元魔王様と鬼人族の巫女 2

「怯えられてしまったか。」


 目の前で燃やし殺すのは少し刺激が強かったかもしれない。


「ジル様ジル様、理由は別にもあると思うのです。」


 どう話し掛けようか迷っているとシキがそう言ってくる。


「別にだと?」


「おそらく人族自体に苦手意識を持っていると思うのです。」


 知らない大人達に囲まれて無理矢理連れ去られるところだったのだから、トラウマになってもおかしくない。


「先程襲われていたしな。」


「それもあると思うのです。でももう一つ原因があるのです。」


「ふむ、聞かせてくれ。」


 何かシキには思い当たる事がある様だ。


「ジル様が転生中の間だったので、知らないのも当然なのです。数年くらい前に人族による奴隷狩りが大量に行われたのです。」


 昔から奴隷狩り自体は少なからずあった。

だがただで狩られる訳も無く、どの種族も抵抗して防いでいた。

しかし10年前に天使族がこの世界に召喚されてしまった。


 天使族は人族の味方の様な立ち位置である。

強力な仲間を得た人族は、調子に乗って大規模な奴隷狩りに乗り出す事にしたのだ。

そんな事をすれば他種族から避けられ嫌われるのも当然である。


「成る程、それは避けられても仕方無いな。」


「ジル様は大丈夫だと伝えてくるのです!」


 主人を避けられたままにしておきたくないシキは子供達の下に飛んでいく。

すると精霊のシキとは普通に接している様だ。

馬車からも降りてきており、ジルの時と全然対応が違う。


「もう大丈夫なのです!」


 暫くしてシキが自信満々で戻ってくる。

その後ろには鬼人族の子供達も付いてきている。


「あ、あの、助けていただきありがとうございます。」


 一人がおどおどしながら礼を言ってお辞儀すると、他の皆もそれに続く。


「怖いのなら無理をしなくてもいいぞ。我も直ぐに立ち去ろう。」


 怯えさせたままにするのも可哀想なので、直ぐに離れようとする。

周囲に人の気配は感じないので、先程の奴隷狩りの仲間が隠れていると言う事も無い。


「そ、それは待って下さい!」


「ん?」


 しかしその行動は止められた。

そして皆が不安そうな表情を浮かべている。


「あ、えっと、あの…。」


 何か用があるが言い出せないと言った様子だ。

なのでジルはシキを見て、聞き出してやれと目で促す。


「何か言いたい事があるなら言ってみるのです。シキのご主人様は普通の人族とは違って優しいのです。」


 シキの言葉に子供達は小声で何かについて話し合っている。

そして意を決した様に一人の子が頭を下げる。


「ぼ、僕達を集落まで守ってもらえませんか?」


 子供達が言いたかったのは護衛をしてほしいと言う事だ。


「そんなに集落から離れているのか?」


「はい、先程の人族から必死で逃げていたので。」


 集落近くで採取作業をしていたら、運悪く人族に見つかってしまったのだ。

パニックになった子供達は集落とは反対の方に逃げてしまい、全員捕まってしまったのだと言う。


「鬼人族ならばあの程度倒せたのではないか?」


 先程の奴隷狩りは低ランク冒険者くらいの実力しかなかった。

子供ではあるが鬼人族は戦闘能力の高い種族だ。

軽々と倒せていてもおかしくない。


「人族を見ると震えてしまって…。」


 今も少しだけ身体を震わせながら言う。

元々トラウマでもあったのか、恐怖で普段の力が出せ無いのだろう。


「分かった、集落はどっちだ?」


 時間はあるから護衛をするくらい構わない。

聞くところによると集落のある方角は、帰路と同じ方角であった。

ジル達は鬼人族の子供達を引き連れて集落を目指す。


 子供達の相手をシキがしてくれているので、雰囲気はかなり良くなってきた。

ライムを可愛がったり、ジルに話し掛けてくれたりする程の仲にはなれた。


「あ!ジルさん、あの辺りです。」


 一人が進行方向を指差すが何も見えない。

だが言われた場所からは違和感を感じる。

自然すぎて逆に不自然と言った感じだ。

その一帯だけ周りと違って、常に草木が揺れたり風が吹いたりしていた。


「認識阻害の結界か何かか。」


「す、凄い。よく分かりましたね。」


 子供達は素直に驚いていた。

ジルも結界を使う事が多いので、それで分かったのかもしれない。


「人族に見つからない様に集落を隠しているんです。」


 こう言った対策をしなければ直ぐに見つかってしまう。

奴隷狩りに合う様な種族なら住処を隠すのは当然の事だ。


「それを人族の我に言っていいのか?」


「本当は駄目なのですが、ジルさんは他の人族とは違うみたいなので。」


 道中でかなり信頼を勝ち取れた様だ。

これで人族全てが悪者だとは思わないだろう。


「精霊様にも気に入られているみたいだもんね。」


「そうなのです!シキのご主人様はジル様以外いないのです!」


 精霊に認められる者と言うのはかなり少ない。

それは契約をするかどうかが精霊の性格によるところが大きいからだ。


 自分達を満足させてくれる様な相手でないと精霊は契約したいと思わないのである。

故に個々の力が乏しい人族と契約する精霊は稀なのである。


「そこで止まれぇ!」


 突然進行方向から怒鳴り声が聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る