元魔王様と鬼人族の巫女 9
「感謝は分かったが、その呼び名はやめてくれ。我はジルと言う人族の冒険者なのだからな。」
魔王魔王と呼ばれていらぬ面倒事を増やされても困る。
存在を知られているのは構わないが、呼び名はジルで通してもらわなければ平穏な生活が脅かされてしまう。
「ではジル様とお呼び致します。」
キクナにとってジルは格上の敬うべき存在と言う認識だ。
だが見た目は鬼人族の長が人族の子供を敬う様な感じであり、違和感が凄まじい事になっている。
「まあ、それでいいか。これからどうするのだ?」
予知の出来事が起こるのは数日後とはっきりしていない。
何が起こるか分からないが、ずっと気を張り詰めている訳にもいかない。
「ジル様にはこの屋敷で待機していただく形となります。先程いた者達以外、ジル様に協力してもらう事は秘密にしていますので。」
ジルには謝礼の品を渡して帰った事にするらしい。
人族が集落に何日も泊まるとなれば、気にくわない者も多いと思われるので文句は無い。
「そうか、ならば数日は自由に過ごさせてもらうとするか。」
暇潰しは異世界通販のスキルがあれば問題無い。
「精一杯おもてなしさせていただきます。そしてスキルにて何か分かりましたらご連絡致します。」
再使用すれば新たな情報が手に入るかもしれないらしい。
「ああ、頼んだぞ。正体を知っているのと知らないのとでは、随分と結果が変わってくるからな。」
何が原因で滅びるのか分かれば対策が出来る。
充分に準備出来れば、何が起きても対処可能となるだろう。
「お任せください。では屋敷を案内致します、こちらにどうぞ。」
キクナ自ら屋敷の案内をかってでてくれた。
心なしかジルの助力を得られて安心している様だ。
思い詰めていた雰囲気が消えていた。
その後屋敷の案内をされ、異世界文化の完全再現が成された風呂を満喫した。
人族の上流階級の世界には広まりつつある文化らしいのでシキも知っていた。
初めてのジルはとても満足して、帰ったら作ろうとさえ考えていた。
風呂の後は夕食を用意してくれた様だ。
その場には帰宅していたナキナもいた。
「まさかジル殿がそんな立場の方だったとは、驚きなのじゃ。」
夕食を共に囲みながらナキナが言う。
キクナが経緯を説明したらしいが、魔王関連については伏せて話したらしい。
実の孫であっても話したりしない様だ。
そのキクナはクールタイムが終わったので、再び占天術・天啓のスキルを使う為に席を外している。
一人で集中しなければ使うのが難しいとの事だ。
「それは我も同じだ。部外者に期待出来るかは知らないがな。」
ナキナは鬼人族の中でも話しが出来る方だ。
しかし人族に種族の運命を託せるかは分からない。
「何を言う、ジル殿が只者では無い事くらい分かっておる。是非手合わせ願いたいくらいじゃ。」
ナキナは身を乗り出して言う。
どうやらジルの実力が高い事を見抜いている様だ。
戦ったところを見せた訳では無いので、ナキナ自信の感覚かなんらかのスキルを持っているのだろう。
「ナキナ、それではジル様の存在が皆にバレてしまいますよ。」
せっかく屋敷でバレない様に過ごしてもらう予定なのに、派手に暴れては意味が無いとキクナが言う。
どうやらスキルを使い終わって戻ってきた様だ。
「何か分かったか?」
「はい。新たに得た情報は、魔物、工作員の二つです。」
キクナが持ってきた情報はかなり重要そうである。
鬼人族が滅ぶ原因に関わってそうな単語だ。
強大な魔物によって滅ぼされる可能性と鬼人族の中に工作員が紛れ込んでいる可能性がある。
「厄介そうな言葉じゃのう。お婆様、そうなるとやはり知らせるのはギリギリまで待つべきじゃな。」
工作員がいる可能性があるならば、予知の事は出来るだけ広めない方がいい。
護衛や給仕の者達には知られてしまったが、家族同然の付き合いがある程身近な者達なので、裏切る心配は無いとの事だ。
「魔物との戦闘になる可能性もあるのに黙っていていいのか?」
戦う事が予想されるなら、戦闘の準備を前もってしておいた方が有利に立ち回れる。
「鬼人族は近接戦闘を得意とする種族じゃ。戦闘となれば、武器と己が身さえあればいつでも戦えるのじゃ。」
武器は常に身に付けているので、前もって準備をする必要は無いらしい。
人族の奴隷狩りの件もあるので、全員いつでも戦闘出来る準備は出来ているのだ。
「同胞を疑いたくはありませんが仕方ありません。ジル様、その時はお願い致しますね。」
工作員の事を考えてナキナの意見を採用した。
「善処しよう。」
「妾も頑張るのじゃ!」
ナキナも鬼人族の未来を守る為に張り切っている様だった。
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