元魔王様とシキの従魔 4
スライムはプルプルと揺れており敵意は全く感じない。
「実に弱そうなスライムだな。」
「確かに育てるのは難しそうなのです。」
二人は見た感想を素直に述べる。
スライムの中でも更に最弱と言っても、魔物である事には変わりない。
しかし目の前のスライムは魔物らしさをまるで感じさせない。
巨大な水滴がプルプル揺れているだけかの様である。
一応本当に魔物なのか万能鑑定を使って視る。
しっかりと名前はエボリューションスライムとなっており、スキルを一つだけ所持していた。
変化吸収と言うスキルで、魔物の死体を吸収する事が出来、覚えていたスキルをランダムに取得する効果があった。
この変化吸収が無限に強くなれる事に繋がるスキルだろう。
「エボリューションスライム、購入画面に書いていた通りと見てよさそうだな。シキ、従魔登録には名前が必要だぞ。」
テイマーが決めた名前を魔物が受け入れる事で、初めて主従の繋がりが出来るのだ。
「なんでもいいのです?」
「自分の護衛なんだ、好きに付けるといい。」
このスライムの主人はシキであってジルでは無い。
護衛の命名権はシキにある。
「決めたのです!君の名前はライムなのです!これから宜しくなのです!」
そう言ってシキが嬉しそうに小さな手を差し出す。
するとライムはプルプルと揺れながら近付き、シキの手を身体で包み込んだ。
これがスライム流の握手なのだろう。
ライムが名前を受け入れたので従魔登録が完了し、万能鑑定で視てみるとしっかりシキの従魔となっていた。
「おー、ムニョムニョしてて気持ちいいのです。うわっ!」
シキがライムに包まれた手を握ったり広げたりして感触を楽しんでいると、ライムがシキに抱き付くかの様に近付いてきた。
突然の事にシキは倒れ、ライムに覆い被されてしまった。
「大丈夫か?」
ジルがライムを摘み上げてシキを助けてやる。
「ふぅ、危うく従魔に圧死させられるところだったのです。」
急死に一生を得たと言わんばかりの表情で呟く。
最弱のスライムであるライムにあっさり殺されそうになるシキもまた最弱の精霊と言えよう。
今ここにおそらく世界で一番弱い、最弱コンビが生まれた瞬間である。
「ライム、シキの近くにいる時は注意するですよ。」
ライムはプルプルと揺れており、了承した様な雰囲気を感じる。
そして申し訳無さからか、若干落ち込んでいそうである。
「そしてこちらがシキのご主人様のジル様なのです。ライムも自分の主人の様に接しないと駄目なのですよ。」
その言葉にもプルプルと揺れて了承した様な雰囲気が伝わってくる。
「ほう、しっかり理解している様だな。」
ジルも指を出してみるとシキと同じく身体が包み込んでくる。
スライムと戯れた事なんて無かったので、ふにょふにょした感触がなんとも不思議である。
「しかしこのままだと魔物と出会えば直ぐに死んでしまいそうだな。」
なんせジルがうっかり踏んでしまっただけでも死にそうな程弱そうなのだ。
魔物と戦う前に日常生活のちょっとした事で命を落としそうである。
「だ、駄目なのです!ライムは絶対に死なせないのです!」
「そうならない為に早速強化が必要だな。」
何か手頃な素材がないか無限倉庫の中を探す。
こんな事ならば全て売却してしまったゴブリンの素材を少しくらい残しておけばよかったと後悔した。
「うーむ、…ドラゴンの素材ならばあるがどうする?」
「いきなりそんな素材を吸収させるのは怖いのです。」
ドラゴンの素材を吸収するのは反対の様だ。
確かにエボリューションスライムの初期段階で世界一の素材とも言えるドラゴンの素材を吸収させるなんて事は想定されていないだろう。
ライムが吸収している最中に爆発でもしてしまったら目も当てられない。
最初なのだから慎重にやるべきだ。
「確かにな。ならばこれに頼るとするか。」
シキの仕分けで封印行きとなっていた一冊の本を無限倉庫から取り出した。
ジルが取り出したのは、スキル収納本と言う魔法道具である。
魔王時代に一人になってから魔法道具の研究をしていた時に作り出した物だ。
魔法道具としての性能が凄まじいので、シキの判断で世には出せない封印物にされているが、身内で使う分には問題無い。
「これなら手っ取り早く強化が可能だ。」
スキル収納本は文字通りスキルが収納されている魔法道具の本である。
この魔法道具は二つの効果を持っている。
一つ目が所持者が殺した対象のスキルをランダムに一つ取得すると言う効果だ。
今のところ魔物にしか使っていないが、これは人にも効果はある。
二つ目は収納されているスキルを他者に与える事が出来ると言う効果だ。
この世界では魔法の研究は進んでいるが、スキルに関してはあまり知られていない。
取得条件、所有数の上限、種類、どれも分かっていない。
そんなスキルを取得して分け与えられる魔法道具があると知れ渡れば、確実に面倒事が起こると言える。
なので身内でしか使えない魔法道具なのである。
「ライムが最強になれるのです!」
シキも仕分けの時に効果を知っているからこそ封印物としたのだが、自分達で使う場合は構わないらしい。
「だが問題もある。」
「問題なのです?」
特にデメリットがある魔法道具でも無いので、シキは不思議そうに尋ね返す。
「ああ、魔法道具を使ってもライムがスキルを取得出来るかは分からない。」
スキルに関してはジルも魔王時代に研究をしていた。
そして所有数の限界に関して一つの仮説に辿り着いた。
それは魔力量との関連性である。
スキルは魔法と違って、使用時により多くの魔力を必要とするものが多い。
なのでそもそもスキルを扱えるだけの魔力が無ければ取得出来無いのではないかと言う可能性が浮かんだのだ。
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