元魔王様と一流の鍛治師 3
応接室の中に入って少しすると、部屋の扉がノックされて開かれる。
「ジルさん、お連れしました。」
そう言ってミラが入ってくる。
その後ろには女性であるミラよりも身長が低く、立派な髭を蓄えた男性が続く。
ドワーフと言う種族である。
「うっ、酒臭いのです!?」
ドワーフが入ってくると同時に、強烈な酒の臭いが室内に漂う。
一体どれだけ呑んだのか、案内しているミラも手で口元を覆っている。
「ドワーフだったか。三日も酒場に篭れる訳だな。」
「わしらにとって酒は水みたいなものだからな。」
室内に入るなりジルの対面の席にドカッと座る。
ドワーフと言う種族は酒が大好きで鍛治の腕が良い種族だ。
水の様に酒をガバガバと呑む者も多いので、酒場でずっと呑み続けられるのも納得である。
「待ち侘びたぞ。ミスリル鉱石の所持者よ。」
「ジルだ。そしてシキとライム。」
自分の名前を名乗るついでに仲間達も紹介しておく。
しかしドワーフの興味は、あくまでもミスリル鉱石の所有者であるジルの様だ。
「わしはダナン。見ての通りドワーフだ。」
「ん?ドワーフなのです?」
その言葉を聞いたシキが不思議そうに首を傾げている。
「何か気になるのか?」
ジルがシキに尋ねる。
特におかしな事は言ってない様に思える。
「ダナンさんはエルダードワーフじゃないのです?」
その言葉を聞いて少し驚きつつも、万能鑑定のスキルを使ってみる。
するとシキの言う通りに種族はエルダードワーフとなっていた。
「…、あまり知られると面倒だ。それは黙っていてくれ。」
ダナンにとっては知られたくなかったのか、シキに黙ってほしいとお願いしていた。
「あ、御免なさいなのです。」
普通のドワーフでは無いと精霊眼で視て見破ってしまった。
秘密だったとは知らずにシキが謝る。
「気にするな。」
「エルダードワーフと言えば、ドワーフの純血種か。」
ドワーフと言う種族の中でも始祖の血を色濃く受け継ぐ者達の事を言う。
種族の中でも上位の存在と言った立ち位置だ。
「人族で言うと王侯貴族と同じですね。まさかそんなお偉いさんだったとは。」
ミラも知らなかった様で少し緊張している。
先程口元を覆ってしまい、失礼だと思われてないか密かに気にしている様だ。
「やめろやめろ、今まで通り普通に接しろ。わしは別に敬われたい訳では無い。」
だがそんな反応を見たダナンは鬱陶しそうに手を振って言う。
お堅い雰囲気は好きでは無いらしい。
「種の違いと言うやつか。」
「他は知らん。そんな事よりも、わしが待っていたのはミスリル鉱石の話しをする為だ。」
これ以上つまらない話しをするつもりは無いとばかりに話しを切り替える。
ダナンは三日もジルの帰りを待っていたので、早くミスリル鉱石についての話しをしたいのだろう。
「ミラには特に何も言わなかった様だが、買い取りが希望か?」
「そうしたいから持ち主に直接交渉しようと思ってな。あれ程のミスリル鉱石を見たのは初めてだったからな。」
ダナンはやはり買い取りを希望している様だ。
エルダードワーフの目から見ても希少だとは驚きである。
「それなら我の目的とも一致しているな。」
「元々売るつもりだったか。ついでにどこで入手したか、情報も高く買うぞ?」
ダナンはミスリル鉱石の入手場所の情報も欲しい様だ。
純度の高いミスリル鉱石が取れ放題となれば、幾ら先行投資してでも聞き出したいだろう。
「悪いがそっちは無しだ。」
しかしジルに教えるつもりは無い。
入手したのは前世の話しなのと、現在どうなっているのか分からないからだ。
「…小僧の言い値でも構わんぞ?」
ジルが出し渋っているとでも思ったのか、ダナンは食い下がる様に言う。
「そう言われてもな。もう無い可能性の方が高いとなると罪悪感がある。」
前にミスリル鉱石についてシキに教えてもらったのだが、あれは魔王時代に発していた膨大な魔力が原因で出来た物らしい。
濃密な魔力は長い時間を掛けて魔力を蓄えてミスリルへと変わっていく鉱石類にそれ以上の効果を齎したのである。
結果、意図していない形で高純度のミスリル鉱石が大量に生産されたのだ。
「ほう、人族にしては欲の無い奴だ。金だけ奪おうとする輩とは違うらしいな。」
幾らでも金を出すと聞けば、適当な場所を教えて金だけ貰おうという邪な考えを持った輩は幾らでもいる。
それがダナンの人族に対する大きな印象でもあった。
「現物は幾つもある。わざわざ取りに行く必要は無いだろう。」
そう言ってジルは無限倉庫のスキルを使い、目の前の机の上にゴトゴトと幾つかのミスリル鉱石を取り出す。
純度が高く、一つでも相当な値段になると話していた物が幾つも出てきたので、ミラもダナンも唖然としている。
「ほ、本当に沢山持っているんですね…。」
前にミラも聞いてはいたのだが、実際に自分の目で見ると改めて驚いてしまう。
「沢山だと!?これ程のミスリル鉱石をか…。」
一方その情報を今知ったダナンは、空いた口が塞がらないと言った様子であった。
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