13章
元魔王様と商会長との交渉術 1
大量の塩を購入する為にやってきたのは、セダンで最も大きな商会であるビーク商会だ。
ついこの間、商会長の息子であるモンドによる商会の乗っ取り騒ぎがあり、領主からの依頼でジルも手助けをしたりした。
モンドが捕縛された後、モンドの屋敷から今まで行ってきた悪事が次々と露見し、最終的には犯罪奴隷として囚われ鉱山送りとなったらしい。
これによって商会長に付く者がいなくなってしまったので、現在は領主でもあるトゥーリが運営に関わっている。
「ほお、初めてきたが大きいな。」
特に商会の必要性を感じていなかったので、訪れるのはセダンの街に着いた直後と合わせると二回目である。
その時は魔の森で助けたシュミットの商会を訪れたが、今回は街一番の商会でもあるビーク商会の本店だ。
さすがに比べてしまうと何倍もの規模間である。
「本店は品揃えも豊富なんだよ。」
「基本的には大口の取り引きをする時でないと利用しないけどね。」
ジル達とは違って女将やリュカは利用した事があるのだろう、自然と中に入っていくので後に続く。
中に入ると他所の商人、身なりの良い貴族、使いを頼まれた執事と言った者達が多く見える。
大口の取り引きで利用する事が多いと言っていたので、自然と財のある者が多くなるだろう。
窓口は冒険者ギルドよりも多く配置されている。
商人にとっては時間も大事なので、スムーズに取り引きが出来る様にしているのだ。
「物があまり置かれてないのです。」
シキが周りを見回しながら言う。
商会と言う割にはあまり物が置かれていない。
「大抵は倉庫に入ってるんだよ。並んでるのは客引きや貴族向けの高級品、一点物とかかな。」
リュカが理由を教えてくれた。
本店はビーク商会系列の店と違って大口の取り引きが基本である。
なのでそう言った店にある物は、当然本店も数を揃えて持っている。
だが数や種類が他店舗とは比較にならないくらいに多いので並べていてはキリが無いのだ。
なので本店を利用する客層的に多い貴族や商人用の品だけを並べているのである。
「これは魔法道具の指輪か。」
ジルが近くにある品を見ながら呟く。
ケースに入れられており、いかにも高価であると言う雰囲気が伝わってくる。
「中級の風魔法が込められてるみたいなのです。」
魔法道具の説明書きを読んだシキが教えてくれる。
この指輪を装備して魔力を注げば、風魔法の適性を所持していなくても中級の風魔法を扱えると言う魔法道具である。
こう言った魔法道具は、適性の無い者が攻撃手段を増やす為や詠唱する暇も無く咄嗟に魔法を発動させたい時等、使い道が多くて便利なので重宝されるのだ。
「…高いな。」
「魔法道具は大体これくらいなのです。」
周りに配慮して小声で会話する二人。
離れているとは言え、商会の店員も多くいるので大きな声では言えない。
ジルが思わず呟いてしまったが、目の前の指輪は金貨8枚つまり800000Gもする高額商品だったのだ。
便利で重宝される魔法道具ではあるのだが、こう言った魔法道具の欠点はただひたすらに高い事である。
そしてジルからすれば中級魔法しか使えない魔法道具にこんな大金を払いたいとは思えない。
「我も確か超級魔法が使える似た魔法道具を待っていたと思うが。」
記憶では似ている魔法道具が何個か思い浮かぶ。
魔王時代に作った魔法道具だ。
と言っても超級魔法と中級魔法では、同じ魔法道具であっても似て非なる物と言わざるを得ない。
「封印項目に仕分けてあるのです。そんな物が世に出たら大騒ぎなのです。」
そう言った装備は既にシキが仕分け済みである。
中級とは比べ物にならないそんな装備では、一体幾らで取り引きされるか分かったものではない。
先ず確実に桁が二つ三つは増えるであろう。
「二人共、私達は中で売買の契約をしてくるけど、ここで暇潰ししてる?」
魔法道具を見ていた二人をリュカが呼びにきた。
向こうでは女将が別の部屋に通されている。
「いや、我らもいこう。」
こう言った本店では窓口での受け渡しは基本的に無い。
高価な物の受け渡しやプライバシーもあるので、個室にて取り引きが行われるのである。
女将が案内された部屋にジル達も続いて入る。
案内された部屋は外部の商人や貴族との取り引きに使われる事を想定してか、調度品の質も高く感じられてビーク商会の経済力が窺える。
ソファーも宿屋のベッドよりもかなり柔らかい。
「ふかふかなのです!」
「これは中々の座り心地だな。」
「あまり暴れないでよ?」
ソファーの感触を楽しんでいるとリュカに注意された。
豪華な部屋を楽しむ余裕と言うよりは、緊張の方が優っている様だ。
少し待っていると扉がノックされて開けられる。
「お邪魔するよ。」
そう言って入ってきたのは小さな子供であった。
「「領主様!?」」
女将とリュカが驚いてソファーから立ち上がり、取り敢えず頭を下げている。
二人が言った様に入ってきたのは、この街の領主であるトゥーリだったのだ。
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