を助けたい気持ちでいっぱいだったのです。でもすっごく怖かったのです。」
トゥーリの発言を無視してジルが言葉を被せる。
シキも話しながら腕で自分の小さな身体を抱き、怖かったと言う様子を表している。
そして再び二人がトゥーリを見る
「…800とかなら…。」
「我が助けに入らなければ、シキも捕まりそうになっていたな?」
「精霊は高く売れるからと言っていたのです。ジル様がいなかったらと思うとゾッとするのです。」
トゥーリの言葉を当然の様に無視して再び二人が当時の様子を語る。
そしてまたチラッとトゥーリの方を見る二人。
「…。」
ついにトゥーリがその様子を見て黙ってしまった。
迷惑の内容を正確に語られて上乗せを要求されているのは分かっている。
実際にそれを聞いて申し訳無いと言う気持ちも強まっているが、同時に商会長として商会の為にあまりにも不利益な取り引きは出来無い。
その葛藤でどうしようかと悩んでいた。
「あの時間帯に我が宿屋にいたからいいものの、いなければどうなっていたんだろうな?」
「きっとシキは高値で売り払われて、リュカは奴隷に落とされ慰み者にされていたに違い無いのです。」
シキがよよよと泣く仕草をソファーの上でしている。
しかし実際にジルがいなければ、シキが言った通りの出来事が起こっていた可能性は充分ある。
そして二人はトゥーリの方を見る。
「だああああああ、もう分かった分かったよ!二人にもジル君達にも迷惑を掛けたのは充分理解したよ!」
トゥーリがもう限界だと言った様子で声を上げる。
ネチネチと二人に嫌味の様に言われて耐え切れなくなってしまった様だ。
「それで?」
答えを聞かせてくれとばかりにジルが尋ねる。
「…1kg。さすがにこれ以上は出せないよ。」
そう言ってトゥーリは恨めしそうな表情でジルを見る。
本来なら倍の値段がする程の量なので、トゥーリがそんな表情を浮かべてしまうのも仕方が無い。
実際に迷惑を掛けた事は事実なので文句を言い返したりはしない。
その代わりにトゥーリの表情が気持ちを良く物語っている。
「まあ、それくらいが落とし所だろう。」
「塩がいっぱい買えたのです!」
トゥーリの発言を聞いてやっとジルとシキは満足そうな反応を示す。
しかし女将とリュカは二人と違って困惑していた。
値段交渉をして塩を大量に手に入れたいとは思っていたが、さすがに値段のわりに多過ぎるのではと思ってしまったのだ。
「…領主様、よろしいのですか?」
「うん、君達には随分と迷惑を掛けたみたいだしね。遠慮無く持っていってよ。」
商会側からすれば中々の痛手なのだがトゥーリももうやけくそだと言った様子である。
「領主様、ありがとうございます。」
「ほ、本当にありがとうございます。」
女将とリュカが立ち上がって頭を下げる。
トゥーリ以外の者と交渉していても、さすがにこれ程の量にはならなかっただろう。
多くの塩を譲ってくれたトゥーリには感謝しかない。
「シキよ、この機会にトゥーリを揺すって、我らも塩を買い占めると言うのはどうだ?」
「はっ!ジル様、ナイスアイディアなのです!塩は今後も使う機会が多いので、持っておいて損は無いのです!」
素直に感謝している二人の横で不穏な会話を始める二人。
言葉に出している様に揺すっている自覚はある様だ。
「そうだろう?トゥーリよ、我も…。」
「ダメダメ、絶対ダメ!そんな話しを目の前で聞いた後に交渉なんてする訳無いじゃないか!一体どれだけ搾り取るつもりなんだよ!迷惑を掛けたのは認めるけど、塩1kgで相殺にさせてもらうよ!」
トゥーリが腕を胸の前で交差させて、断固拒否の構えを取りながら言う。
このまま交渉したら本当にビーク商会にある塩が買い占められてしまう。
ジルにはモンドとの一件で大金貨を報酬として支払っている。
なので本当に買い占める財力がありそうなのでトゥーリも必死である。
「ちっ、残念だが仕方無いか。」
「これでも大赤字なんだからね?」
諦めるジルを見てトゥーリが一安心と言った様子で溜め息を吐きながらそう言った。
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