元魔王様と異世界の料理 3
昼食時の忙しい時間を終えて客もいなくなり、片付けやテーブルの拭き掃除も終えたリュカは夕食時まで時間が空く。
仕込み等は女将がやるのでリュカは休憩や自由時間となる。
「リュカ、もう暇になったです?」
手が空くタイミングを見計らってシキが尋ねる。
ジル達は食事処で果実水を飲みながら暇を潰していた。
リュカに早速異世界の料理を作ってもらう為だ。
「食べ終わったのに残ってると思ったらそう言う事ね。今回は何を頼まれるの?」
基本的にジル達は食事が終わると直ぐに部屋に戻っていく。
残っているとすれば自分か母親である女将に何か用事がある時だ。
「新しい料理を教えるから作ってほしいのです。」
「料理?」
リュカはいつもの様にお菓子作りを頼まれると思っていたが今回は普通の料理であった。
「ああ、メニューの一つになるかもしれないぞ。」
「へぇ、今回はお菓子じゃなくて料理なんだ。面白そうね、でも今直ぐには無理かな。」
お菓子じゃなくても作る事に対しては乗り気な様である。
「何か予定でもあったか?」
「うん、お母さんに買い物を頼まれてるの。それが終わってからならいいよ。」
残念ながら先に予定が入っていた。
宿屋の料理に使う食材は女将やリュカが毎日自分達で買い出しにいっている。
今日はリュカの担当らしく、今からの休憩時間を利用して行く様だ。
「成る程な、それならこのまま待つとするか。」
「早く帰ってくるのです。」
食材の買い出しくらいなら何時間も掛かると言う訳では無い。
果実水でも飲みながらのんびりしていれば直ぐに帰ってくるだろう。
「はいはい、じゃあ早速行ってこようかな。」
ジル達の料理を早く作ってあげる為にリュカは早速買い物に出掛けようとする。
「待ちな。リュカ、買い物は私がいくよ。」
すると奥の厨房から女将が出てくる。
そして宿屋を出ようとしていたリュカを呼び止めた。
「え?いいの?」
「ああ、だからジルさん達の事を手伝ってやりな。」
そう言って女将はリュカから財布を受け取る。
どうやらジル達の会話が厨房まで聞こえていた様だ。
「別に急がないから待っててもいいんだぞ?」
頼む側なので急がせたりするつもりは無い。
女将にも色々やる事はあると思うのでリュカの買い出しを待つくらい平気だ。
「ジルさん達にはお世話になってるからね。これくらい大した事じゃ無いさ。それじゃ行ってくるよ。」
そう言って女将は出ていった。
ジル達が宿屋に泊まってから、なんだかんだと迷惑を掛けていると女将は感じていた。
なので少しでも恩返しになればと思い、出来るだけジル達の要望には応えたいと思っていたのだ。
「じゃあお母さんが変わってくれたし早速作ろっか。」
女将が買い出しを代わってくれたのでリュカは今から自由時間である。
ジル達が教えてくれる料理を作る為に厨房に向かう。
「何気に我は入るのが初めてだな。」
シキは異世界のお菓子をリュカに再現してもらう為に、よく厨房に入っているがジルは初めてだ。
中に入ると年季の入った厨房と言う印象を感じ、周囲には料理のいい匂いが漂っている。
女将が先程までしていた夕食の仕込みだろう。
「それで何を作るの?」
リュカが料理の為に髪を後ろで結って、エプロンを付けながら言う。
看板娘と言われるリュカは、基本的に接客担当なので料理姿を見る機会は少ないが、この姿もとても可愛らしい。
リュカ目当てで食事をしにくる者が多いのも納得である。
「フライドポテトと言う芋の料理なのです。」
「フライドポテト?聞いた事無いわね。」
料理名を聞いたリュカが小首を傾げて言う。
知らないのは当然、なんと言っても異世界の料理なのだから。
異世界から召喚された勇者達が作って広めていなければ、この世界で初めて作られる料理となるかもしれない。
「なんでも切った芋を揚げる料理らしいぞ。」
ジルも話しを軽く聞いただけなので、しっかり分かっている訳では無い。
「揚げるってどう言う調理法なの?」
「ん?一般的な調理法ではないのか?」
ジルとリュカがシキの方を見て尋ねる。
揚げ物料理は、この世界ではまだ広まってはいなかった。
なのでリュカは見た事もやった事も無い。
そしてジルは単純に知識が無いだけである。
シキに大まかな調理法の流れを説明された時に、行程が少なかったので簡単だと思っただけで、揚げ方を知っている訳では無かった。
「もしかしたらそんなに広まっていないのかもしれないのです。揚げると言うのは、高音の油に食材を入れて加熱調理する事なのです。」
まさか異世界の料理なのでとも言えないので、シキはそう言って誤魔化しておく。
油の使用用途は基本的に炒め物であり、揚げ物と言う調理法自体が、この世界には無い可能性も考えられる。
「へぇ、そんな調理方法があるんだ。初めて知ったわね。」
「経験が無いと難しいか?」
手伝いで料理をする事もあるリュカだが、いきなり未知の調理法が出来るのか心配になる。
「教えてもらいながらなら出来ると思うけど。」
「なら早速やってみるのです!最初に鍋に油を入れるのです。この鍋なんかちょうど良さそうなのです。」
シキはリュカにやってもらう気満々であった。
おそらく自分の頭の中にフライドポテトの調理に関する全ての知識が入っているので、問題無いと判断したのだろう。
実際にその知識が正しいものならば、リュカがシキの言う通りに動くだけで完成するので、先ずはやってみなければ分からないのだ。
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